第168話 璃々亜は行ったことがないらしい
「どこで、作業しようか?」
ラーメン屋を出てから田中くんが聞いてきた。
「ファミレスでいいかと思ったんだけど、飲食以外ご遠慮くださいっていうみたいでさ」
あー、うん。最近はフリードリンク1杯で何時間も居座って勉強してる人がいるから、張り紙してる店も多いよね。
「図書館とかじゃ、話ができないだろうな」
そうですね。図書係の仕事の相談とはいえ、図書館でおしゃべりは迷惑ですよねぇ。
「はは。ごめんな、白川。ラーメンのことばっか考えて、その先のこと考えてなかったよ」
「ふふふっ。おいしいラーメンが食べられたので、全然構いませんわ」
だって、私も、ラーメンのことしか考えてなかったからね。
かろうじて、筆記用具を忘れずに持ってきたけれど……。
「ああ、そうだ、時間で部屋借りる場所なら、遠慮なく長居もできるし話もできるよな」
ん?
時間で部屋を借りる?
時間単位でお金を払うといえば、漫画喫茶とかあるよね。でも、あそこもあんまりおしゃべりには向かないし。個室って言っても部屋というほどのあれじゃないよねぇ?
「白川は、行ったことないかもしれないけど……」
え?
私が行ったことない場所で、部屋が借りられるところ?
「行こうか」
田中くんが、手を差し出してきた。
何だろうと思って、田中くんの顔を見上げる。
田中くんは、ふっと少しだけわらって、差し出して手を、私の手に伸ばして握った。
「また、さっきみたいなことあるといけないから」
田中くんは、私の手を引っ張るようにして歩き始めた。
あー、そうだね。さっきみたいに変な男に絡まれないようにするには、手をつないで歩いてればいいよね。
まさか、わざわざカップルに声かけたりしないだろうし。
って、カップルじゃないけどね!
田中くんと私は、カップルじゃないけどね!
……。
ショーウィンドウに、私と田中くんの姿が映っているのが目に入った。
はたから見ると……手をつないで仲良く歩くカップルだね。
でも、違うんだよ。
残念だけど……。
ん?残念?
あー、そうだ。残念だよね。
璃々亜ってば、孤高の女帝だもん。彼氏いない歴イコール年齢間違いない。
さらに、前世の年齢も合わせると、彼氏いない歴……ぎゃーっ!もうすぐ半世紀とか、やめて!ってなるわけで。
彼氏ができたわけじゃないから、残念だって思っても仕方がないの。
……。
ん?彼氏がいなくて残念?
え?あれ?
前世で、そんなこと思ったこと一度もないよ?
お目当てのサークルさんの新刊が落ちて残念とか、野球中継で今日のアニメの放送は無いと知って残念とか、色々残念なことはあったけど……。
彼氏がいなくて残念なんて思ったこと一度もないけど。
なんで、残念なんて思ったんだろう?
だいたい、誰かと付き合ったりして、その人が攻略対象の一人だったりして、ヒロインと揉めたりしたら……。
破滅ルートに乗っちゃうかもしれないんだよ?
誰とも付き合ってない状態っていうのは、ある意味、破滅回避のための安全ルートなわけで。
残念なんて思うなんて……、へ、ん、だよね?
再びガラスに映った、田中くんと手をつないでいる璃々亜に問いかける。
ガラスの中の私は困ったように微笑してる。
なんだか、自分の気持ちが、よくわからなくて混乱。
うん、こんな時はあれだ。別のこと考えよう。
取り合えず、田中くんが探しているとこはどこなのか。
部屋を借りるんだったよね。
パッと見た路地の奥に、1つの看板が見えた。
HOTEL。
え?
部屋を借りるって……。
時間単位で借りるって……。
ま、まさか?
た、確かに私、前世も含めて、行ったことないけど……。
いや、あの、その……。
ちょっと、ダメだよ、いくら他に場所がないからって、だって……。
高校生の男女が、ラブホとか、目的が違ったって利用しちゃだめだよっ!
何かあるわけじゃなくたって、やっぱりその、……。
うっ、うわぁー、手に汗すごいよ、私。
やばい、やばいって。例え田中くんが下心なくたって、私の脳味噌の妄想力、半端ないんだよ?
あれやこれや妄想しまくって、精神がガリガリ削られること間違いないから!
無理、無理、精神的に、耐えられないって!
「ここでいいかな?」
「ダメです!」
田中くんがあるビルの前に立ち止まった。
「あ、やっぱり、カラオケボックスとか、入りにくいかな?」
え?
カラオケボックス?
ごらんいただき感謝です。
璃々亜さん、脳内でいろいろ考えすぎて、じたばたしまくってます。
落ち着け。




