兄視点 努力を怠らない兄である。
本日本編お休みの日ですが、閑話を投下いたします。
「璃々亜さんとお付き合いさせてください!」
頭を下げ、つむじを無防備にこちらに向けている男。
名前は何と言ったか……。
「君は、野球部と言ったな?」
「ええ。そうです。部活ではエースの座を任されています!」
うちの学校の野球部は甲子園にも出場したことのある強豪だ。そのエースを1年から任されるというのは、立派といえよう。
だが、だがだ!
「勝負だ!勝負に勝てば、璃々亜との付き合いを許そう」
それがどうしたというのだ。
甲子園出場程度で、世界一の璃々亜と付き合おうなど、片腹痛いわ!
「勝負……ですか?」
「ああ、そうだ。君が私から三振を取れれば君の勝ち。1本でもヒットを打てば私の勝だ」
「え?」
「なんだ、自信がないのか?」
「いえ、そうではなく……それでいいんですか?野球部員でも、なかなか僕からはヒットは……」
私は、何かまだ言葉をつづけようとする男の横をすり抜けて、グラウンドへと向かった。バットを手に取り、バッターボックスに立つ。
2、3回素振りをした後に構える。
男が、マウンドで土をならした後、私に声をかけて1球目を投げた。
きれいな投球フォーム。ボールはネットに当たって跳ね返った。
「ワンストライク」
私が言うと、男が首を横に振った。
「今のは少し右にそれていました。ボールです」
審判もキャッチャーもいない。観客すらいないのだ。
適当にストライクだと言って三振を取ってしまえばいいのに……。実直な男だ。
だが、璃々亜との付き合いを許すつもりはない。
ボール、ストライク、ファール、ボール、ファールと続いた。
次にストライクを取られたらアウトで負けてしまう。
男は、腕を大きく振りかぶり、今まで以上にスピードの乗ったボールを投げてきた。
「うわぁっ!」
自分でもみっともないくらい大きな声を出してしまった。
時計の針は、朝の6時。
背中には汗がびっしょり。
「いやな夢を見た……」
食堂で、朝食を運んできて早間さんに声をかける。
「蜂川さんに、朝食のあとにバッティングセンターに乗せていってほしいと伝えてくれないか?」
「かしこまりました」
璃々亜が、首をかしげる。
うっ。ただでさえ可愛い璃々亜の、このしぐさと無防備な表情は、リーサルウェポン並みの破壊力がある。
「お兄様、今日はバッティングセンターに行かれますの?この間までは、テニスに熱心でしたのに……」
「あ、ああ。備えあれば憂いなしというからな……」
ありがとうございます。
正夢なの?
特殊能力で何かを感じ取ってるの?
こうして、兄は、璃々亜を守るためにいろいろな能力を身につけるのであった。




