のぼりたい山
* * *
つむじ風に目をつむった瞬間、ガン、と金属を打ちつけたような音がする。
じわじわとまぶたを上げれば、ゴールポストに当たってはね返ったとおぼしきボールが礼音のほうへころんできた。
みんながするように、と出来心で足を伸ばした礼音は、ボールに乗りあげた靴底がずるりとすべり、失ったバランスにたちまち後悔させられる。
一拍ののち、容赦なくしりもちの衝撃が襲い、ボールはコロコロと視界をころがり出ていった。
「先生……芸術的なまでの、運動音痴だね」
手のひらの砂をはらう礼音のそばまで来て、軽々とボールを従えた慶太が手をさしのべる。
「見てたの?」
「そりゃ、俺の蹴ったボールだし。先生って、前はずっと空ばっかり見てたけど、近ごろは俺が練習してるところ、よく見てるね」
慶太の手を取ると、ぐっと意外なちからに引っぱり起こされた。
「君は、学校を卒業したら、プロのサッカー選手になるって、聞いて」
「──今まで知らなかったんだ?」
「すみません……」
「ひとり勝手な練習ばかりしてて、生意気なやつだとおもってた?」
礼音は、あわてて首を横に振る。
「君は、いつも迷いがないように見えるから、そういうところがプロになるためには必要な要素だったのかな、とおもったりして」
「先生って、プロになりたいの?」
「え──……」
礼音はめずらしく自分から視線を合わせた。
「だとしても、サッカーのプロじゃないよね。俺がここに来て、監督に教わったのはふたつ。のぼりたい山があるなら、それがどんな形でどういう道なのか、まずは知ることだ、って。それと、今までたくさんの教え子がのぼってはつまずくところを見てきて分かった、サッカー山の見えない特徴、というか」
「見えない?」
「そう。まだ仮説だから、実証してくれって言われてたけど。うごく歩道って、あるだろ。サッカー山はどうやらあれの逆向きで、止まると知らずに下がっていくしくみだろうって。歩いたって前に進まないから、とにかく走るしかない。走って走って、走りながら考えて選択できるようにならなきゃいけないって。容易な道とか確実そうな道とか、足を止めて考えてるうちに、天辺はどんどん遠ざかる。ひとより高くのぼったからって一息つこうものなら、あっという間に後退していく。だから、何が起きても立ち止まっちゃいけない、考えるのは足元よりもさらに先を──監督が俺に要求したことは、たぶん、それだけ」
「あ。だから、君は……」
監督がいなくてもやることは変わらないと言い切った、まっすぐな背中をおもいだす。
「だから、俺は──どっかのサルが強要したがる、今しか見てないチーム戦術なんて、認めないんだ」




