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第47話―金属の野獣―

 乾いた発砲音が数回こだまし、ビルの谷間で反響した。

 数名の警官が拳銃を片手に空を仰ぐ。

 周囲に動く物は無く、車線を斜めに跨ぎ、乗り捨てられた自動車の群れ。

 市街地の中心部。

 週末の夕刻は、普段なら喧騒で賑わっているはずだった。

 だが、人の影は無い。

 正確にいえば()くなった。

 遠くから微かに聞こえる声。逃げ惑う市民が発する悲鳴とどよめき。

「マジか?あれ」

「早く逃げようよ!」

「警察何やってんだ!?」

 口にする言葉は様々だが、その全ての人々の視線を釘付けにしている物。

 全長は3メートル程。人型。

 艶(マット)しのブラックで全身を覆う外観。

 ロボットと形容するにはいささか有機的なデザインのそれは、高層ビルの屋上のヘリに手をかけ、爪先をコンクリートの壁面に突き立てながら体を固定すると、ゆっくりと周囲を伺う。

 パラパラと舞い落ちるコンクリート片が風に吹かれ、乱雑に停車する車の屋根に降り注ぐと、盛大に跳ねて傷をつけていく。 

 異様な存在は、つい数秒前まで眼下の路上に立ち、警官達から砲火を浴びていた。それに対しなんら微動だにせず、数発の銃弾をあっけなく全身の装甲で弾くと、背中にしょったバックパックから爆炎を吐き出し、一瞬で舞い上がり上空へ。

 その際、数名の警官は吹き飛ばされ、虫のごとく四散している。

 よろよろと起き上がった警官達は、為す術もなく天を仰ぐのみ。

 手にするリボルバーの弾丸が、数百メートル上の目標に届くはずもなかった。

「こんな豆鉄砲じゃどうにもならん!本部に連絡して自衛隊に出動を要請しろ!」

 語気を荒げながら部下に指示を出す年配の警官。

 平素ならば穏やかな男だったが、悪夢と見紛う事象の連続に我を失う。

 半ば腰を抜かした若い警官は、ヨタヨタと背後のパトカーに身を乗り入れると、センターコンソールの無線機に手を伸ばした。

「あっ」

 ふと、車外から聞こえる気の抜けた声。その声が自らの上司のものだと気付くと、無線機を片手にしたまま背後に送る視線。表情を強張らせた上司が、目を見開いたまま虚空を見つめていた。

 パトカーと車外の警官達を黒い影が覆う。

 数秒と経たず、鼓膜を破壊する程の轟音が鳴り響く。

 パトカーを中心に、放射状にアスファルトがえぐれ、陥没した。パトカーを取り囲んでいた数名の警官が、爆風で再び転がっていく。

「……あわわっ」

 尻餅を着きながら、砂ぼこりが舞い上がる視線の先に、文字通り腰を抜かす。

 先程上空へ舞い上がった人型の巨大な物体が、瞬きの間に落下していたのだ。

 パトカーは無惨にひしゃげ、年配の警官と若い警官の姿は跡形も無い。

 アスファルトが四方八方へ吹き飛び、周辺のビルの外壁にぶつかって弾けた。

 窓ガラスが次々に割れ、逃げ惑う市民の頭上に降り注ぐ。黄色い悲鳴があちこちから聞こえ、一帯の空気を更に殺伐とさせた。

 直径50メートル程に落ち窪んだクレーター。その中心で、幼児が好んで買う雑誌の付録についてくるボール紙のごとく、ぺしゃんこに潰れてしまったパトカー。

「ヒーッ!」

 残った三人の警官は、皆一様に赤子と見紛う姿勢で、よちよちと四つん這いで散り散りに逃げ出した。

 その様子を遠方のビルの屋上から撮影していたカメラマンとキャスター。

『……と、とても目の前で起きている状況の説明がつきません……け、警察官が……』

 マイクを持つ手は震え、動揺からまばたきの回数が増える。

 


「ヒガッチ、どうすんの?このままじゃ死人が増える一方だよ」

 病室のテレビに映るライブ映像に、木下の表情が次第に曇っていく。この青年らしからぬ、憂いを帯びた瞳。

「我々の部隊がなんとかする」

 ゆっくりと立ち上がると、眉間に深々と皺を刻む比嘉。

「なんとかなんのか?あんなもん、まともに戦って勝てる相手じゃねーぞ」

 増山の言葉には答えず、比嘉は再びスマホをポケットから取り出した。

『あぁ、俺だ。そっちの部隊を病院に廻せ。尋問は中断だ……あぁ、分かってる』 

 視線を窓の外へ向けると、胸元のポケットから片手でタバコを取り出し、器用に口へ咥えながら険しい表情を作り、歯を剥く。

 ジッポの硬質な金属音を響かせ、紫煙を吐き出すと、増山と木下の顔を順に覗きこんだ。

「お前ら、大人しく寝てろよ」

 太い指を向けながら言い放つと、踵を返して部屋を出て行く。

 ドアの外には、比嘉と揃いの制服に身を包んだ、屈強な体格の部下数名の姿が垣間見えた。

「……だってさ。どうする?増山さん」

「どうするったってお前。あんなガ○ダムみたいなもん、今の俺らにはどうにもできねーだろ」

 増山は憮然とした表情で頬を歪めると、布団を跳ね除ける。

「だよね」

 木下は病室内を見渡すが、当然のごとく二人の私物などあろうはずがない。

 携帯どころか、衣服や財布も没収されている。

「とにかくこっから出ないことには話になんねー」

 ベッドの下に揃えてあったスリッパに爪先を突っ込むと、増山はのっそりと立ち上がった。

 そのまま窓から眼下を見下ろす。

 ──高い。

 部屋は四階に位置していた。

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