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◆書籍化進行中◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第四章

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84 小さな食材

「ねえディアン、これ卵だよね!」

「あぁ」

  

ちら、と見たディアンは全然興味を示さず、魔石を物色している。

何の卵だろう。革のようにやや弾力があって、鳥よりもトカゲ類っぽい気がする。

冷えて小刻みに震える手で、慎重にそれを取り上げた。

グレーがかったそれは、本物の石のように手の平に重く、僕の凍てついた手ではむしろ温かく感じるくらいで……。

そっと両手で包み込んで、そのずしりとした感触に孵化が近かっただろうことを思った。


「もしかすると、生きてるかも……?」


ふと、そう考えたのは、食べられかけた僕が助かったからだろうか。

鳥ならダメだろう。でもトカゲなら、案外魚の腹の中で低水温から守られていたかもしれない。

生きているなら……。


「……燃えるともしび、火の命。熱き光で身の内を照らせ――僕は癒やす、火の回復!」

「はぁ? 何やってんだ」


振り返ったディアンが、まじまじと僕の手元を見つめて、生ぬるい視線を寄越す。


「なんで卵を回復してんだ……?」

「もしかして、生きてるかもしれないと思って」

「食えるモンか分からねえだろ」


違うよ?! 鮮度を保つためじゃなくってね?!

……とは言え、食べもしない卵を、僕は一体どうするのか。

咄嗟に回復してしまった手前、そこらへ放り出してしまうのも憚られて、迷った末にポケットへ入れた。


「ギルドで、何の卵か分かったりしない?」

「そんなもん、ギルドより食材店だろ」

「そ、そっか……」


どうしよう。これがもし、すっごく凶暴な蛇の卵だったら。

でもさすがにポケットサイズだもの、生まれたてで僕の手に負えないってことはないだろう。

せめて毒蛇でないかだけ、確認してもらおうかな……。

これが生きているなら、僕が助けちゃったもの、どっちにしろ責任を取らなきゃ。


せめて、面倒を見る方向で責任をとれますように、と考えながらくしゃみをひとつ。

段々震えが押さえられなくなって、ガチガチ歯が鳴った。

ディアン、寒くないだろうか。

もうすぐ解体作業も終わりそうだし、収納から大きな桶を取り出して水を貯めた。

慣れた調子で火魔法を調整し、お湯を作る。

ボウルにお湯を汲めば、言うことを聞かない手のせいで盛大にぱしゃぱしゃ零れていく。

 

「ディアン、温かいのかけるよ!」


屈んで作業するディアンに、そうっとかけると、大きな背中がビクっと跳ねた。

 

「ッ?! ……は? なんだそれ」

「お湯だよ。寒いでしょう? 少し温まって、すぐに着替えるといいよ」


湯気のたつお湯を指し、再びせっせとディアンにかけた。

もうもうと湯気が上がって、なんとなくホッとする。


「……寒いのは俺じゃねえ」


溜め息を吐いたディアンが、僕の手からボウルを奪ってお湯を汲む。


「熱っ?! あちち?!」

「そんな熱くねえ」

 

てっきり自分にかけると思いきや、ばしゃあ、と僕の頭からお湯をかけられて仰天した。

目をこする間に、またばしゃあとやられて、あまりの熱さにじたばたした。

熱いはずないのは、作った僕がよく分かってるんだけど。でも、冷え切った身体には、むしろ痛いくらい。 

「い、いいよ、僕は大丈夫! せっかくお湯をかけたのに、ディアンが冷えちゃう!」


もっと大きな大きな桶があれば、身体ごと浸かれるのにね。

ボウルを掴む大きな手をディアンの方へ押しやると、舌打ちされた。


「来い」


ぐっと胸ぐらを掴んで引っ張られ、どんとぶつかった。

そして、降り注ぐお湯にほうっと息が漏れる。

これは、いい方法だ。

ディアンを伝ったお湯が、2人の間でほんのり留まって落ちていく。


「これなら2人ともあったかいね!」


ぎゅっと体を寄せると、ディアンが温かい。

 

「寄るな、てめえは冷てえんだよ」


ディアンが引っ張ったのに。だけど、振りほどこうとはしないから。

ゆっくり、流れ落ちていく温かな液体に目を閉じた。

徐々に温かくなる体は、桶一杯のお湯がなくなる頃にはきっと、すっかり震えが止まっているだろう。


「これも、魔法か」

「そうだよ。便利でしょう?」

「他所で使うなよ」


ああ、攻撃魔法以外は、普通じゃないんだっけ。

はぁい、と返事しながら、遠慮なくディアンに寄り掛かる。

ふいにかくりと膝が折れた。

 

あっ、と開けたはずの目が、半分しかまぶたを持ち上げられない。

当然のように支えたディアンが、僕を覗き込んだ。


「おい……? まさか」


ゆさゆさ揺らされ、しょぼつく目で見上げる。


「ごめんね……僕、あんまり夜更かし……得意じゃなくって」

「嘘だろてめえ?! 今、この状況で?!」


この状況だから、じゃない?

ぬくぬく温まりだした体から、ふにゃふにゃと力が抜ける。

そうだよね、僕今日すごく運動したし。緊張もしたし。

そして何より、今もう深夜。仮眠したから何とかなっていたけれど……。


安堵して、強い腕に支えられて、もう何も怖いものがない。


「クソッ! 起きろ、とりあえず着替えろ!!」

「うん……」


それはそう。

びしょ濡れで寝ようとしている自分が、そして大焦りしているディアンがおかしくって、んふふと笑った。

ガクガク揺さぶられながら、僕はともすれば旅だとうとする意識と格闘を始めた。

いや、実際戦っていたのは、僕じゃなくてディアンかもしれないけれど。


感想ありがとうございます!

とても嬉しいです……!!返信がなかなかできずすみません(´;ω;`)

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― 新着の感想 ―
卵が気になる! それにしてもルルア、やっぱり冒険者無理じゃない? 夜番出来ないとねぇ(^_^;)
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