俺、地低人《ちていじん》とかいうのに遭遇したらしい。
優一郎「清歴? 漢字で「西」と書いて西暦じゃなくて…?」
男A「そうだよ。知らないの?」
男B「おいおい、西暦が使われていたのはもう50年も前の話だぞ。歴史の授業で習ったはずだろう?」
二人とも呆氣に取られたように俺を見つめた。
優一郎「50年前、何があって元号が変わったんだ?」
男B「ったく…、何も知らねえのかよ」
男A「まあいい、簡単に教えてあげよう。元号がまだ西暦だった時代、従来の単純作業や肉体労働などのブルーカラー・事務職などホワイトカラーの職種が全て超高度に発達したAIに代替され、人類全体がクリエイティブな分野の職種へ移行する「人類大移行」って出来事があったんだ。
だけど、旧体制にしがみつき反旗を翻す人々もいて、今からちょうど50年前、旧体制派と新体制派の間に大規模な戦争が起きたんだ」
優一郎「へえ…」
二人はさらに会話を続ける。
男A「そして戦争に勝利した新体制派は「新人類となり、元号を清歴に改元。あらゆる単純労働や事務作業から解放された、創造性を活かし好きなことだけで生きていける、ハイスペだらけの地上の楽園を築いたのさ。つまり、ここにいる僕たち…、いや世界中のみんなが新人類とその子や孫なんだ」
男B「イジメや差別・格差や貧困・犯罪や戦争なんかとも無縁で、何か起きたとしても大きな問題になる前にAIが解決し、フィードバックや改善をしてくれるんだ。本当にハイスペ万歳、AI様様だぜ」
優一郎「それで、戦争に負けた側はどうなったんだ?」
男A「地上から絶滅したらしいよ。巷じゃあその生き残りである、漢字で「低い」と書いて「地低人」と呼ばれるUMAがいるなんて都市伝説が、まことしやかに囁かれてるけどね」
と、その時…。
一人が急に血の氣が引いたように顔を青め、ビクビクと震えながら遠くを指差した。
男B「お、おい…、あ、あれを見ろ………‼︎」
振り向くと遠くの方に人影が見える。俺のいた世界では誰もが一度は見たことがあるであろう、一時期大バズりして話題になった人物画のような風貌だ。
男A「あ、あれは確か、都市伝説サイトで見聞きしたことがある…。 黒縁メガネ、寝癖のついたボサボサの髪、ギザギザした前髪、猫背、前に突き出た唇、虚ろな目…‼︎」
俺のいた世界でネットスラングと化した「チー牛」の特徴そのまんまじゃないか。チー牛らしき謎の人影がボソッと呟く。
???「あ、あ、あの…、さ、3種のチーズ牛丼特盛り 温玉付きを…、だ、誰か…」
男B「そ、そして、好きなものは3種のチーズ牛丼特盛り 温玉付き…‼︎ 間違いないっ…‼︎」
好きなものが3種のチーズ牛丼特盛り 温玉付き、やっぱりチー牛か。何を驚いているんだこの二人は? チー牛がそんなに珍しいのか?
???「チ、チ、チギュう…?」
男A&B「う、うわあぁぁぁぁっ‼︎ 「地低牛人」だあぁぁぁぁぁっ‼︎ 」
二人は突然慌てて走り出した。
優一郎「はあ、地低牛人? どっからどう見てもチー牛だろ?」
男A「チー牛⁉︎ 何だよそれ、見たことも聞いたこともないよ‼︎」
男B「チーズだか牛丼だか何だか知らないけど、とにかく早く逃げろ‼︎ 3種のチーズ牛丼特盛り 温玉付きの具にされて食われるぞ‼︎」
優一郎「何言ってるんだよ‼︎ チー牛が人を食う訳ねぇだろ⁉︎」
チー牛に何を怯える必要があるのだろう…、そう思って俺はスルーしていたが…。
牛人「チ、チ、チィィィィィッ⁉︎ チギュアァァァァァァァ‼︎」
そいつは突然走り出し、俺たちに向かって襲いかかって来た。ただならぬ氣迫を感じ寒氣がした俺は二人を追いかけ、全力で走って逃げることにした。
優一郎「ヤバそうだ、やっぱり逃げよう‼︎」
その一部始終を見ていた周囲の人たちも、地低牛人に恐れ慄き一斉に逃げ出し始める。
感覚的には大体1kmくらい走った頃だろうか、地低牛人を撒いたことを確信した俺たちは両手を膝につき、一旦立ち止まった。
男B「ハァハァ…、本当にいたのかよ地低人…」
男A「ハァハァ…、ただの都市伝説だと思っていたのに…」
優一郎「ハァハァ…、さっきの地低牛人ってのは、何なんだよ…? 地低人ってのは一体…?」
男A「さあ、僕たちにだって分からないよ」
男B「学校でもニュースでも教えてもらってないし、都市伝説サイトでしか見聞きしたことないからな」
そう言いながら、俺たちがふっとため息をついて一休みしようとした時………。
牛人「チヒィッ………。チギュアァァァァァァ‼︎」
優一郎・男A&B「うわあぁぁぁぁっ‼︎ また地低牛人だあぁぁぁぁぁっ‼︎ 」
建物の隙間から地低牛人がぬうっと現れ、また俺たちに襲いかかった。それにしても何なんだ、この地低牛人ってのは?
顔や体型・身体的な特徴自体は普通のチー牛なんだが、黒いボヤでもかかったかのようなオーラを身に纏い、目は獲物を狙う猛獣のように黄色く光り殺氣立ち、一目でヤバいのが分かる。
それに、チー牛なのにやたら足が速く指をピタリと縦にくっつけながら、ターボババアかよって突っ込みたくなる勢いで全力疾走してくる。
そんなことを考えていた矢先、俺は段差で足を引っ掛け転んでしまい、地低牛人に追いつかれ二人とはぐれてしまった。
牛人「チィーッヒッヒッヒ………」
地低牛人が口角を引きつらせてニヤニヤと笑いながら一歩…、また一歩と…、俺にジワジワ詰め寄る。
もう逃げられない…、俺は一体どうなってしまうんだ………? そう思い目を瞑った瞬間だった…。
???「優一郎さん、伏せて下さい‼︎」
優一郎さん…? この声、どこかで…?
牛人「チギャアァァァッ‼︎ ま、まぶチィィィィィィッ‼︎」
突然、何者かがライトを明るく照らすと、地低牛人は両腕で顔を覆い隠すようにして怯んだ。
???「ふぅっ…。危ないところでしたね、優一郎さん…」
振り向くとそこには、SFモノのアニメやマンガに出てきそうな、サイバーパンク風の美少女が立っている。
俺の窮地を救ってくれたこの子は、一体何者なのだろうか…⁉︎




