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◆書籍化◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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62/141

62 猛毒

「――勝手な……!! あれのどこが、『穏やかな最期』なの! そのために僕を拾ったんでしょう、僕に魔法を教えたんでしょう! 僕のせいで覆されたら、僕は一体、何のために!!」


制御を離れた魔力が、渦を巻いて周囲をざわつかせている。

魔法を使えない身にも感じる、凄まじい魔力量。溢れだすその圧迫感で、呼吸しづらい。

きっちり正座して俺を睨み据える瞳は、穏やかを象徴するようだったあれとは別物のよう。

……怖ぇえ。

こいつ、怒ったらこんな怖ぇえのか。

とうに逃げたヴェルを恨みながら、ビリビリくる圧から視線を逸らす。


「……うるせえな。念願叶うのが、ちっとばかり早まるだけだろが」

「嘘! 分からないと思う?! 師匠の『願い』は、そっちじゃない! 『穏やかな』の方でしょう!」


バシッと打ち返された言葉に、つい呻いた。

……そう、なのか。

言わなかっただろうが、そんなこと。

早く最期が来ればいいと、そう言っていただろうが。

俺だって、そう思って。


「どうせ、死ぬことに変――」

「何でもすぐに諦める! どうせ死ぬんでしょ! じゃあもっと頑張ったらいいじゃない!」


ぼたぼた泣きながら、ルルアは喉が破れるんじゃねえかと思うほどに声を上げた。


「短いなら、その分頑張らなきゃいけないでしょ! いっぱい、いっぱいやりたいことをして、あれも、これもまだやりたいと思いながら目を閉じてよ!!」

「……っ」


睨みつける視線から目を伏せて、僅かに苦笑した。

……勝手言いやがる。

じりじりと、胸が灼ける苦しさに息を吐く。

やっぱりコイツは、残酷なヤツだ。それが、どんなに――。


「今、僕はそれを感じてるからね?! ずっと、ずっと感じてる! 師匠がいなくなった後も、ずっとだからね!!」


は、と息が止まった。


「……知るかよ。てめえが勝手に」

「そう、だから……僕も知るかよ! 僕は、師匠に楽しいことを話す。お土産を持って来る。治療の可能性を探す!」


ガキが……。

俺を苦しめる猛毒が、その柔らかく小さな手で注がれる。

濡れてもぎらつく瞳が、ひたと俺を見据えて離れない。


「おい、ルルア……」


ふいに聞こえた第三者の声に、ルルアがハッと我に返って振り返る。


「そろそろ、そいつ死ぬんじゃね? 俺はいいけどよ」


嘘のように、スッと魔力圧が消えていく。

ぎゅ、と唇を結んだルルアが、俺を見て無言でほろほろ雫を落とした。


「……もう、二度と許さないから!」

「……」

「返事をして!」

「…………おう」


飛びつくようにしがみついたのをかろうじて堪え、後ろへ手を着く。

やかましく響く泣き声の外から、『貸しだ』と小さく聞こえて舌打ちをした。




以前は考えられなかったほど、たくさんの具材が入ったスープ。

ほどけるほどに煮込んだお肉なら、きっと食べられるだろう。


「クア!」

「うふふ、ヴェルグラースさんも待ってね」


前脚を踏みかえ踏みかえそわつく幻獣が、大人しく尻をついて座った。

これが、ペタルグリフ。

猛禽と猛獣を掛け合わせたような頭部に、獣の身体。

鳥と言うよりもドラゴンにも似た前脚に、獣の脚。

堂々とした体躯に、古代魔法文字を操る知能をもつ、美しい幻獣。

傍らを飛んでは、鍋に引きよせられていくグリポンとは、確かにあんまり似ていないかも。

ふわふわ毛並みに頬を寄せ、くすっと笑った。


「ねえディアン、ヴェルグラースさんのお家を作ろうよ!」

「は? 俺?」

「土魔法がメインにはなるけど、重い木を使ったりも必要でしょう?」


大きな三角耳をピピッと動かして、ヴェルグラースさんが期待に瞳を輝かせる。

僕が来た頃には既になかったけれど、元々彼の家は庭にあったらしい。

家の中に入ってもらうには、少々手狭なので今日の夕食は外! 

ソファやテーブルを持ち出して、みんなで食べるんだ。


「獣は獣らしく庭で寝てりゃいい。嫌なら帰れ」

「クルルァ!」


フン、と鼻を鳴らす師匠は、相変わらず素直じゃない。

僕、師匠がそんな風に誰かと話しているのを、初めて聞いたよ。

対等、っていうのはこういう感じなのかな。


「とりあえず、食っていいか」

「いいよ!」


待ちきれなくなったディアンの声に返事すると、みんながそれぞれ器へ向かった。

大きなお肉を思い切って頬張ると、あっと言う間にほどけて顎を肉汁が伝う。

はふっと熱い息を吐いて、しっかりスープを吸ったお肉の柔らかさを味わった。


「うわあ……おいしい……」


さすがに、塩漬け肉ともゲルボのお肉とも違った。

噛みしめることもできずに、とろける歯触りが惜しいくらいで。

角の取れた根菜も、スープの色に染まってほくりと崩れる。

痛かった喉が、徐々に柔らかく潤っていく。

おなかがほくほく温かくなって、じんと目が痛い。

ほっぺが、まだぱりぱりしている気がする。


また目をこすろうとして、その手がビンと弾かれた。

痛いんですけど! むっと見上げても、ディアンは素知らぬ顔で肉を頬張っている。

なんだか、変な感じだな。師匠と僕と、師匠とヴェルさんと、ディアンと僕と。みんなでごはんを食べている。

ガツガツ気持ちよく食べるディアンとヴェルさんを見ながら、ちびちびスープをすすっている師匠に目をやった。


「師匠、器に入ってる分は食べてね?! お肉もスプーンでほぐれるから!」

「……」


不服そうな顔をするものの、さすがに今日は空腹感があるのか、大人しくお肉をつついている。

師匠が、まだあれだけ動けたことにビックリだよ。ひとまず、僕はほぼ寝たきりだった病床の師匠よりも鈍臭いことを知った。


じっと師匠を見張っていると、ずしっと片手が重くなった。

え、と目をやればいつの間にか具が増えている。


「ディアン?! 僕、自分で入れられるよ!」

「てめえもそのくらいは食え」

「た、食べるよ?! でも、ほら、今日はスープ以外にも色々あるから……」

「色々、も当然食うな?」

「え、う、うん……」


ちらちらテーブルの上と、お椀山盛りのお肉を見て汗を垂らす。お腹はすいているけど……でも、僕のお腹はディアンみたいに大きくないんだよ!

ふいに浮かんだ古代魔法文字に、思わずヴェルさんを見てにっこり頷いた。

これはいい。ディアンは読めないから、こっそり――。


「ヴェル、甘やかすな。俺には食わせるくせに」


はん、と師匠に鼻で笑われ、項垂れる。

じゃあ、師匠もちゃんと食べてよ?!

若干頬を膨らませながら、勢いよく頬張ってみせる。

ぴくり、と眉を動かした師匠が、対抗するようにがぶっと頬張った。

僕らの頭上には、鍋から漂う白い湯気が、ふわふわ夜空に浮かんでいた。

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とっても可愛いルルアとグリポンをぜひご覧ください!
ディアンかっこいいですよ!師匠もね!!

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