EP7 傭兵、現状
「お嬢様起きていらっしゃいますよね?」
「...」
久遠が出ていった後、顔がボッ!となっているフィアは布団からのそのそと起き上がり羞恥心からさらに顔を赤く染める。
「いつから見ていたの、というよりは、どこから?」
「窓の近くの木から見ておりました。
しかし無意識であんなことをする辺りあの殿方、なかなかやりますね。
お嬢様がいちころなんて」
ニヤニヤと面白そうに笑うキャシーナはとても楽しそうだった、どうやら外の木の上から一部始終を目撃していたらしい。
「どの場面から?」
「お嬢様が危うく、むちゅっ!とするところですか」
「そうそう、あれはあぶなかっ...」
再びボッ!となると枕をキャシーナに投げつけると再び布団に潜り込んでしまう。その時だった
トントン
「すまない、二人に話がある」
ドアをノックする音と共に久遠の声が聞こえてくる。
場所が代わり、一階大広間。
「それで、どうしたんだ」
少しの沈黙が続きフィアが切り出す、どうやら通常の状態に戻れたらしい。キャシーナはまだ少しニヤニヤとフィアの方を見つめている。
あえて触れないでおこう。
「現状の見解と記憶が少し戻ったから少し話をしたいと思って。」
二人は久遠の言葉を耳にして顔に真剣身がます。
「聞かせてくれ」
「まず最初に俺が何者かについてだが、俺は傭兵だ、簡単にいうと雇われ兵というところだ」
「それは、金で雇われるフリーの騎士、のことを示しているのでしょうか、その場合は敵対の可能性を考慮いたしますが」
少しキャシーナの警戒が強まる
「キャシーナ落ち着いて、それなら記憶が戻ったら何か仕掛けるか逃げていると思う。」
「すみません、取り乱しました。
続けて下さい。」
今にも戦闘体勢に入りそうなキャシーナをフィアがなだめる
「いや、疑われて当然です、お気になさらず。」
謝罪を素直に受けとる。
「確かにここでいう雇われ騎士というのに分類されますが少し違います。
ここから話がややこしくなるんですが。」
「「と言うと?」」
二人の疑問符が重なる
「これはあくまでも俺の見解なんですが、俺はここの種族とやら、そもそもここに存在していなかったのではないかと考えています。」
突拍子ない話に二人はポカンとしている。それもそのはずだ、記憶が戻るなり私は存在しませんと言われて誰がハイそうですかと納得するだろうか。
「何を言っているんだ?」
「これを見てくれるか」
机の下にある大きな黒いケースを机におきロックを解除していく。二人はそれを興味深々で食い入るように見つめる。
カチャッと最後のロックが外れるとケースを両開きにして中身を晒す。
「何ですか、これは?」
「これがもといた世界で俺が使用していた武器です。」
ケースに入っている金属製の物体を不思議に思う、刃物のようにとがっている部分があるわけでもなく、弓のように何かを飛ばす道具にも見えない、使い道といえば鈍器のようなものしか形容しがたいものだった。
「確かに見たことはないです、しかしこれが武器かと聞かれればそれは信用しがたい、聖霊人、スピリタスの杖が近いですが。」
「まぁ、本来使うところをお見せしたいところなんですが、少し危険なので普段触らないよう、触れないようにこのケースに厳重保管しているんです。」
実戦や訓練でない限り滅多にこういう危険なものは表には出さない、というのもあるがむやみに自分の戦闘能力や手数など手の内を晒すのは知り合いの前であっても愚行だと知っていた。本来武器自体も晒したくはなかったのが本音だ。
「そうか、実際使っているところを見てみたかったんだが、今回は諦めるとしよう。」
「そうしてくれるとありがたい。
話はもとに戻りますが俺の記憶と、見てもらった武器に加えてもうひとつ、俺はここの字が読めません。以前ここから離れようと森の前にある看板らしき物を見かけましたが雰囲気だけで俺の知らない文字でした。
それからキャシーナさんにお願いして見させていただいた言語訳の本も目にしましたが全ての言語が読めませんでした。
言葉が通じているのは謎ですが、とにかく俺の見解としては今のところそういうことなんだと認識しています」
あの日目覚めてから何一つ見覚えのあるものはなかった、町の風景、フィアやキャシーナの服装、通貨も自分の見たことのないものであり、本に目を通しても自分の知っている言語に当てはまらなかった。
言葉が通じているのは謎だがこの見解には確信を得ていた。
「なるほど、あなたという存在を踏まえてそれが一番納得のいく回答です。」
「そうだな、久遠が何者か、正直それが問題だったがそうなら話は早い。これで確実に敵ではないと証明されたのだから、私もひと安心だ。」
まだ色々とわからない部分も多いがなんとか納得してくれたようだ。
「納得してくれて何よりだ、これで心置きなくここから立ち去れる、二人に不安を残していなくならずなすんで本当によかった」
ようやく心残りは無くなった、これで彼女達も安心して元の日々に戻れるだろう。
「…え、今、なんて」
しかし、久遠が最後に落とした爆弾に、安心していたフィアの顔は凍りつくのだった。