表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/69

63 分かること

珍しく、僕が見守る中で眠りに落ちた顔を眺めて、そっと立ち上がる。

足音を立てないよう師匠の部屋を出て、久しぶりの自室へ向かった。


あちこちに傷はあったものの、大きなダメージと言えるようなものはなく、ほうっと息を吐く。

ただ、あれだけ動いたのだもの。きっと熱が出るだろうし、薬を飲ませておいた。

凄いな、師匠は。僕だったら、秒ももたずに食べられていただろうに。

あの身体で、何度も攻撃を避けて。

ヴェルさんを見ても分かる。師匠が、全盛期にどのくらい強い冒険者だったのか。


師匠の部屋、窓のすぐ下にはヴェルさんがいる。

きっと、感じるだろう。その存在感、魔力の温かさを。

堪えきれない笑みが浮かぶ。

ねえ師匠、とびきりのお薬が来てくれたね。


あんな師匠を見たのは初めてだな、と思い返したところで、思わず顔を覆った。

目を丸くして僕を見る、師匠の顔。

苦笑して視線を落とした、表情。


「僕……どうしよう」


どう考えても、言っちゃいけないことを言ってしまった。

分かっていたのに。知っていたのに。

幼児じゃあるまいに、怒りに任せて、ごめんなさいではすまないことを。

暗い部屋の中、力なく背中で扉を閉めて、溜息を吐く。


「僕……酷い人間だ」

「何の話だ」


思いもよらず声が返って来て、文字通り飛び上がって側の棚にぶつかった。

シェイクされている心臓を押さえて、何とか笑う。


「ディ、ディアン。起きてたの? びっくりした……」


起きてるも何も、むしろ、すっかりディアンがいることを忘れていた。だって、僕の自室に人がいるなんてことがなかったものだから。

運び込んだソファのせいで、床がほとんどなくなってしまった室内で、ディアンが窓辺に座っている。

ゆっくりソファに移動したディアンを見て、僕も隣に腰かけた。

ちら、と僕を見たディアンが、いつかの夜のようで首を傾げて見上げる。

そして、ハッとした。


「あ、あのね。僕……怒ってたでしょう」

「ああ」


こくり、喉を鳴らす。

本当だ。僕、こういうことをディアンに言ってないかもしれない。

ううん、ディアン以外にも、誰にも。

本当だ。これって、中々言えるものじゃないんだ。

カサカサになった唇を舐めて、目を泳がせて、誤魔化そうとする僕を振り払って口を開く。


「その、それで。僕……師匠に酷いことを言ったから。だから、どうしようかと思って。だって、謝ってすむことじゃない」

「どこに、謝ってすむことがある」

「え?」


どういうことだろう、と目を瞬かせると、ディアンは不機嫌そうにぼそりと告げる。


「そういうの、うぜえ。謝ったからって、どうにかなると思うな」


じ、とディアンを見つめて言葉を探る。

ディアンは、一生懸命僕に伝えてくれているから。


「あ――そっか。ごめんねは、どうにかしてもらうためじゃないね」

「……」


にこっと笑った僕に、ディアンが意外そうな顔をする。

大丈夫、分かったよ。


「僕、ごめんねって言うよ。ディアン、ありがとう」

「は? ……どう受け取って礼を言ってんだ」


フン、と鼻を鳴らしたディアンが、どこか気まずげに視線を揺らす。

下手くそだなあ。そんなに伝わらないと思っていたなら、もうちょっと伝わる言葉で言えばいいのに。

くすっと笑って、軽くなった胸から息を吐き出す。

明日、ごめんねと言って。そして、大好きって言おう。そうしたら、師匠は『ごめんね』を片付けなくてすむ。


静かな部屋の中に、外からいろんな音が入って来る。

暗闇に慣れた目に、月明かりが明るいほどで。

……あんなことがあったとは思えないほど、今はもう、静かだ。


「――酷いとは、思わねえ」


うつら、としかかった時。低い声が闇に紛れるように零れ落ちた。

ばちっと開いた目で、窓の外を見るディアンを見上げる。


「何もないのが、イイわけねえ。空っぽには、ならねえ。必ず何かが、残る」


確信しているような声音が不思議で、その橙を見つめる。

まるで『その時』を、残った『何か』を、知っているみたい。

尋ねようと口を開きかけて、閉じた。

ディアンのしっかり閉じられた唇が、それ以上は漏らさないことが分かるから。


「そっか……。ディアンは、そう思うんだ。じゃあ……ちょっとは、よかったかも」


えへ、と笑うと、ディアンが意地悪な顔をした。


「中々いい啖呵だった。『未練を抱えて死ね!』か」

「そっ、そんなこと! 言ってな……言って、ない……」


尻すぼみになる声と、しおしお小さくなる僕。

ああ僕、なんてことを。

でも。それでも。


「俺は、いいと思うけどな?」


にや、と笑うディアンがあからさまに小馬鹿にしていて、涙目で睨みつけた。


「ひどいよ! 僕、真剣なのに!」

「痛て」


思い切り胸元にたたきつけた拳は、難なく受け止められ、ぺちっと申し訳程度の音が鳴る。

もう知らない! と憤慨してベッドへ飛び込むと、頭から布団をかぶった。

こんなに腹を立てているのに、どうしてか、涼やかな胸の内に余計に腹が立つ。


そして、みるまに忍び寄る睡魔と格闘していた僕は、ディアンの小さな声が聞こえなかった。


『いい、っつったんだ。後悔より、ずっと』




「――あと、これね! これを売っていたお店が、また凄くってね、びっくりするくらい――」

「お前は全部同じ感想だな。もっと語彙を増やせ」

「ルルア、くだらねえこと言ってねえで早くしろ」


師匠に言われたくないんですけど?! お土産について駆け足で説明しているっていうのに、師匠は聞き流すし、ディアンは急かすし!

事あるごとに睨み合う橙と琥珀を見て、溜息を吐いた。

少しは、打ち解けたと思ったんだけど。どうにも、この二人は相性が良くないらしい。


「てめえ、誰のおかげで町まで帰れると」

コイツ(ヴェルグラース)だろ。別にアンタの使い魔でもねえ」


どこか生ぬるい視線を送っているヴェルさんと視線を交わして、ディアンを引っ張った。


「分かったから! 行こっか」


本当は、もっと滞在したかったんだけど……。今回の魔素災害について、ドラゴンまで出て来たことの報告をしなきゃいけないそうで。

師匠が行くはずがないので、僕らが代わりに取り急ぎ帰ることになってしまった。

お土産は、ヴェルさんが持ってきたドラゴンの片翼。こ、こわ……。


ヴェルさんが送ってくれるというので、わくわくしながらその背中に……乗れなかったので、ディアンに乗せてもらった。

ひょい、と後ろへ飛び乗ったディアンが、不安定な僕を支える。


「じゃあね、師匠。また来るからね!」

「うるせえ」


ものすごく不機嫌な顔をした師匠に、くすっと笑った。

来るなって言わないんだ。


「師匠、毎日お肉は手の平大よりたくさんと、野菜は5種類以上を――」

「うぜえ、行け」


まだ途中なのに! ふわり、舞い上がったヴェルさんに慌ててしがみつく。

思い切り後ろへ転がりそうになった身体は、無事ディアンで止まった。


「う、うわあ……凄い!!」

「お前の感想じゃ、何も分かんねえな」

「師匠みたいなこと言わないで?! 僕も今何も分かんない! こ、怖い!」


むしろ、こんな状況でどうしてディアンは落ち着いてるの?!

ぐんぐん上がっていく高度と共に、尻が浮いたり沈んだりする。


「目ぇ開けてろ。飛んでんだ」

「飛んでるのは分かってるよ! 他に何が分かるって言うの!」


言われて初めて、目を閉じていたことに気が付いた。

そろっと開けた視界は、ふわふわした美しい被毛でいっぱいだ。

風に揺れる毛並みは、日差しに柔らかく踊って、楽しそう。


「……怖くないのは、分かったかも」


微かに笑う声がした。


「てめえと組むと、色々……分かりそうではある」

「何の話?!」


振り返った顔を押し戻され、『前向いてろ』と怒られた。


耳に、風が聞こえる。

お尻の下がふわふわ温かい。

ゆったり、翼をはためかせるヴェルさんの周りを、グリポンがちまちま飛び回る。

明るい日差しを頬に受けながら、間近な空を見上げた。

すごい。こんな贅沢な旅。


「ねえ、ヴェルさん。お願い、なるべくゆっくり行って!」

「クァ!」


心得た、と頷いたヴェルさんに笑って、僕は思い切り後ろへ体重を預けて力を抜いた。


あけましておめでとうございます!

今年もどうぞよろしくお願いいたします。


お正月を甘く見てました。更新遅れてすみません!

これで一旦大きな区切りです。(少し次回投稿空けるかもしれません)

感想や評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まあいろいろあったけど、ヴェルさんと仲良くなれてよかったねルルア!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ