第18話―激突―
屋上の魔法使いが再び杖を頭上に掲げた。
焦げ茶色のローブ、その頭部を覆うフードからは中の表情を確認することは出来ない。薄っすらと不気味に発光する赤い両眼が、暗い影の中で揺らめいている。
校庭に着地した木下が、すぐに身を翻えし屋上に視線を送った。そして、再び膝を折り跳躍する。
魔法使いの掲げた杖の先端。
増山の目には、それが校庭から走り去るマローダーを指し示して見えた。
「くっそ!」
表情を歪める増山の予想通り、杖から青白い放電が起き、禍々しい邪竜のように空中を一瞬で駆け抜けていく。狙いすました雷の攻撃が、マローダーの屋根に直撃したかに見えた。
「ぐうっ!」
空中で雷鳴が轟き、周囲に電撃が弾けた。苦悶の声を発しながら地面に叩きつけられる木下。再び身を呈し、マローダーに向け放たれた雷を防いだのだ。
「大河ぁっ!」
増山が悲痛な声を上げた。その視線の先でうつ伏せに横たわる木下だったが、ゆっくりと起き上がる。
「ははっ、さすがに痛いや」
強化装甲服のヘルメット越しに、木下は場違いな程穏やかな声で呟いた。
「増山さん、どうしてここに?」
「話は後だ。俺を抱えて跳べるか?」
校門を抜け、その巨大な車体を小さくしていくマローダーの後姿を見送りながら、二人は並んで校舎の屋上を見据えた。
躊躇している暇は無い。
すぐにでも魔法使いは次の攻撃に移るだろう。
「生身で奴らと戦うなんて無茶だよ」
「一人であんな化け物と戦うってほうが無茶さ」
不敵な笑みを浮かべる増山を見て、木下はすぐに行動に移った。
増山の身体を背中に担ぐと、なんの躊躇も無く身を屈め、今日何度目かになる跳躍を敢行した。
「うおっ!?」
強烈な加速Gに、流石の増山も頼りない声をこぼす。
一瞬で屋上の更に上空まで舞い上がると、両足と右手を突き出し、コンクリートの床に着地する。衝撃で砕けた破片が周囲に散乱した。木下の背中から飛び降り、受け身をとる増山。揃って立ち上がった二人の目前に、三つの影が立ち塞がる。
「ただのコスプレじゃねーんだよな」
増山は半身の構えをとると、三者の中で、もっとも人間らしい"勇者"を見据える。
白人の少年。
金髪に碧眼。
朱色の鉢巻きが風にたなびき、全身に纏った黄金色の甲冑が、まだ上がりきっていない陽光に照らし出され、木下と増山の目を細めさせた。
「増山さん、気をつけて!勇者も魔法を使うよ!」
増山の隣で、左手に持っていた和泉守兼定を両手で強く握り直し、中段に構える木下。
「冗談だろ……」
動揺を満面の笑みで押し隠し、横目で木下をチラリと確認する。
僅かな静寂の時を終わらせたのは、騎士だった。
腰に提げた両手持の剣を抜き放つと、上段に構える。そして、その巨大な鎧の背後から、不気味な詠唱が響き始めた。
(まずい!いつぞやの“氷結魔法"を使われたら、強化装甲服で守られている僕はまだしも、生身の増山さんは耐えられない!)
焦燥にかられる木下の心拍数が跳ね上がる。
「はぁっ!」
思考より先に体が動いていた。
和泉守兼定を真横に寝かせ、騎士と魔法使いの間に立ち、詠唱を続ける勇者目掛け突きを放った。ほぼ同時に、騎士が木下へ向かって突進しながら、両手持の剣を袈裟懸けに降り下ろす。
「おおっ!」
とても現実世界の光景とは思えない空間。その空気を震わし、増山が鬨の声を上げた。
四肢に気力を充実させ、解放する。
飛び蹴り。
4メートル程の距離を一瞬で跳躍し、騎士の頭部、格子状の面当てに叩きこんだ。
強烈な衝撃が加わり、弾ける。190センチはあろう長身の増山、そして騎士の巨体がぐらつく。斜め後方へ倒れかかる騎士と、蹴った反動で飛び退く増山の間隙を縫って、木下の“三段突き"が炸裂した。




