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召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?  作者: 浅海 景


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失踪

いつものようにエリーの部屋に向かうと、不愉快な人物が扉の前に立っていた。それでも無視するわけにはいかず、頭を下げて挨拶する。


「……おはようございます」

「何だ、それは。聖女は部屋に閉じこもって誰も通さないのではなかったのか」


皮肉そうな口調にますますうんざりしたが、淡々と返答することにした。


「温かいお飲み物とスープをご準備しました。保存食ばかりでは健康に障りますから」


中身を見せればようやく納得したのか、オスカーは扉の前から横にずれる。職務に忠実だと考えればそこまで腹は立たないかもしれないと思えたのは部屋に入るまでだった。


「エリー様?」


ベッドの上に姿はなく、室内には人の気配が感じられない。エルヴィーラはトレイをテーブルに置いて、奥の洗面室へと向かったがエリーの姿はどこにも見当たらない。


「おい、何があった?」


思わず肩が揺れたのはオスカーの気配に気づかなかっただけでなく、彼がエリーに何かしたのではという疑念が頭を掠めたからだ。

だが聞かれた問いには答えなければとエルヴィーラは事実を口にした。


「エリー様がいらっしゃいません」

「いないだと?――は、そんな馬鹿なこと……」


嘲るような口調だがその顔色が青ざめたのを見て、先程抱いた疑念は晴れたものの問題は何一つ解決していない。焦ったようにクローゼットやベッドの下などを確認するオスカーを横目に、エルヴィーラは昨日のエリーの言動を反芻していると、小さな違和感に思い当る。


(最初エリー様はもう一枚シーツが欲しいとおっしゃったわ)


普段は毎日替える必要はないと言われて二日に一度の頻度で交換している。

だが昨日は部屋に籠るからという理由でシーツを一枚準備するようにと言われたのだ。エリーの希望とはいえ、流石に使用人がする仕事を聖女にさせるわけにはいかない。交換する時ぐらいは部屋に入れてもらえるよう頼むとエリーはあっさり了承したため、それ以上気に留めることはなかったが、今になってそのことが引っ掛かる。


(エリー様は時折予想外のことをおっしゃるけれど、大抵のことには理由があるから)


オスカーの注意を引かないようベッドに近づき、そっと布団をめくると寝台に掛けられているはずのシーツが消えていた。


(姿を消したエリー様、シーツが必要だった理由……)


思えばいつもなら理不尽な命令には抵抗を示すのに、やけにあっさりと軟禁状態を受け入れた。さらには籠城することでエルヴィーラたちをも遠ざけようとしたと考えるのは穿ち過ぎだろうか。

推測が徐々に輪郭を帯び始めにつれて、エルヴィーラの中で嫌な予感が増していく。


(大人しく部屋に籠る振りをして、エリー様はシーツをロープ代わりにして王宮から抜け出した……)


いくら何でもそんな危険な真似をするだろうかと自分の考えを否定しようとしたが、エリーならやりかねないと思えてくる。


「――ずっと部屋の前にいたのに何故いなくなる!そこのお前、聖女の所在に心当たりはないのか?!」

「あの方がどこにいるのかお尋ねしたいのはこちらのほうです」


自分の考えをおくびにも出さずエルヴィーラが平坦な声で答えると、オスカーは小さく呻いて八つ当たり気味に怒鳴った。


「聖女が見つかるまで部屋で大人しくしていろ!この件については他言無用だ」

「それでは失礼いたします」


今はエリーの居場所を突き止めることが最優先事項だ。エルヴィーラは早々にこの場から離れて自室へと向かう。

部屋から抜け出せても王宮の出入りはそれなりに厳しいはずだ。まだ王宮内に留まっているのかもしれない、そんなエルヴィーラの淡い願いはすぐさま覆されることになる。


「エルヴィーラさん!」


部屋に戻ったエルヴィーラを迎えたのは泣き出しそうな表情のキャシーだった。どうかしたのかと問う前に、嫌な臭いが鼻についた。

視線を巡らせればベッドの脇に左腕を押さえた男がうずくまっている。明らかに厄介な予感しかしないと眉をひそめると、不意に顔を上げた男と目があった。


「……ジャン様」


密かにエルヴィーラが苦手にしている男が、薄目を開けてこちらを見ている。僅かに後退しかけたエルヴィーラに気づかず、キャシーは必死な声で訴えた。


「怪我をして意識も曖昧なのにディルク様を呼んでくれの一点張りで……。無理だとお伝えしたらこんな状態で騎士棟に向かおうとするんです。不審者扱いされると言っても聞いてくれなくて……」

「……命に別状はない。薬が完全に回る前に……副団長の元へ、行きたいだけだ。止めないでくれ」


傷口を押さえているのかと思えば、よく見ればわざと圧迫して痛みを与えているようだ。睡眠薬のようなものでも盛られたのかもしれない。

そう考えたエルヴィーラは意を決してジャンのもとに歩み寄る。確証があるわけでもなかったが、エリーに協力した者がいるならばそれはジャン以外に考えられなかった。


「エリー様はどこですか?」


僅かに大きく瞠った目は自分の考えが正しかったことを教えてくれる。

そしてエルヴィーラはエリーに起こった出来事についてジャンから詳しく話を聞くことになった。

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