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8/13

スマホ大戦

 今日は朝練が休みで、敦は正義と相並んでゆっくりと学校に向かう。

「あーあ。今学期最後のテストは散々だったな。数学三十八、化学四十七。もう血の雨だよ。大学行けるかな」

「俺は結構ましだった。部活の相乗効果だな」

「大学の演劇科ってなかなか難しいとこが多いみたいだからさ。もうなんか俺の未来真っ暗」

 高校3年間で獲得した役が死体だけじゃ、推薦入学も無理だろう。課外活動もアウトで、学力もないと来ている。

 いっそ勉強とは無縁な手に職でも身につけたらどうか。料理人や福祉関係の仕事なんかもいい。

 正義はそろそろ真剣に人生を考え始めていた。

「なんかお前、最近顔が凛々しくなったよな。正義のヒーローみたいだぞ」

 へー。かなり鋭い奴だな。俺の近況を見抜いていやがるじゃないか。

 地球救済の人助けをしているうちに、人相も人格も変容してきたのかもな。 

 日頃の行いは嘘をつかないんだろう。

「それにしても、今朝のラインは酷いじゃんか。俺ら、大の親友だろ?あそこまで中傷するのは何でだよ?」正義は悲しげに肩をぶつけて来る。

「中傷?何だそれ。第一今日ラインは送ってないし」

「別にはぐらかさなくてもいいよ。もう気にしてないから。敦の本心はよく理解してるからさ」

 何の事だ。勘違いか。この劣等生、だいぶ深刻に悩んでるのかも。

 敦は本気で正義が不憫に思えてきた。

 教室に入り教科書を出していると、何時になく鋭利な視線に曝された。

 気づかないふりをしてると、その主が不機嫌な足音を立ててやって来た。

「あんた、人を馬鹿にしてんの?」由美が鬼面を顕にして毒づいてきた。

「え?何の話しかな?」

「とぼけないで!糞みたいなメッセージ寄越して何のつもりよ!」

 メッセージ?新巻にラインなんて送ってないぞ。そもそも友達とは思ってないし。SNSで会話したことなんかない。

「俺がメッセージ?何かの間違いだよ」

 由美は机をバシンと叩いて、今にも悪罵をしそうな恐ろしい目つきで睨む。

 敦が苦笑いでごまかすと、結局呆れた態度を表して席に戻って行った。

 一体何なんだ。正義といい、ラインの誤読か何か知らないが、勝手な濡れ衣を着せやがって。

 もういい。こんな時は癒やしが必須だ。敦は亜季の席まで行く。

「あ、水上君。あれ、どういうこと?」亜季が眉根を下げて遠慮気味に言う。

「あれ?何のこと?」

「ライン。怒り文句だったから。私何か悪いことしたかなと思って」

 まただ。俺はそんなライン送ってない。

 そうか。なりすましだな。何者かが俺を騙ったんだ。

「ラインはずっと送ってないよ。おそらくなりすましだと思う」

「嘘っ、大変。すぐにアカウント変えた方がいいよ」

「そうだね。変えとく」

 それでも亜季の表情に変化がない。

「それとね。何だかおかしいの。ユーチューブのレコメンド機能が今朝から変で」

「レコメンド機能が?どうして?」

「普通ビッグデータって、その人の履歴や趣味趣向に合わせて情報を提供するよね?」

「ああ、そうだね。それが何か?」

「なぜだか、全然関係のない動画ばかりが画面に出て来るの。AIがそんなミスする事はあり得ないし。ひょっとしてハッキングかな?」

「どうかな。セキュリティ強化設定でもした方がいいかもね」

 それにしても、何かとスマホの不具合が多発するもんだな。

 怖い社会だとは思ったが、まあ偶然だろうと、敦は高を括っていた。


 部屋でのんびりコミックを読んでいると、マゴヒルコが現れた。

「仕事だ。今回はお前の私的領域での大役回りだ。情において偲びがあるだろうが、気張って務めてくれ」

「私的領域って?」

「魔王はお前を真の仇敵と認めたのだ。ゆえに、お前の弱点を逆手に取る手段に出た。つまりは、愛する者を標的に選んだというわけだな」

「愛する者を?どういう事?」

「周りで妙な出来事が生じているだろう?問題事が起き、友人と揉めてはおらんか?」

 問題事?友人と?

 それってまさか。

「ラインのこと?」

「次なる破壊獣は電波を操る」

 何だって。そうか。ようやく合点がいった。

「そうだったのか!魔王軍が俺たちのラインやユーチューブを!」

 奴らが卑怯にも俺たちのスマホを乗っ取りに来たというわけか。

 上等だ。返り討ちにするまでだぜ。

「そうとなりゃ、どうやって電波と戦えって?」

「電気通信の扱いに関しては、若い現代っ子のお前たちもプロ級だろう。私がアドバイスすることもない。愛と勇気でお役目を果たしてくれ」

 忌憚のない発破をかけられ、敦はむず痒い心境に至った。

 この破壊獣は電子機器の画面に宿る思念で、対象者の精神を攪乱するということだった。

 くれぐれも心を支配されてはならないと、小人仲介人は他人行儀と真摯さの混和した調子で論駁した。

 その夜、敦のスマホにも異変が現れた。

「何だよこれ?」ユーチューブのホーム画面に、普段絶対見ないような陰惨な動画が表示されている。

 悪魔崇拝、呪法大全、人類滅亡、犯罪の歴史と、ダークにして呪詛的なサムネばかりが出て来る。

「クソッ!俺が目当てなんだろ!さっさと正体を明かせ!」苛ついた敦は、スマホに向かって罵り怒鳴る。

 すると、触りもしないのに、独りでに一つの動画が再生された。

 そこには紫の仮面を付けた黒装束の何者かが映った。

「水上敦。よくも悉く我が同士を痛めつけてくれたな。だがこの俺は今までの奴のようにはいかんぞ」そう布告して、奇っ怪な笑い声を上げる。

「そうかい。せいぜい楽しめよ。どうせてめえも、同じ運命だ」

「早々から意気がいいな。こいつは楽しめそうだ」

 その時。敦は突然、頭痛に見舞われた。

 何だ?頭痛え。

 そうか。奴が悪念を送りやがったんだな。

「準備はいいか?これから画像を生成して、お前の魂を破壊する。救国使の美談も今日で終わりよ」

「馬鹿が。魂をどうやって破壊するんだ、ボケ。そんな事できやしないぜ」

 そう毅然と反論すると、画面に巨大な岩が出現した。

 それをじっと見つめていると、稲妻が落雷して岩は粉砕されてしまう。

 と同時に、強い目眩が起き、敦は立っていられなくなった。

 駄目だ、倒れる!ちくしょう。こんな偽細工の死神に負けるわけには。

 しかし、平衡感覚を逸した敦は力無くカーペットに倒れてしまった。

「フッフッフ。今日はこの辺で勘弁してやろう。水上、苦しむのが自分だけならまだ耐えられよう。だがお前の愛しい人間を苦しめたらどうかな?お前は耐えられるか。優しい義心の持ち主であるお前は、さぞ苦しむだろうな」破壊獣は唇を広げて高々と嘲笑った。

 そして、スマホ画面は正常になった。

 愛しい人間。やばいな。俺以外にも被害の的が。何とか防がないと取り返しのつかないことになる。


 敦はすぐさま標的になっているであろう三人を学区内の公園に呼び集めた。ラインには緊急事態だから一生のお願いだ。頼む。と強く懇願した。

 昨晩俺を襲ったあいつは、あれから正義、亜季、由美の所にも乗り込んだはずだ。

 ベンチで待っていると、数分の間隔を置いて三人がやって来た。丁度土曜日で、皆散歩に出かけるレベルの私服だ。

「敦、何だよ大事な話しって?水臭いなあ」正義が冗談口調で右隣に座り込む。

「どうしたの水上君?とても緊迫した文体だったからびっくりしたわ」亜季がそれでも笑顔で左隣に腰を降ろす。

 そして由美は憮然と立ったまま腕組をして、鬼無双の面容だ。

「どういう魂胆か知らないなけど、人を呼び出したからには相当な用事よね?下らない内容だったらただじゃ済まさないわよ」

 敦はまだ迷っている。自分の素性を、降りかかった地球救国の任務を。正直に白状すべきか。

 三人に信じてもらえるか。

 彼らも昨晩、死神がスマホに現前するという、とんでもない怪奇現象を目の当たりにしたはずだ。精神的に追い詰められているに違いない。

 ならば、俺にまつわる一連の想像を絶する奇談も受け入れてくれるのではないか。

 いいや。もうここまで来たら打ち明けるしかない。

 敦は深呼吸し、腹を決めた。

「急な話でゴメン。実は」

 三人の顔をチラ見しては伏し目がちに、現在の状況とこれまでの顛末を語り伝えた。

「嘘だ。そんな与太話が」正義は口を武者震いさせ、言葉を継ぐことができない。

「本当なの?確かに昨日スマホに違法アクセスがあったけど。あれは魔王の子分さんだったの?」亜季が目を潤ませて動揺する。

「私は信じない。どう考えても法螺話だわ」由美も思考がままならない様子で目の焦点が合わない。

「敦、あれは新手のハッカーが強引にスマホをジャックしたんだろうよ」

「そんな事はできない。あの死神は黄泉から派遣された破壊獣なんだ。信じられないだろうが、信じてくれ。俺はお前たちを助けたいんだ」

 誰も嘴を入れられず、しばし完黙が続いた。

「水上君、私信じるわ。水上君は嘘つかないもん。魔王でも破壊獣でも、地球を滅ぼさせちゃ駄目だし。何とか説得して分かってもらわなきゃね」

「もし真実なら、説得なんて無謀だよ。天魔大戦なんだろ?じゃあ、やっつけるしかないな」

 亜季と正義は決然とした眼で敦を見遣る。

「黄泉とか冥界とか。あんた精神病んでるんじゃない?私は科学的な人間だわ。そんな作り話は信じない」

「でも、あの動画で君も精神がおかしくなりかけただろ?あれは、マインドコントロールとかそんな優しい芸じゃない。放って置けば、君の精神は崩壊させられるんだ」

「だからって信じられないわよ!いいわ、あのインチキ覗き魔を懲らしめれば解決するのよね!それなら、さっさと今すぐ交信して見なさいよ!」

 よし来た。そのモチベーションなら大丈夫だ。半分でも信じてくれれば何とかなる。

 そんなわけで、電波魔獣を相手の死闘が始まったのだった。

 まず敦は機先を制すが勝ちと決め込んで先手を打った。

「くそったれの死に損ないハッカー!出て来やがれ!」スマホを睨めつけ、揶揄するように吐き捨てる。

 すると気に障ったのか、敵は餌に食い付いた。

 画面に仮面姿の死神が現れる。

「調子に乗るなよ、未熟救国使。お前たちの魂は頂くからな」殺気立つ語調で言い捨てる。

 敦が確認すると、他の三人のスマホにも敵が映っていた。

「ちょっとあんた!からかうにも限度ってものがあるわよ!」由美が死神に辛辣な悪態をつく。

「まだ現実を受容できないのか?お前は水上敦の仲間だ。したがって犠牲になってもらう」

「お、俺は嫌だ!悪霊の手先になんかなんないぞ!」正義が声紋を震わせながら懸命に強がる。

「お願いします。地球を征服しないで下さい。どうか人間と仲良くしましょう」亜季がまるでクラスメイトに話しかける要領で優しく言う。

「誰もてめえには従わないぜ。四対一だ。こっちが有利だな」敦が泰然とした笑みをみせる。

「何人だろうと同じだ。俺はまとめて戦うのが好きなんだよ」敵も綽々と笑い返す。

「でも人間は面白いねえ。なぜ善ばかり崇めて悪を蔑むのかな?善を愛するぐらいなら、赤子でもできるじゃないか。一端の人間なら悪も愛さなきゃね」

「悪を愛すのは黄泉の底辺で血迷ってるおめえら悪魔どもだけだな」敦が軽蔑するように鼻で笑う。

「お前たちは善の弱さ儚さを知らんだろう。それに引き換え、悪は強くしぶとい。陰は陽よりも強く、また闇は光よりも強いのだ」

「それ聞いたことある。スターウォーズでも言ってた。光より暗黒のフォースの方が強大なんだよね」なぜか正義が理解を示して言う。

「正義!何同調してんだお前は!」敦が叱責する。

「だって、悪には悪の言い分があるからさ」

「物分かりがいいな君は。さすがは、俳優を志すだけあるね」

「えっ!そんな事まで調べ上げてるの!」

「調べるのではなく、君の心を視ているんだよ」

 正義は死神に惹き込まれるように、じっと画面上を凝視する。

「悪も悪くないかもな」自然とそう呟いた。それは陶酔したような、どこか漠とした声色だった。

「おい、お前取り憑かれたのかよ!」

「敦。この人、悪い奴じゃないよ」

「馬鹿!意志をしっかり持てよ、弱虫が!」

 正義は液晶から放たれる悪の瘴気にやられかけていた。

「さあ、女の子。君たちも俺の考えに賛同しないか?」

「下らない蘊蓄ばかり。あんた、舐めてるわね」由美は門前払いだとばかりに言い放つ。

「わ、私は。悪いことはしない方がいいと思いますけど。どんな人も助け合うべきですね」亜季が可憐な口調で説諭する。

 二人はまだ死神の波長に共鳴していない。

「お嬢さんたちは誤解してるようだな。無知は罪だからね。それなら、我々魔王軍組織の骨組みと肉づけを説明してみよう」

 すると正義だけは好奇心溢れる容貌で端末に食い入る。

「黄泉の魔境にあるマンドラ王国の拠点には五つの軍団が存在する。まずその一団のうち、天空を駆ける死鳥の群によって構成されるのが超魔飛翔軍団だ。その機動力と戦略術は冥界一と謳われている。文字通り魔王マンドラの耳目として、黄泉の全域、隅々を警邏監視する時空警察隊でもある」

「カッコいいー。見てみたいな。行ってみたいな。空を飛びたいな」正義がうっとりした目で心酔している。

「おい、お前!魔王軍に弟子入りしようってのか!」敦が喝を入れて怒鳴る。

「次は広大な黄泉の闇夜を、強烈な死の業火で燃やし尽くす竜の猛者衆たち。無双神竜軍団。どんな僻地遠路であろうと、不眠不休不撓不屈の行軍力で侵略し尽くし、対象となる獲物はいかなる相手であっても殲滅するまで行進を止めない最強の陸戦部隊だ」

「ワオー。それも凄いな。竜の炎、とんでもないんだろうなー」正義がさらに空想の羽根をはばたかせて悦に浸る。

「そして、黄泉に名をとどろかす叡智に長けた恐るべき魔性使いの集団。冥怪妖魔軍団。魔王マンドラの頭脳として権謀術数を振るい、軍団の総領的立場であらゆる作戦を練り上げる。何よりその魔導力を下地にした縦横無尽の破壊力は、他ならぬ黄泉の神軍として畏怖されている」

「えげつないなー。まさに究極の軍団だよな」正義の感嘆が無人の公園敷地に反響する。

「まだ力説するつもりかしら?いい加減マニアックな怪談噺止めてくれる?」由美な唇を曲げて苛立ちを表す。

「まあ聞き給え。あと二つあるんだ。四つ目は魔王が自らの魔力で創り落としたお膝元の親衛隊たちだ。彼らは絶大な忠誠心を有し、どんな感情にもブレない冷徹な骸骨騎兵集団。その名は暗黒卍忌まんき軍団。マンドラの寵愛を受け、あらゆる過酷な任務を身を粉にして遂行する謂わば魔王の分身であり、血を分けた子息だな」

「すげー。魔王の子供たちか。絆は固いんだろうなあ」もはや正義は目を輝かせて楽しげに傾聴する。

「そして最後は冥界を象徴する最たる集団。それは肉体を持たない浮遊生物。要するにその正体は死霊の超合体たちだ。時間と空間を自由かつ瞬時に移動でき、魔王の手足として暗躍する特殊部隊。通称怨邪神霊軍団。この一団は魔王軍の最終仕置取締役であり、魔王軍の懐刀として極秘難航作業の完遂を一手に任されている」

「お化けだから、秘密隠密同心なんだね。不老不死の無敵軍団だ」

「正義。お前これからコイツの部下になれよ」敦が呆れ返って苦笑する。

「そしてそして。申し遅れたが、俺は魔王軍偵察部隊参謀ツベルクだ。情報収集と敵情調査が主な役目だな。まあ他にも色々と雑用事を委任されているがね」

「随分と高貴な人なんですねえ。色んな秘密とか知ってるんですか?羨ましいな。頭よさそう」

「この脳足りんは洗脳できても、俺たちはそう簡単には納得しないぞ」敦が正義を見捨てるかのごとくに言い放つ。

「私、何か感銘を受けたみたいで。魔王軍の皆さん、お国のためにとても一生懸命働いてるんですね」亜季が涙目でツベルクを見つめる。

「二階堂さん!何その感想!君まで!」敦が驚いて目を丸める。

「魔王軍か。人間社会よりも黄泉の世界は実力主義で面白そうね」由美が頬を緩ませて言明する。

「新巻さん!どういうつもりだよ!君もか!」

 女子二人までもが、ツベルクの言説に魅惑されたようだった。

 液晶から迸る想念は、かなりの精神的同調を促すようだ。

「外堀は埋まったな。さあ水上敦。君も我が軍門に下れ」ツベルクの視線が敦をを渦潮のように引き込む。

「黙りやがれ!貴様こそこっちに投降するんだよ!」

「ならば、三人を見ていろ。心変わりするはずだ」

 その時。画面の黒い背景が赤い閃光で瞬き始めた。

「では行くよ。由美さん。君は人一倍素直な子だ。そして聡明だ。無駄なことはしたくない。学校はさぞ退屈でしょう。いいんだよ。周りなんか無視して知識を蓄えれば。こちらに来たなら、幾らでも智慧を得ることができる。邪魔する人間もいない。君は社会の規範を憎んでいる。でもいい。魔王の国にルールなんてないから。毎日好きなように暮らせるんだ。自由。君の愛する哲学だろう」

 由美は緊縛した表情で、つぶさにツベルクの説教を聞く。核心を突かれて驚いた様子だ。

「自由?そんな国があるの?」

「マンドラ王国は自由さ。一切の道徳や法律は意味を為さない。本能の爆発。まさに生ける者の真骨頂だな」

「行って、行ってみたいな」由美が官能的な声になって吐露する。

「新巻さん!正気か!」敦が絶句する。

 目がイッてる。こりゃヤバい。憑依されたか。

「来なさい。幸せになれるから。そして亜季さん。君はとにかく純粋で優しい。誰からも好かれているね。人助け。それが君の一番の本懐だろう。我々の同胞を助けるために来てくれ」

「ツベルクさん。私に魔王軍の方々が助けられますか?」亜季は真剣に画面内へ没入する。

「二階堂さんも!何で魔物の言う事を信じるかな」敦が遣る方無く項垂れる。

「これで残るは水上、君だけだぞ」ツベルクが教祖の如き荘厳な眼色で冷ややかに笑う。

「君は救国使としてよく頑張った。しかし、君は本来そんな偽善染みた青年ではない。平凡で無欲な皮を被りながら、内面には放埒な欲望を抱いている。君はヒーローになって地球を救いたいのではない。王様になって支配したいのだ。自分の手でこの空疎でチャチな地球を創り変えたい。詰まる話、自分が主人公になりたいんだよね」

 欲望。主人公。俺は・・・。

 ツベルクの言葉がスピーカーから音波となり、脳裏に駆け巡った。

 敦は自問自答する。

 そもそも俺は本当に地球を救いたいのか?救国使の役目を引き受けたのは俺の本心なのか?

 心に自己懐疑が立ちはだかる。

 俺に魔王軍は倒せない。奴らは途轍もない力を持った破壊者の集団。地球征服なんか目じゃない。

 いっそ魔王に侵略された方が、この希望のない殺伐とした地球の民は幸せかもな。

 地球を魔界にしたら案外面白そうだ。

 その前に、四人で魔王マンドラ五大軍団でも見物しに行くか。

 液晶から発せられる魔道士ツベルクの波長に四人は完全に正気を奪われた。

 かに見えたが。

 日の本創造神たる天津神の子孫、救国使水上敦は寸前の所で目を覚ました。

「ざけんな、死神ペテン師が!俺を誰か知ってるだろ?俺様の後ろでは、いにしえの神々が大合唱団をなして護ってくれてんだよ!」

 敦の気合いの大音声で、スマホの映像に激しいノイズが入った。

 すると三人は我に返ったように気を取り戻す。

「あれ?俺、何してたんだ?」正義が頭を振って敦を見る。

「私、いけない事話しちゃったかな?」亜季も口を押えて平常心になる。

「もう、何なのよ。知らないけど、記憶が飛んだみたい」由美の目の焦点が正常になった。

「この波動は?これが天津神の念力か?」ツベルクが酷く動揺する。

 敦の身体からオーラが流れ波打つ。

「そうとも。さすがの魔王参謀と言えども、俺の魂を乗っ取る事はできなかったな」

 敦の剣幕の前に敵は完全に尻込みした。

「もう一歩だったが、仕方あるまい。しかし俺の魔力は精神を攻めるだけではない。これから真の恐怖を味わわせてやろう」

 そう言うと、ツベルクは画面から消えた。


 


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