表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/46

26 ディアンの思惑

イラつくほど、明るい月明かりの夜。


「野郎は……どういうつもりで、コイツを」


ごろりと寝返りを打ち、健やかな寝息をたてる間抜け面を眺めた。

結果としてルルアを救ったとして、ヤツの目的自体が己のためであることに変わりはない。

たまたま蹴飛ばした犬が、そのおかげで馬車に轢かれずすんだとして、犬は蹴飛ばした者に感謝すべきだろうか。

いや、ディアンならそう思わない。蹴飛ばしたヤツも、馬車のヤツも、両方に噛みついてやる。

なのに、こいつときたら。

蹴飛ばしたヤツどころか、馬車にだって轢かないでくれてありがとうと言いそうな様子だ。


「犬の名前が、なんだっつうんだ」


ディアンには、分からない。そんなことがあり得るのだろうか。それは、許される行為なのだろうか。

しかし、その行為を否定すればルルアの存在は――。

舌打ちして、腹いせにルルアの小さな鼻をつまんだ。

ぎゅ、と眉根を寄せていやいやする仕草は、ほんの幼子のようで笑える。


「これで起きねえのかよ。こいつ、寝てるうちに死ぬんじゃね」


そう言ってから、面白くない顔をする。

なぜ、こうも安心しきって眠るのか。眠れるのか。

その答えが明白だから。

だってディアンは、こんな風には眠れない。

もう一度舌打ちして、背を向けた。

せっかく逃げられたんだ。しばらくは……ディアンが面倒を見るしかないだろう。

明日は、どうするか。

あんな男のことが欠片もよぎらないように。

戻りたいなんて、考えないように。


「……なら、ダメじゃねえか。俺だと」


まず、俺から逃げたくなるのがオチだろ。

あまりに不向きだと自嘲して、目を閉じた。

気に入られていたから……ローラにでも頼むか。

いや、でも。

ルルアは、まるで生まれたばかりのヒナだ。

きっとディアンよりずっとずっと頭がいいはずなのに、何も分かっていない。


「知った方が、いいのかもな」


俺を怖がるようになれば、一丁前、かもな。

もう一度口の端をあげて、ディアンは背中の呼吸に耳を澄ませたのだった。




外が、少しずつ明るくなっていく時間。

天井のひび割れが、少しずつ鮮明になっていく。

森とは違う、朝の匂い。

賑やかだな……色んな音がする。

人の、声がする。

たくさんの人が、いる気配。

僕、町にいるんだな。くすぐったい気持ちで、少し掛物を引っ張り上げた。

うふふ、と声が漏れそうで、慌てて毛布で口元を覆う。

ちら、と視線を向けた先では、息をしているのかと心配になるほど静かなディアン。

師匠も寝ている時は静かだけど、ディアンは、何と言うんだろう……。息を殺している、そんな感じ。寝ているのにね。

まじまじ眺めてみたけれど、反応しないところを見るに、ちゃんと寝てはいるのだろう。


起こさないように、そっとそっと寝台を抜け出して、伸びをする。

この時間なら、もしかして朝食の手伝いができるかも。

洗ってもらった靴を履いて、抜き足差し足、部屋を出ようとした。


「どこへ行く」

「わっ……起きちゃった?」


ごめんねと駆け寄って、本当は起きていたんだろうか、と疑り深く覗き込んでみる。


「ディアン、起きてたの?」

「寝てたわ」

「だって僕、すっごくこっそり動いたのに」

「どこが」


鼻で笑われ、唇を尖らせた。

どうやら僕、ディアンたちからすると『とてもドン臭い』らしい。


「ディアン、眠れた?」

「……なんで」

「だって、僕邪魔じゃない?」

「拾って来たのは、俺だ。『俺が責任もつ』んだろ?」


へっ、と悪者みたいな顔で笑って、ディアンが伸びをする。

僕、拾われたつもりはないんだけど! そりゃあ、結果的に助けてもらったんだけど……。


「あの、僕迷惑かけないようにしようと思ったの! だから、町の事とかもう少し教えてもらったら、もう大丈夫だから!」

「何も大丈夫な気がしねえ」

「ひとまず、ここでお仕事するんだよね? 僕、子どもたちと一緒の場所で寝られると思うよ。みんなもお仕事するんでしょう?」


子どもたちは雑魚寝だと言っていたから、僕が入る余地はあるんじゃないかな。

そう思ったのだけど、ディアンは思案気な顔をする。


「お前、一応10歳だろ。そのくらいの年だと、一緒に寝ねえ」

「そうなの? どこにいるの?」

「ま、既に卒業か、卒業目指して何かやってんな。あんまこっちへ戻らねえよ」

「そ、そっか……」


僕がのうのうと気楽な生活をしている間に、ここの子たちは立派に生活できるようになっているんだな。

しゅんとした僕を見て、ディアンが苦笑した。


「お前が気ぃ使うなら、俺が出てもいい。この部屋を使え。俺も飯とって来たり、護衛まがいのことする代わりに間借りしてるだけだからな」

「ううん! それなら僕が出ればいいんだから!」

「お前は出せねえよ……」


どうして?! 今、10歳になる子はそうしてるって言ったばかりなのに。

薄々自分でも無理だろうな、と思いつつむくれる。

だって僕、町で何をどうしたらいいか全然分からないもの。

はあ、と溜息を吐いたディアンが立ち上がって扉の方へ向かう。

目で追っている僕を振り返り、じとり、と橙の目を細めた。


「ドン臭ぇ……ついて来い」

「あっ! うん!」


弾むように飛び上がって、その背中を追いかける。

口で言ってくれれば分かるのに! まったく、師匠にしろディアンにしろ、どうしてそれを省略しようとするんだろう。


「どこに行くの? もう朝ごはん?」

「違ぇよ。町に出る」

「えっ! ごはんは?!」


くっ、と背中で笑われた気がする。


「飯のことばっかかよ。町で食え。ひとまず、てめえは町を歩いた方がいいだろ」

「いいの?! ディアン、用事はないの?」

「俺にそんな大層な用事があるわけねえだろ。お前は町で素材を換金して、何をしたかったんだ」


じゃあ……いいの?! 

わくわく弾む心が、僕の足まで弾ませる。


「あのね! 僕、世界を知ろうと思って! 知らないものも、知らないことも、たくさんあるでしょう? 選書魔法を使うには、使おうとするための変化がいるんだって……ディアンに教えてもらったから!」

「……そんな高尚なことを教えた覚えはねえよ。世界を知るってお前……せいぜい知れるのはこの町だ」


うんざり、といった顔をするディアンに笑って、声を弾ませる。


「それで、町でいろんなことを知ったら、師匠に『いいこと』が見つかるかもしれないって思って。すっごく美味しいものとか、楽しい古代魔法とか! あ! そうだ、師匠にお手紙を出さなきゃ!」

「……は?」


ピタリと足を止めたディアンが、口を開けて僕を見た。

まごうことなき、『驚き』の顔。そして、徐々につり上がる眉とぎらりと光る目は――。

ディアンの表情って、すごく分かりやすい。

のんびりそんなことを考えながら、僕はディアンの怒鳴りを聞いていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ