第175話 嘉久は漫画にはまったかもしれないらしい
皐月たんとの電話を終えて、嘉久の家に向かった。
お手伝いさんに案内されて、午前中通された部屋に入る。
嘉久は、ソファにどっかりと越しかけて漫画を読んでいた。
ん?読んでるのか?
パラ、パラ、パラ、パララ、パラララ、パラ。
ページをめくるのが早すぎやしませんか?
もしかして、該当ヶ所以外は飛ばしてるとか、そういうこと?
何という勿体ないことを!
せっかくの漫画なのに、読まないとか、読まないとか……。
嘉久、君とはどうやら考え方が違うようだな。
「嘉久様」
とりあえずだ、皐月たんが情報収集に協力してくれることを伝えようと声をかける。
パラ、パラ、パラ。
無視ですか?
「嘉久様、聞いていらっしゃいますか?」
返事がない。
こりゃぁ、ぴくりとも動かないし、聞こえていて無視している類じゃないな。
漫画に集中しすぎて、聞こえないパターンだ。
まったく、そんなに漫画に集中すると、電車にのっていても、下りる駅を通過したりしちゃいますよ!
事業の始業ベルが聞こえなくて、せんせいに本を取り上げられますよ!
ご飯だって言ってるのが聞こえないの!とママを怒らせますよ!
……。
はい、すいません。
それは、私です。
前世の私ですね。
一つ忠告しておくと、トイレで漫画を読んじゃいけない。
トイレを占拠して、家族に迷惑かけるからね。……って、嘉久の家にはいっぱいトイレありそうだから関係ないか。
って、そんなことはどうでもいい。
さっさと皐月たんのこと伝えて私も漫画を読みたいんだ!
「嘉久様、」
大丈夫。
私は、漫画に集中して聞こえない人間の対処方法をにも詳しいんだ!
それは、目の前の漫画を取り上げる。それに尽きる。
嘉久が手にしていた漫画を掴んで、取り上げた。
「なっ、今いいところなんだぞ、何をする!」
ん?
今いいところ?
嘉久が今読んでいたページに目をやる。
レースの漫画だ。F1じゃない、子供用のカート?
少年が一人、カーブで前を行く車を追い抜こうとしているところだ。白熱した展開。
確かに、いいこころだね。
おう、この少年とライバル?の少年、なかなかおいしい組み合わせではございませんこと?おっと、いけない。私は15歳以下のキャラクターBLは趣味じゃありません。
っていうか、このシーン、まったく社会貢献と結び付かないんだけど……。
もしかして、嘉久、あのスピードでページをめくりながら、ちゃんと漫画を漫画として楽しんでいたってこと?
義久の座るソファの前に積み上げられた漫画。
書店員に頼んで見繕って持ってきてもらう漫画は、巻数がばらばらじゃなかった?
なんで、1巻から順番に14巻まで並んでいて、その隣には、16巻から23巻まで並んでいるの?
手にしている漫画の表紙を見る。15巻。
え?
まさか、社会貢献の情報収集関係無しに、漫画を読んでるわけ?
驚いて義久の顔を見る。
「ごめん、集中していて、璃々亜の声が聞こえなかった……」
「いえ、構いませんわ」
私も過去によくやってたからね。
それよりも、義久、もしかして漫画好きに成長してくれるのかな?
漫画ばっかり読んでって言われるような人間に進化してくれたら、めちゃくちゃうれしいんだけど。
兄に「食事中くらい、漫画を読むのをやめろよ」とか言われちゃったりなんかして。
私が「そうですわよ。食事が終わればゆっくり読めますわ。食後に一緒に読みましょう?」とかなんとか言ってみたりして……。
ぐふっ。
「まったく、璃々亜はいつからこんなに漫画好きになったんだ」
とかあきれる兄に、「嘉久様の影響ですわ」と言ってやるんだ。ぐきゃきゃきゃ。
完璧だ。
これで、自然な流れで漫画を読む璃々亜が出来上がる。
まぁー、なんて素晴らしいんでしょう!
ナイスですよ、嘉久!褒めて使わす!
このまま思うまま、漫画好きに成長してくれ!
「で、何だっけ?こっちの漫画はチェック済みだ。まだなのは、あちらに」
「先ほど、皐月さんに情報収集のことを尋ねてみたんですわ。勉強の息抜きになるから協力してもよいと返事をいただきました」
「本当か?」
「ええ、それで、明日の午前中に情報を収集してほしいことを伝えに伺うことになりました。嘉久様には、調べてほしい情報の一覧などをまとめていただきたいのですわ。それから、気をつけて欲しい点などございましたら、私から伝えますので、おっしゃってくださいませ」
……。
嘉久、席を立つとどこからかノートパソコンを持ってきた。
「璃々亜、1冊ずつ順に、付箋をはさんであるヶ所を開いて持ってきてくれ」
「はい、わかりました」
漫画を一冊取り、付箋部分を開いて嘉久に渡す。
嘉久は、それを見ながら、ノートパソコンにパチパチパチと何かを打ち込む。
「次だ!」
ふえ?もう?
「次!」
うわー、すごいスピードで、漫画から調べて欲しい要点をノートパソコンに打ち込んでいく。




