第17話―瞬きの中で―
時間が停止したのかと錯覚させる程、虚空に舞い上がった少年二人の身体はゆっくりと上昇し、青空に溶け込んで見えた。
しかし、四肢を力なく開きながら、気を失っているであろう少年達は、それぞれ左右まったく別の方向目掛け落下していく。
瞬間。
その場でしゃがみこんだ木下が、両足を蹴り出し、跳躍した。黒い残像を引きながら上空へ飛び出す。砂塵が尾を引き、放射状に空中へ舞った。
「す、凄い……」
両手で口を塞ぎ、目を見開く美嶺は、木下の姿を凝視していた。
木下が広げた両腕。
その右手の指先に、少年の着ているシャツの襟首が引っ掛かり、空中で引き寄せ、キャッチする。
「一人!」
誰に言うとでもなく叫ぶ。
瞬時に首を返し、落下するもう一人の少年に視線を送った。
「うおぉーっ!」
声を張り上げ、自らの落下する体の軌道を、校舎の壁面へ向け転換する。
(間に合うか!?)
再び両脚を屈伸すると、全力で校舎の壁面を蹴りつけた。強化装甲服により何倍も増幅された脚力により、円状に陥没するコンクリート。
その刹那。
強化装甲服のヘルメット越し。嘲笑する勇者の両眼と、木下の視線が交錯した。
「くっそ!」
思わず狼狽する。
再度、魔法使いが、高々と杖を頭上に掲げたのだ。
その先端に、周囲から集約し始める静電気。青白い、微かな光が次第に巨大なうねりとなり、ジグザグに空中を走った。
コンマ何秒。
瞬きの中で、木下の身体を雷が襲う。強化装甲服は絶縁コーティングが施されている。だが、抱えてる少年の身体はひとたまりもないだろう。
木下は、魔法使いが杖を掲げたのとほぼ同時に、少年の身体をゆるやかに放り投げていた。その先には落下するもう一人の少年の姿が。
電撃を受けたまま、二人の少年が落ちていく方向へ向け自らも降下していく。
強化装甲服に身を守られているとはいえ、雷の衝撃により視界が一瞬暗転していた。
「ちっくしょー!!」
空中に飛散した放電の中、木下が絶叫する。
間に合わない。
美嶺の目から見ても、少年二人が地面に激突するのは明白に思えた。
「ひっ!」
両手で顔を覆う美嶺。細い指先が小刻みに震えていた。
その脇を、一台の巨大な車が校舎目掛け猛然と駆け抜けて行く。
屋上から眼下を一望する勇者は、口元に浮かべた笑みを崩さない。しかし、異変に気付いたのか、眉間に深々と線を刻む。
広い校庭内に、大排気量の車が轟音と共に突進してきたのだ。
「大河ぁっ!!」
続けざまに、よく通る低い声が響き渡る。少年二人が今まさに落下しようというその先。巨大な車体がテールスライドしながら停車し、間髪置かずに運転席から一人の屈強な男が飛び出し、猛烈な速さで地上を疾走した。勢いはそのままに、踵からスライディングする。
「うおらっ!!」
気合いと共に、空中で絡み合う少年二人の身体を、自らの身を呈しキャッチした。
「増山さん!!」
木下の声が希望に満ち、弾む。
「おうっ!!」
白い歯を見せると、地面に後頭部を押し付け安堵の表情を浮かべた。少年とはいえ、二人合わせれば80キロ以上はあるだろう。並の男ならば、落下の衝撃で内臓に損傷を負ってもおかしくはない。だが、日々研鑽を重ね、鍛え上げられた増山の肉体は、それに見事耐えてみせた。
「大河ぁ!気を抜くなぁっ!」
屋上に向けた視線から、魔法使いが更なる攻撃に移ることを察知した増山が、野太い声を張り上げる。そのまま立ち上がると、巨大四駆目掛け駆け出した。両脇には軽々と少年を抱えている。後部座席から飛び出した小見が、脚の痛みも忘れ、増山から少年二人を受け取った。
「出しますよ!」
独楽鼠のような速さで、三国が運転席に移乗すると、後部座席のドアを小見が閉めきる前に、アクセルを床まで踏みつけた。
ホイルスピンしながらマローダーの太いタイヤが砂を巻き上げ、強烈なトルクを発揮し、加速する。
次の瞬間、屋上の魔法使いから二撃目の雷が放たれた。




