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◆書籍化進行中◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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77 無垢と嫌悪

……なんだか、向かい合って座るのって新鮮かもしれない。

普段は、二人共ベッドに腰かけてるから。

頬杖をついたディアンは、見るともなしにカウンターの方へ視線をやっている。

鋭い視線が、今は少し和らいで。それだけで、その橙は随分温かそうに見える。


「……なんだ」

「あ、ううん。『肉とパン』って、どんな料理なの?」


じいっと眺めすぎたらしい。ふいにこちらを向いた視線とかち合って、慌てて言葉を探した。


「そのままだ」

「そりゃそうだろうけど! 何のお肉でどんなパン? お肉にしたって調理法は色々あるじゃない?」

「焼いたやつ。その時次第だ」


ああ、なるほど! 『シェフのおすすめ:本日のお肉とパン』って感じかな。それだと、毎回楽しみにできていいね!


「はいよ、今日はラカウの肉と麦パン! 運がいいねえ!」


僕、目の前にいるよ?! びっくりするような大声で告げたお兄さんが、ドンとお皿とカトラリーを2セット置いて去って行った。

大きなお皿には、本当にお肉とパンだけ。


「わあ……」


なんと効率のいい料理だろう。厚く切って焼いただけのお肉が、湯気をまとってでん! と鎮座する。そして、隣にはちょっぴりお肉の脂に浸かっている丸いパン。それ以上でも以下でもない、お肉とパン。

非情に潔い、茶色しかないお皿の上。


「シンプルだけど……とってもおいしそう! 良かったねディアン、運がいいんだって!」

「馬鹿じゃねえの。毎日そう言うに決まってんだろ」

「そうなの?! 商売上手……」

 

ディアンのぬるい視線を受け流し、目の前のお皿を見つめる。

いや、ディアンはそう言うけど。多分、今日は運がいいよ。だってこんなにおいしそうだ。

 

荒く挽かれた塩の塊が、見る間にお肉の表面に溶けていく。黒い粒は胡椒だろうか。

こんがり見事な焼き色に脂の照りがお肉をつやめかせて、こくりと喉が鳴る。

素早くカトラリーを手に取った僕は、ディアンを見てすぐさまそれを元へ戻した。

そして、師匠の拳ほどもあるパンを上下ふたつに割る。結構、固いパンだ。


「こう、だね!」


真似をしてパンで挟むようにお肉を掴むと、思い切りはみ出ているお肉を口で迎えに行った。

すくい上げるようにガブっといくと、なんだか動物にでもなったような気分。

思ったよりも硬かったお肉を引っ張って噛みちぎると、力の入った手の下でパンが潰れた。

きめの粗いパンに、じわわと肉汁が染みていくのが分かる。

なるほど、食べ方も効率がいい。

もしゃもしゃ噛む顎が疲れてくるけれど。


「――もうすぐ、規制は解除される」

「え、そうなの?」


ついお肉とパンを食べるのに熱中していたところで、ディアンがそう言った。

無駄話どころか、必要なことさえ言ってくれないディアンだ。この話はきっと重要事項に違いない。

急いで、パンを飲み込んで見上げた。


「解除されたら、外の依頼を受ける」

「あ……本当? やった!!」


思わずテーブルに着いた両手で、お皿とカトラリーがカチャンと音をたてる。

それ、僕も一緒にってことでしょう? 今、そう言うってことは。


「遠くに行くの?!」

「てめえが野営できるなら」

「できるよ!」

「やってから言え。ひとまず、数日の距離から様子を見る」

「うん!」

 

どうしたんだろう、ディアンが急に僕との冒険に積極的になった気がする。

やっと、パーティらしくなってきた。

僕は、満面の笑みを浮かべて、大きくパンに噛みついたのだった。



 

……どう見ても浮かれているルルアに、ディアンは居心地悪く視線を逸らした。

なんでこいつは、こうなのか。パーティメンバーはこの俺しかいねえのに。

誰がどう考えても楽しくはないだろう。


……なのに、思っている。

こいつは、俺がそう言えば喜ぶはずだ、と。


ぎりっと奥歯が音を立てる。

俺といるなら、話をしているなら、楽し気に笑うのは俺とのことに違いない、と。

自然とそう考えていた。

そうでなかったことに、微かな衝撃を受けるほどに。

そうであったことに、奇妙な満足を覚えるほどに。

気持ち悪ぃ。

口の中で呟いたディアンは、射殺すつもりで床の染みを睨んだ。

 

このままでは、駄目だ。

懐いた犬の興味を、他へ向けさせる。

俺へ懐くのは、それほどに、ルルアの世界が狭いからだ。

そして、己の世界も。

ふいに、明るい窓の外と揺れるカーテンが、遠く光る海が、脳裏に浮かぶ。

そして――ベッドに横たわった空っぽの老骨が。

脂汗が浮かぶ。

呼吸が、浅くなる。

違う。あれは俺ではない。俺には、長い先がある。


彷徨わせた視線の中、相変わらずパンと格闘しているルルアが映った。

その瞳が、見事なまでに煌めいている。

人間は、こんな顔ができるのか。そう思った。

きっと、こいつの中には、俺がひとつも持っていないものが詰まっている。

だから、あの時決めた。

ルルアと居れば、きっと俺も分かると思ったから。


雪解け水のように透き通る瞳が、見つめるディアンに気付いてにっこり笑う。

嬉しい、以外の感情を一切含まない瞳。

邪気しかない自分の笑みを思って――ふと昨夜を思い出した。

 

『こいつ……危ねえ。俺より簡単にソッチ側に行くんじゃねえか?』


背筋の寒くなるような感覚。

嫌だと思った。自分は、とうに染まっているくせに。


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