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魔忍道の脅威

 そして、バトルの火蓋が幕を空ける。

「そういう事だ。面白い決闘にしようじゃねえか、地球人たちよ」残った影の一人が笑い口調で言って正体を見せた。

「俺の名はゼニマル。ヨロシクな」それは酒樽を想起させる、強固でいて柔和な図体の忍者だった。

「影狼の中では一番の年上なんだけどよ。まずは、俺の自慢の忍術を見て欲しいんだ」そう言うと、ゼニマルは勢いよくでんぐり返って、樽型の肢体を地面に転がした。

 そして、落ち葉をその身体に吸い付かせて、猛然と高速回転し始めた。 

「あれに潰されたら、ひとたまりもないよ!」正義が翔天の羽衣を羽織って、真っ先に空中に戦線離脱する。

 ゼニマルは落ち葉を散らしながら、三人を轢き殺そうと転がり回る。

 その光速ぶりに、敦たちは反撃の暇を見い出すことができない。

 三人は衝突こそ避けるものの、回転の風圧に突き飛ばされて受け身一方になる。

「どうしたんだい?これじゃ詰まらないじゃないかよ。まだ様子を見るのかい?だったら、どんどん攻めようかな」そう言うと、ゼニマルの身体にある落ち葉から火が発生した。

 見る間に枯れ葉は燃え盛り、ゼニマルは火だるまになった。

 そして、その火が刃状の炎弾と化して三人に発射された。

 敦たちはぎりぎりの間隔でそれをかわすが、着弾した地表の落ち葉に火炎が燃え移り、あっという間に一面は逆巻く業火に埋め尽くされてしまう。

「待てやい、ゼニマル。俺たちにもやらせろ」と、もう一人の忍びが姿を見せる。

「俺様はミキカゲ。見てるだけじゃ、ウズウズして辛抱ならねえ」

 両頬にザックリとした傷痕があり、身の丈は飛び抜けて高い。

 両端に刃のついた薙刀のような武器を持っている。

「救国使、俺様の神業芸を見てみな」ミキカゲは群を抜く跳躍力で飛び上がると、周囲の木々を薙刀で遮二無二斬りつけ始めた。

 そして手印を結ぶと、その斬り削られた木に念波を送る。

 すると、大小まちまちの木片が巧みに組み合わさり、目にも鮮やかな飛行機やロケット、剣、ブーメラン等々の木材芸術に変幻したのだった。

「何だ、あれは!工作が得意な忍者なんて聞いたことがないよ!」高み見物の正義が度肝を抜かれて狼狽する。

「私に任せて!」由美が魔草を発動し、芸術木片を絡め取ろうと蔓を伸ばす。

 そして魔草が木片に巻き付きへし折った。

「やるな、姉ちゃん。可愛らしい厚底靴、似合ってるぜ」しかしミキカゲは怯まず木片作品を執拗に斬り作り続け、量産する。

 とても蔓草の召喚が間に合わず、木片が三人を襲う。

 敦は手刀で何とか払い壊し、亜季も愛念波で攻撃を無力化する。

 それでも、湧き出るように木片が産み出される。

「ミキカゲ、私も技のお披露目がしたいわ」

 また一人の忍者が出現した。

 小柄な見目麗しい三つ編みのくノ一だ。

「私はオヨウ。影狼隊の紅一点、お嬢様よ」手で歯を隠して品良く笑う。

「あなたの技。私の妖力とよく類似してるわ。どちらが優れているか勝負しない?」

 視線を向けられた亜季が、ハッと表情を引き締める。

「私、ですか?くノ一さんも、愛のエネルギーを操るんでしょうか?」

「愛かどうかは分からないけど、生命波動を利用した私独自の忍術よ。きっと感動すると思うわ」

 悠々と自負したオヨウは、艶めかしい動作で角笛を取り出すと、何とも霊妙な息遣いで音色を奏で始めた。

 すると、一帯を覆う樹木から無数の足音と咆哮が立ち起こった。

 そして木々がざわめき、活命溢れる野生動物たちが飛び出して来たのだった。

 猪にウサギ、コヨーテ、狐など、山に住むあらゆる動物が、笛の音に導かれて集まって来る。

「いきなり呼んでごめんなさい。さあ、この反逆分子たちを懲らしめてあげて」そう言うと、オヨウが両手から紐状の波動を放出して、野生動物たちに送り届ける。

 波動は網の目になって彼らを取り包む。

「わっ?動物さんと戦うなんて可哀想。どうしよう」亜季が戸惑いながら立ち竦む。

 野生動物は笛の音色に煽られて、一斉に攻撃を開始する。

 その素早い出足と反射神経に、三人はお株を奪われ右往左往する。

 光波を纏った動物たちは、流星の如くに落ち葉を舞い散らして三人を翻弄する。

「待ちやがれ!まだトドメを刺すんじゃないズラ!オイラはまだ何にもやってないぞ!」

 そこへ四人目が正体を晒した。

 その声は遠くから発せられた。

 見遣ると、凧揚げよろしく帆布を膨らませて、高々と空を飛ぶ忍者がいた。

「おいらは、ムソウマル!影狼部隊きってのファンタジスタでとびきりの秀才ズラ!」

 これに仰天したのは、同じく空にいた正義だ。

 ムソウマルが視界にそれを捉えた。

「うわっ、見つかった!」正義はバタついて空を掻き泳ぐ。

「どこへ逃げても無駄ズラ」

 ムソウマルは帆布を投げ捨て、空中で大の字になった。

 そして腕を太陽に掲げ、気炎を吐いて呪言を唱える。

 瞬間、太陽から鋭い極光が放たれ、雷刃のように地上へ降り注がれた。

 それはまず、これまで高み見物でバトルを遊興していた正義に命中した。

「ガァ〜!何で、こうなるの〜!」灼熱の雷刃に打ちのめされ、哀れにも急落下して行く。

 その極光は神的に速く、とても避け切ることはできず、地上の三人も雷刃の霰石を数発被弾してしまう。

「どうだ、参ったズラか!まだまだとっておきがあるズラ!」

 ムソウマルは指を天に広げて、さらに念誦する。

 今度は空を漂う雲が烈風を生ぜしめ、綿状の断片となって、まるでキントン号のように千切れ飛び出して来た。

 地表でそれを仰視する敦たちは、万全の構えを取って逃れる。 

 しかし、綿雲は対象物の霊気を感知し、何処までも追って来る。

 程なく、四人は雲に身体を縛り巻かれてしまった。

「さてさて。いよいよ年貢の納め時かな。影狼忍術は楽しめたかい?」ゼニマルが膨らんだ顔で一同に笑い掛ける。

 やれやれ。敦は不貞腐れた笑いを返した。

 これで敵の特徴は見切ったからな。受け身に回って大人しくしてれば、つけあがりやがって。

 天津神の神力は敢えて使わずに、忍術どもの奥義を見極めようという、幾分度量の広い作戦だった。

「覚悟はいいかな、忍者さん。快感の後は苦痛が待ってるもんだぜ」敦は唇を広げて満面の笑みを作る。

「敦、そろそろ本気モードで頼むよ」正義が縋るように目配せする。

「おうとも。一人で大丈夫だから、お前らは休んどきな。じゃあ行くぜ」敦は枯れ葉の積もる地面を蹴って、華麗に跳躍した。

 そして、神気のオーラを全身に光らせる。

 それによりこびり付いていた綿雲が霧散する。

 まずは、神速の弾丸となって空中のムソウマルに突進した。

 その暴威に気圧され、目を見張るムソウマル。

 同じ高度に達した敦は、拳を振り上げ会心の一撃を打ち込む。

 か。と思いきや、あっさりとかわされ、反対に痛恨の横蹴りを喰らう。

 まさかの無様な返り討ちだ。

「うぇっ!ど、どうして〜!」

 敦は紙細工のように墜落する。


 しばし身悶えた後、周りを憚りながら気まずそうに枯れ葉の上に跪く。

 身体に力が入り切らない。何故だ?

 俺はあの骸骨巨大怪獣にも勝ったんだぞ。

 あっ。待てよ。あの時は天津神マザナミの手助けで強くなったんだっけ?

 いけねえ。あれは実力じゃなかったんだった。

 他力で得た神力だったんだよな。

 くそったれ。そう簡単には強くなれないってか。

 人生甘くないな。

「悪い悪い。調子こいちゃったよ。やっぱり四人で戦おう」

「なんだそれ〜」正義がズッコケる。

「水上君、まだ神気が自由にはならないのね」亜季が心配顔で注視する。

「全く、自己過信の舞い上がり症。神のパワーなんだから、そう単純にはマスターできないでしょうね」由美が白けた面貌で溜息をつく。

 そんな成り行きで、敦たち四人はガチンコで迫り来る影狼忍者たちの猛攻撃に耐えなければらなくなった。

 問答無用のバトル再開で、影狼たちの千変万化する精彩な忍術に、四人は血眼で命を削りながら闘うしかない状況に追い込まれる。

 徐々に劣勢を強いられ、背水の陣かつ袋のネズミ状態になってしまった。

「むざむざとは引き下がらないわよ。私だってむやみに経験値を重ねて来たわけじゃないわ。進化の証を見せて上げる」

 由美は自尊心を高ぶらせて、朱雀の靴裏から魔草を強靭なショットガンにして発砲した。

「私も深く広い愛の讃歌で、忍者さんたちと仲良しになりたいな」

 亜季も成長ぶりを披露するべく、破邪の錫杖を円形に回すと、水晶球サイズの光の泡が連鎖的に生まれて、敵の法術を無効化してしまう。

「皆、やるねえ。僕にできるのは飛行術だけなんだよな。だけど何とか戦闘要員になりたくてさ。ある秘密道具をマゴヒルコさんから貰ったんだよな。僕だって偶にはヒーローになりたいからね。へっへっ。皆、驚くぞ」

 正義は羽衣で飛翔すると、カプセルからそれを出した。

「人呼んで、夢想狂銃。敦の銃が一撃必殺の重装式なら、俺のは無差別攻撃の軽装広範連射式ってやつだな」言うなり、正義は引き金を搾った。

 すると、飛び出した白桜色の光線弾が、辺りの標的を片っ端から撃ち砕いてしまった。

「三人ともやるじゃんか。俺も負けてらんないな」仲間の頑張りに触発された敦は、今できる最大の神力をフル稼働させて敵と相まみえた。

 戦いの凄まじさに山全体が喘鳴するように地揺れし、双方の念力想念の飛散が樹木を悉く損耗させ、落ち葉を烈しく乱舞させる。

 そんな壮烈なぶつかり合いが当て所も無く展開され、両陣営とも死力を尽くして能力が枯渇するまで奮闘した。

「救国使。この戦い、お前たちの粘り勝ちだ」ゼニマルが樽型の身体をよろめかせて、疲労困憊、落ち葉に尻を埋める。

 ミキカゲ、オヨウ、ムソウマルも力を使い果たして、同様に座り込む。

「もう動けない。この勝負、引き分けだね」正義が羽衣をほっ被って倒れる。

「愛の念も限界です。忍者さんたちとお友達になれたかも」亜季が掠れ声で満悦する。

「私ももう駄目。蔓一本さえ出ないわ。死にそう」由美が気怠そうに、朱雀の靴を手で脱ぎ取る。

 唯一、余力を余していたのは敦だけだった。

 それは天津神の神気による加護のせいなのだろう。

「大激戦だったな。おかげで皆、レベルが半端なく上がっただろうぜ。俺も潜在パワーを大分発揮できるようになったみたいだ」敦は独り立ったまま愉悦に浸る。

「悪いことは言わねえ。もう魔王に歯向かうのはよせ。お前らを死なすのは惜しいぜ」ミキカゲが渋面で言い諭す。

「そうだわ。あんたたちは、生き長らえるべきだと思う。あたしたちみたいに、魔王軍に組み入れて貰いなさいよ。三食昼寝付きの好待遇で、年中幸せなんだから」オヨウが親しみを込めて言う。

「あの塔には行くでないズラ。あそこには恐ろしい仕掛けが張り巡らされているズラ。あんたらがいかに強くとも、攻略するのは不可能ズラ」ムソウマルが悲愴な調子で警告する。

「言っとくがな。お前たちがどんなに力を合わせようと、魔王は倒せんぞ。それでも行くのか?」ゼニマルが最後通告を出す。

「ああ。行く。行かなきゃ、これまでの努力が無駄になる」敦は決然と言い切った。

 そしてお側役の三人を見た。三人とも敦に熱視線を送り、固く頷く。

「塔には俺一人で行く。元々これは救国使である自分の仕事だ。後は一人でやる。皆、今まで助けてくれてサンキュー」手を翳した敦は、ダメージの大きい仲間を労りの表情で見遣る。

「そ、そんなの無茶だよ!まだ三人も強敵忍者がいるんだし!」正義が大反対する。

「俺には天津神が憑いている。何とかなるさ」

 そう言って、敦は脇目も振らず、山道を駆け抜けて行く。

「水上君!行かないで!」亜季が悲鳴に似た叫びを漏らす。

「水上!カッコつけるんじゃ、ないよ!」由美が涙声で呼び捨てる。

「敦、待てったら!」正義が起き上がるも、腰が砕けてひっくり返る。

 ヒットポイントゼロの三人は追走する体力もなく、泣く泣く敦を見送るしかなかった。



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