第43話―天と地を穿ち―
金髪の少年が“気弾”を撃ち出したのとほぼ同時。
がら空きになった懐目掛け、一瞬で接近した増山は低い姿勢から跳ね上がると、全身全霊を込めた正拳突きを放つ。
少年は瞳孔を拡大させ、その拳に視線を送った。
全神経を屋根の上にいる木下への攻撃に集中していたかに見えた……しかし。
「がっ!」
接近した増山が悶絶し、息を吐き出す。
正拳突きが少年の体に到達する寸前、増山の鳩尾へ、カウンター気味に捻りこまれながら蹴りが叩き込まれていた。
少年は両足を肩幅程に開き、しっかりと床を踏みしめた体勢から、上半身は屋根の上の木下へ攻撃を加え、下半身からは増山への攻防一致の動きを見せた。
「んだと……」
蹴りの瞬間。少年の異様な程太い脚部から蒼白い光彩が煌めく。
カウンターに加え、気弾と同質の力が付加されていた。
人間離れした怪力。そして、カウンターと正体不明のエネルギー。
全てが集約され、増山の鳩尾を襲う。
いかに強化装甲服が鉄壁の防御力を誇るとはいえ、その攻撃は圧倒的だった。
増山の意識が飛ぶ。
強烈な衝撃はスーツを通して増山の背中を突き抜けた。
「ぐふっ!」
まるでワイヤーで一気に引っ張られたのではと錯覚するほど、増山の巨体が軽々と吹き飛んでいく。
その一連の動きと時を同じくして、少年は気弾を天井目掛け撃ち出す。
道場内部が白昼のごとく光に包まれた。
蒼白い光が半月状を成し、天井に開いた穴目掛け突き進む。
コンマ数秒とかからず天井に直撃し、その上の屋根を貫きながら爆裂した。
轟音は道場を揺らし、地鳴りとなって一帯を震わせる。
「キャー!」
離れにある狭い事務所では、怪我をした門下生や小見が息を潜めていた。
「なんなのよ!」
事務机の下で頭を抱え、声を荒げる小見。その傍らには、ぶるぶると震えながら小見にしがみつく、拓海と呼ばれた眉毛ボッサボサの少年の姿が。
一旦は外へ様子を見に行った小見だったが、あまりにも常軌を逸した光景を目の当たりにし、すぐさま事務所へ舞い戻っていた。
怪我人を含めた門下生達を連れて逃げようとも考えたが、一番近い民家までかなりの距離がある。ましてや外へ不用意に出ようものなら、どこぞの戦場と錯覚する程の攻撃に巻き込まれない保証など何処にもない。
未だ救急車の到着もなかった。
金髪の少年が撃ち出した気弾。
道場の天井に空いた穴を更に拡大し、夜空を容易に望める程にした。
雨と共に木材や瓦が粉々になり舞い落ちていく。
小気味よい音を四方八方に響かせながら、床の上を残骸が跳ね回った。
「ぐっ……くっそ」
吹き飛ばされた増山は、壁面に体を打ち付けると力なく床の上に転がる。
「つえぇ──」
横隔膜の活動が弱まり、呼吸が出来ない。ヘルメット越しに見える敵の姿がぼんやりと揺らぐ。
残骸が降りしきる中。
金髪の少年は両腕を下ろし、天井を見上げていた。
木下が先刻までいたとおぼしき屋根は消失し、残った数本の太い柱だけが無惨に削りとられ、弱々しくその姿を晒す。
「さて、刀のお兄ちゃんは消し飛んだみたいだし。後はおじさん。おじさ~ん」
歯を剥く少年。
少し高い声色は、おどけた幼子そのもの。
白い歯はベッタリと赤い血に染まっていた。
砕けた顎は端正な顔立ちを斜めに崩し、ホラー映画さながらの異様さを見せている。
ゆっくりと歩みを進め、増山の元へ近づいていく。
道着は煤と血に汚れ、どす黒く変色していた。
(畜生、息ができねぇ……)
横たわる増山の瞳から次第に光が失われ、全身から力が抜ける。
もはや少年にとって、まな板の上の鯉に等しい。
増山の位置まであと数歩という所。深く膝を落とし、身を屈めた。
床がミシミシと音を立て沈みこむ。
「バイバイ、おじさん」
全身の筋肉が収縮し、爆発的パワーを発する。
床板を踏み抜きながら跳躍した。
大穴が穿たれた天井へ頭部まで到達すると、右足を突き出し、増山目掛け蹴りを放つ。
その軌道は、増山の喉元を正確に狙う。
発火。そう見紛う蒼白い煌めきが脚部に宿り、それが必殺の蹴りだと見てとれた。
直撃すれば即死。
だが、増山に回避する余力は残されていない。
空中に光の残像を引きながら降下する少年。
「!」
突如、その背後から爆音がこだます。
その発生源は天井ではなく、床。
先ほどの残骸が上方へ放射状に飛散していく。
「不意討ち、御免!!」
声の主、縁の下から床板をぶち抜き現れたのは木下。
気弾の攻撃を察知した瞬間、屋根から滑り降り、紙一重で躱していたのだ。
そのまま道場の縁の下へ潜りこみ、三国の指示を受けながら、ヘルメットに内蔵された熱感知有視界を使用し、道場内にいる金髪の少年の位置を把握。強化装甲服の力を最大限発揮させ、脱兎のごとく跳躍していた。
「三国さん!どんぴしゃ!」
木下の声が弾む。
その手に光るのは和泉守兼定。
諸手に握りながら真横に寝かせ、切っ先を金髪の少年の背後へ突き立てていく。
速く、凄烈な突きだった。
身を翻そうとする少年だったが間に合わない。
鋭利な白刃が、淡く白い輝きを放ちながら、隆々とした分厚い筋肉に覆われた背中を貫く。




