決勝前日──
「え、……チームせん、じつ?」
「一対一で敵わない相手に対抗する気なら、チーム戦術しかないよ。だけど、サシで勝てないのなら、勝てるようになるべきであって、そうじゃなきゃ今より上には行けないんだ。プロに行く気なら、一対一で勝てないことを前提にしたサッカーなんかやってられないし、高校生相手にサシで負けるわけにもいかない。プロで戦うことまでつねに考えてやることが生意気だっていうなら、理解しろって以前に、こっちこそ指導者として願い下げだ。監督はね、おまえのやりたいようにやれって言ってくれてた。失敗したとき、ツケを払わされるのはどうせ自分なんだって」
礼音は、三度まばたいた。
「何だか、好きに失敗すればいいって言ってるようにもきこえるんですが……」
「先生は、失敗したくなかったら自分の言うことをきいておけ派?」
一瞬、何を言われたのか分からず、礼音は目を点にする。一拍のち、猛然と首を振って否定した。
「じゃあ、失敗したくないから、他人の言うことをきいておこう派、なのかな。それで、失敗せずにやってこれた、ここまで?」
いちど止めた首を、もうひとつ振って返す。
「昼と夜があるように、成功と失敗も、切り離しようがないものなんだって。失敗を恐れることは、成功を放棄するのとおなじことで、他人の言うことをどんなに聞こうが、失敗は必ずするんだってさ。俺に迷いがないのは、失敗しない道を選んでないからじゃない? 失敗して、どうおもわれるかも気にならないし。だって、みんな失敗してるんだよ?」
礼音は、まっすぐな慶太の背中の向こうに、その背を支える鶴岡監督の手を見た気がした。
彼に迷いがないのは、監督を失った今でも、その手にゆるぎなく支えられているからなのだろうとおもう。
恩師の死を嘆きかなしみ、その助言を乞うた流星とは正反対ながらも、そこにつよい敬慕があることにちがいはない。
「──……鷹林くんにニケは、必要ないね」
やや首をかしげた慶太が、ふっとわらう。
「だから、俺だけ、何の助言もなしなの?」
だけ、かどうかさえも、礼音には分からない。
答えかねて空に視線を投じた礼音の頬に、ぽつ、とつめたいものが落ちてくる。
「──あ、雨?」
となりで慶太も空を見上げた。
「ああ、もう降ってきたか。明日も雨だって。昼までに、上がるといいけど」
「雨が降ったら、決勝戦は延期ですか?」
「いや、雨が降ろうが雪が降ろうが、試合はやるよ。だから、俺たちは練習つづけるけど。先生は、屋根の下に行ってたら? でないと、冷えるから風邪ひくよ」
とん、と背中を押される。
ふと視界に入ったゴール上には、雨をものともしない優雅な黒翼がひかりをまとって浮かんでいた。
そのつばさにあるのは、今は翳りではなく、鶴岡監督を失っても前進しつづけた選手たちへの誇りのようだと、目にした礼音はおもう。
「先生?」
「……ごめんね、邪魔して。練習をつづけてください」
こころの中でさよならとつぶやき、礼音はグランドを後にした。




