第151話 田中くんは指を舐めるらしい
部活が終わり、芽維たんと二人で昇降口まで歩いていくと、田中君がいた。
「お疲れ!」
田中くんが、ニッコニコ笑顔を見せてくれる。
私は、鞄の中に入れていた2つの紙袋から、1つを取り出す。
一方の紙袋には、先輩の作った激うまマカロン。
もう一方の紙袋には、オレンジ色の、璃々亜泡立ての微妙マカロンが入れてある。もちろん、田中くんにあげるのは、激うまマカロンの方だ。
何で、全部上げないのかって?そんなの、食べ比べられたくないからに決まってるじゃないですか!
あ、違う、兄と嘉久の分も残しておいてあげないとね?……わ、忘れてたわけじゃないよ?……。
私が2つ紙袋を持っていたのを見た芽維たんが「あっ」っと声を上げた。
「そうだ、私も立花ちゃんにあげる分を、分けて入れればよかった。ごめん、田中くん、璃々亜さん、ちょっと紙袋をもう1枚もらってくるから、待ってて!」
芽維たんはそう言うと、スカートを翻し、廊下を掛けて行った。
見える、見えちゃうから!
お嬢様は、廊下は走らないんだよ!
じゃなかった、校則で廊下を走るのは禁止されてるんだからね!くそ真面目な兄に見つかったら大変だからね!
前、漫画を学校に持ってきたAさん(架空の人間)に対して、校則を破るような人間はと、すごく怒ってた。
もし、走ってるところを兄に見つかったら……。
「校則を守れないような人間と付き合ってはいけません」
とか兄に言われそう。ぎゃーっ、芽維たん、走っちゃだめーっ!
いや、待って、もしかすると、もしかして……。
廊下の曲がり角とかで、兄にぶつかる。袋から飛び出して、マカロンが散乱。
「大丈夫か?すまない」
「いえ、私こそ、その、急いでよく前を見ていなかったから……」
「怪我はないか?」
「ええ……」
「ああ、君は璃々亜の友達の……1年生だったな。もしかして知らなかったのか?校則で廊下を走るのは禁止されている。これからは気を付けるように」
「はっ、はい、すいませんっ」
「ああ、マカロン、ダメにしてしまったな。何かお詫びをしなくちゃな」
「いえそんな、私が悪いんですから、そ、それにお菓子部で作った物なので……」
「君が作ったのかい?」
落ちたマカロンを一つ拾って口に入れる兄。
「うん、上手いな」
……的な、ヒロインと攻略対象が近づくイベントが発生しているかもしれない。
ああ、相手は兄とは限らないけど。散乱するカラフルな手作りマカロン……絵になるよ!乙女ゲーム向きだよっ!
芽維たんに何もハプニングが起きませんように……。
「へぇー、今日はマカロンだ!」
芽維たんの心配をしていると、田中くん袋の口を開けて、マカロンを一つ取り出した。
その手には、オレンジ色のマカロン。
「ありがとうな!」
と言って、オレンジ色の微妙なマカロンを口に近づける田中くん。
「待って、間違えましたわ!あの、そちらの紙袋は私が作ったほうで、あまりおいしくないので、あの、田中くんには先輩が作ったおいしいのをもらってきたんです!」
田中くんが口元近くまで持って行ったマカロンをひっつかんで、口に入るのを阻止する。
「白川が作ったの、失敗には見えないけど?」
田中くんは、にっと笑うと、私の手から、マカロンを口に入れた。
うわっ、微妙マカロン食べられたっ!
ひっ。マカロンにはさんであったクリームが、押し出されて人差し指に付いた。田中くんは、そのクリームを、ぺろりとなめとった。
「うん、旨いよ」
ぎゃーっ、な、な、な、なめ、なめ、なめられた!指を……。
あああああ、ああ……恥ずかしいっ。
だ、大丈夫だよね、手、綺麗だよね?変な味してないよねっ。
思わず赤面する私の顔を見て、田中くんが、焦った声を出す。
「ご、ごめんっ、い、いつもの癖で……」
「え?いつもの癖?」
何?
田中くん、女の子の指をいつも舐めてるの?
……か、か、彼女とか?過去のとか今のとか……。
あれ?田中くんって、彼女いるんだっけ?居てもおかしくないよね。だって、田中くん、顔こそは普メンだけど、トータルするとすごくいい男だもん。
何で、今まで田中くんに彼女がいるかもしれないって考えなかったんだろう?
そうだ!攻略対象の一人かもしれないと思っていたからだ!
攻略対象ってことは、ヒロインと結ばれるわけだから、彼女がいるはずないと、そう思い込んでたんだ。
彼女……いるのかな……。
「手で何かつまんで食べるときに、指舐める癖があるんだよ……意地汚いだろ?」
田中くんが恥ずかしそうに顔をゆがめた。
「あ、ああ、ポテトフライとか食べながら指に付いた塩を舐める、あれですか?」
ほっ。
そうか、いつもの癖って、そういうことね。
私も、お菓子食べてる指、よく舐めるタイプだわ。
「そうそう、ポテトフライとか、ポテチとか、油系の食べると必ず指舐めちゃうんだよなぁ。あ、ハッピーターソとかも。指にいっぱい塩付くからさ」
「分かりますわ!」
海苔塩のポテチなんて、ちょっと舐めたくらいじゃ指に付いた海苔が取れなかったりするんだよねぇ。
ハッピーターソは、できれば包装紙についた粉も舐めたいとか思うもん。あれ、おいしいよねぇ。
「分かる?白川も、手つかみで何か食べた後、指を舐めることあるのか?」
おっと、私は、お嬢様璃々亜でした。
「いえ、おいしい物を食べた時に、思わずスプーンに付いたクリームまでしっかり舐めてしまうことがありますから……」
は、ははは。と笑ってごまかす。
「そ、そんなことよりも、田中くん、袋を交換してくださいませ!」
鞄から、先輩のつくった激うまマカロンの入った紙袋を取り出す。
田中くんは、私が差し出した紙袋を押し返した。
そして、間違えて渡してしまった方の紙袋を、自分の鞄の中にさっさと押し込んだ。
「こっちでいいよ。すごく美味しかったから、もっと食べたいし」
「あ、ありがとうございます、でも、先輩の作ったマカロンの方がもっと美味しいですよ?」
田中くんは、ニコッと笑って、私の頭ぽんっと手を置いた。
「じゃぁ、おいしいのは白川が食べたらいいよ。僕の好みは白川の作った方だから。僕も白川も満足できてよかったね?」
ん?そうなのか?
少しねっちりしたマカロンが田中くんは好みだったのか。だったら、まぁ、いいかな?
「ごめ~ん、お待たせ!」
パタパタと芽維たんが戻ってきた。
ん?帰りも走って来たってことは、ドッキリハプニングはなかったのかな?
「これ、立花ちゃんに」
芽維たんは、2つ持っていた紙袋の一つを田中くんに渡し、もう一つを鞄にしまって、田中くんと並んで帰って行った。
いいなぁ。芽維たんは、田中くんと仲良く帰れて。
おっと、私には兄がいました。ボッチで帰宅じゃありません。何を寂しがっているんでしょう!
いつもありがとうございます。
田中くん、計画的犯行の臭いがぷんぷんします(笑)




