第169話 クレーンゲームをするらしい
1階がゲームセンター、2階から5階がカラオケというビルの前にいます。
おお、ゲームセンター懐かしい!こっちの世界では、どんな景品が並んでるんだろう。クレーンゲーム、よくやったなぁ。
チラチラとクレーンゲームに並んでいる景品を見ようと見ていたら、田中くんに見ているのがバレた。
「白川は、やったことある?っていうか、ゲーセンなんて来ないか。やってみる?」
ふえっ?
そんなにものほしそうな顔してました?
「ちょっと両替してくるよ」
田中くんが、私の返事も聞かずに店の奥に両替機を探しに行った。
その隙に、たくさん並ぶクレーン台の中身をチェェーーーーーック!
ネズニー関係のキャラクターグッズ。うん、定番だよね。
子供に人気の番組のキャラクターグッズ。妖怪系、ロボ系、モンスター系、ペット系、魔法使い系、ヒーロー系。うん、定番定番。こっちはあまり詳しくないので、前世との微妙な違いまでは分からない。同じように見えるけど、どこかが違うんだろうなぁ。
あっ、都キャプテンのフィギュア!
って、違う、また、あのアイドルグループのやつだ。
それにしても、そっくりなんだよなぁ。一度、本物はどういう感じなのか見てみたいよ。
「白川って、D-SPORTのファン?」
そうそう、D-SPORTだ。なかなか覚えられない。えっと、都キャプテンにそっくりな人の名前、何だっけ?
首をかしげる。
「あー、知らないか。この人形、D-SPORTっていうアイドルグループのケントをモデルにしたやつだよ」
クレーンゲームの囲いの中に一つだけ置かれた30センチほどのフィギュアを田中くんが指さした。
そうだ。ケントくんだったっけ。
「じっと見てたけど、こういうの好きなの?」
もちろん好きだよっ!
だって、都キャプテン(偽)なんだもんっ!部屋に飾りたいさ。そんでもって、兄の声でアテレコして楽しみたいのだよっ!
あー、兄に、録音頼んじゃおうかな。例えば、英語の発音見本とかなら録音も不自然じゃないんじゃない?
あと、目覚ましの声とか?……あやしいか、それは流石に。
んじゃぁ、電話の会話を録音……。本当は、兄と嘉久の会話を録音したい。
何とか、録音する方法はないものか……。なんで、録音って、盗聴っぽい響きが付きまとうんだろう。
「写真撮るよ~」は割と気軽にできるのに、「声録るよ~」は怪しさ満載……。
ぐぬぬっ。げせぬ。
返事をしないでいると、田中くんがため息をついた。
「白川、こういうタイプの男性が好みなのかぁ……」
「え?」
あ、そうか、そうか。
このフィギュアは都キャプテンじゃなくて、実在するアイドルグループの男性だったっけ。
「いえ、その、どこかで見たことがあるなぁと思って見ていただけですわ。それで、思い出したのですが、芽維さんが確かこの方のストラップを持っていたのですわ」
「え?鈴木が?アイドルなんて、興味あったかな?どちらかというと……」
田中くん、芽維たんの趣味嗜好を知ってるの?
少し胸の奥が痛んだ。
嫉妬だ。
この気持ちは嫉妬。
私の知らない芽維たんのことを知っている田中くんに。
田中くんに色々知ってもらっている芽維たんに。
あ、あれ?どっちに嫉妬してるんだろう、私。
「ペットボトルに付いていたと言っていましたわ」
「あー、そうか。それで持ってたわけか。鈴木は確か、あんまりアイドルに興味はなかったはずだからなぁ」
納得顔の田中くん。
何だろう。寂しい。
「で、白川は、どれか欲しい物ある?」
欲しい物か。
都キャプテン(偽)が今更欲しいなんて言えるわけもないし。
えーっと、あとは何があった?
あ、初音ミックンだ。緑の髪したミックンは、アンドロイドっていう設定が受けて、BL界でちょっとしたブームになったんだよなぁ。
感情を吹き込むとか記憶が消去されるとか、なぁんか切ないBL物語が色々と作られてる。
こっちの世界では初暗ミックンっていうのか。
って、違う違う。
こんなオタク丸出しの物を欲しいとか言えないし、さらに言えば、家に持って帰ったら兄や嘉久になんと思われるか!
えっと、普通の物って何だろう?
パンピーっぽい物……やっぱりネズニーキャラクターが無難だよね?
さっきあったなぁ。
簡単にネズニーだなと思って通り過ぎたけれど、そこに戻ってケースの中を見る。
ネズニーキャラクターのぬいぐるみが山と積まれている。
「歓迎会を思い出しますわね」
ちょうど、皆で耳をつけた、ねずみのキャラクターのぬいぐるみもあった。
ケースの中から視線を田中くんに戻すと、田中くんはポケットから小銭を取り出して投入。
ゲームスタート。
クレーンが左右上下に進み、下に降りて、ぬいぐるみをつかんで持ち上げる。
「あっ」
持ち上がったぬいぐるみがすとんとクレーンから落ちて、思わず声が出る。
「白川もやってみるか?」
田中くんが、もう一度お金を入れた。
え?私?
自慢じゃないけど、前世でぬいぐるみ一つに、お札が何枚も飛んでいくほどの腕前ですよ?つまり、へたっぴ。
あ、でも、璃々亜的には、下手な方がいいんだよね?お嬢様、初めてクレーンゲームを体験するの巻……みたいな?
ウィーンとアームを動かす。クレーンが下に降りて、ぬいぐるみの端にクレーンが当たって押し下げる。
ああ、全然真ん中からずれちゃった。
「おおっ」
田中くんが声を上げた。
あれ?ぬいぐるみ二つ、紐とかが引っかかって絶妙なバランスで持ち上げられた。
不安定な状態で、クレーンが出口まで二つのぬいぐるみを運んでいく。
ぼとっ。




