SS-1
こんな時間ですが、クリスマス記念SSをアップします。
百年前に本当に有った伝説。
勇者の魔王討伐物語は別名妖精女王の恋物語と言われている。
百年経った現在でも勇者の生まれ故郷である勇者の国コンテラクト王国、そして中央地域のみならず、他の地域でも勇者と妖精女王、魔王の物語は受け継がれていた。
物語は勇者を主軸にするか、妖精女王を主軸にするか、魔王を主軸にするかで出発点が違う。
勇者であれば勇者の生まれ故郷コンテラクト王国、当時はファブリア王国と呼ばれる国の小さな村から始まり、彼が少年時代に自国の姫を助ける為魔の森へと向かうという英雄的冒険活劇。
妖精女王であれば彼女の棲む侵入者を迷わす幻惑の森の奥深く、世界樹の根本にある妖精郷へ少年勇者がやってきて小さな恋が始まる恋愛物語。
魔王であれば中央地域に存在した名が封印されし小さな都市国家の王子が、徐々に悪逆を尽くして人間初の魔王へと至る歴史小説物語。
勿論民衆に受けるのは勇者物語か妖精女王恋愛物語で、現在までに小説化、劇化を何度もされており、真実と妄想入り乱れた作家による解釈も交えた沢山の作品が生まれている。
研究者や一部の指導者たちには魔王歴史小説、いや、史実としての暴君秘話が支持され、現在でも高級書籍として取り扱われている。
何故魔王を主軸にした物語が一部とはいえ支持されているのか?
それは魔王が王子時代に行った政策は、使い方を間違わなければ国を豊かにし、軍備増強に繋がるからだ。
魔王は強大な力を持っていただけではなく、天才的な政治家でもあり軍略家でもあったからだ。
最終的には魔物の軍勢を率いて中央地域の過半数を支配した魔王は、当初は人間だけで侵略を行い、次々と他国を併合していたという事実がある。
魔王が魔物を率いるようになったのは、中央地域国家の連合軍に敗北し、瘴気の力に目覚めてから。
それまでは人の力だけで小さな都市国家だった魔王の国を大国にまで押し上げた。
ゆえに一部の者からは魔王物語が指示されている。
ただ全ての物語において主人公とされるのは、やはり勇者クリスだろう。
難病に侵され、魔王の国の暴虐により荒れた中央地域では薬が手に入らずに死を待つだけだった自国の姫の為、入れば戻ってこれないとされる幻惑の森に若干14歳で単身挑んだ若き勇者。
意志ある世界樹からの試練を乗り越え、妖精女王との友諠も得て、伝説の秘薬エリクサーを入手して姫を助ける。
国の騎士として頭角を現した若き勇者は魔王の国との戦争にも参加し、敵将を打ち破る活躍。
魔王が魔王とて覚醒した後、太陽神アマテルから神託を受け勇者となり、今まで手を貸さなかった妖精たちの協力を得て魔王討伐に成功した。
魔王の国との戦争でも勝利を決定付ける強襲部隊の先頭に立ち英雄的活躍を見せたり、人に関心のなかった妖精たちの心を掴んで魔王討伐に参加させたカリスマ。
勇者クリスがその時代の主人公である事は間違いない。
だからこそ、今だに勇者クリスはどの地域でも勇者として祭られている。
特に勇者が魔王を討伐した日に起きた奇跡。
勇者が死ぬまでその日に行った行為が、後の世で勇者と妖精女王を称える行為として現在も行われている年末の聖祭だ。
魔王討伐の日に起きた奇跡と勇者の晩年の行為。
魔王が勇者クリスによって死を迎えた時、魔王の体内に巣食っていたあらゆる災厄、瘴気が世界中に向けて放たれた。
もしそのまま瘴気がばら撒かれたなら、世界は瘴気に侵されて生物の住めない世界へと変貌していただろう。
だがそうならなかったのは勇者クリスが永遠に愛した存在、妖精女王メイヴが命を賭して瘴気を浄化したからだ。
世界中に放たれた瘴気は妖精女王の魔法によって白い粉、雪となって消えた。
妖精女王がその命を代償に行使した神の御業の如き大魔法は、魔王や魔物の軍勢に怯える人々の恐怖を打ち消し、儚く消える雪景色で心を温かくした。
人々は勇者クリスを救世主として称え、太陽神、月冥神、嵐神の三神殿は神々に感謝した。
だが真実を知る、妖精女王とその眷属である妖精たちが命を引き換えに起こした奇跡を知る勇者クリスだけは彼女たちに感謝した。
勇者クリスは魔王討伐と救世の褒美を滅亡寸前のファブリア王国、嘗て命を救った姫、一度他家へ嫁いでいたが王家復興の為に戻ってきた女王に報酬として王配、求婚された。
だが彼が愛するのは妖精女王メイヴただ一人であり、世界を救ったのは妖精たちであると真実を世界中に知らしめ、自身への褒美を断った。
勇者クリスは女王へ褒美ならば妖精たちへ、人間以外の種族に対する扱いを変えるように願いでた。
女王はその願いを魔王討伐の褒美ではなく、救世主である妖精たちへの褒美として叶え、異種族の奴隷制度廃止を約束し、これを期に国名を勇者との契約を意味するものへと変えた。
そして勇者クリスへの褒美は魔王討伐のみとし、彼が望む褒美、嘗て妖精女王が植えたトウカの樹の苗木と屋敷を与えた。
魔王との死闘により寿命を大きく縮め、その命が尽きるまで妖精女王が愛したトウカの樹と共に、それが勇者クリスの願いだった。
勇者クリスは屋敷を与えられてからの短い年月、死ぬまでの間屋敷で過ごし、魔王討伐の日にはトウカの樹を飾り付けて過ごしたそうだ。
樹の根元には沢山の花を、枝には小さな球体飾った。
それは妖精たちが棲んでいたとされる妖精郷、妖精の花園を模したもの。
愛する妖精女王メイヴと眷属たちを偲び、そうしていたとされている。
後にこれらの行為は民衆の間に広がり、名を変えコンテラクト王国となった勇者の故郷では毎年年末の魔王討伐の記念日に行われている。
それが聖祭だ。
「「「「「「「「「「メイビー、クリス、マース!」」」」」」」」」」
「きゅぃー!?」
その年が終わろうとしている頃、私はコンテラクト王国の王都孤児院にやってきました。
そろそろ湯船に浸かりたい欲求に耐えれなくなったが為に訪れたのですが、何だかお祝い事があるからと参加したのです。
そして参加してみたら食堂にオーナメントでそれぽく見える小さなツリーを置き、孤児院にしては豪華な食事が用意されていました。
まるでクリスマスみたいだなー、と思っていましたら皆で一斉に唱和したのです、クリスマスに言うあの言葉みたいなのを。
あ、自己紹介がまだでしたね。
私はアース世界からこのファンタジア世界に生まれ変わった転生者、妖精少女のサクラです、こんにちは。
「何を驚いてるんだ、サクラ?」
「あ、えーっと。私の知っている祭と凄く似てるなぁ、と思いまして」
「あー、やっぱりサクラの所でもやるんだな。そりゃあ本家だし」
「は、はあ」
さて、目の前に居るのは孤児院での世話係、本人も元孤児院出身者で元冒険者のジュリアナさん。
私が人里に出る切っ掛けとなった女性であり、私がエルフではなく羽妖精であるという真実を知る唯一の人です。
彼女はうっかり属性を持つ人なので、正体をばらすのはちょっと躊躇しましたが、現在の所その不安は杞憂に終わっています。
あの一件以来ジュリアナさんはとてもしっかりした性格、まるで人が変わったように本当に頼れる人にクラスチェンジしました。
職業は相変わらず探索者ですが、やっている事は孤児院の経営や孤児の世話、最近では近所付き合いも率先してやっているようです。
ジュリアナさんがジュリアナさんじゃない、と思わず呟いてしまい、苦笑いされてしまったのが印象的です。
「あれだよ、妖精女王と勇者への感謝を込めて楽しく過ごそうって日なんだよ、今日は」
「アナ、それは正確ではないわ。魔王討伐と救世への感謝と二人の愛の深さを知る日なのよ、サクラさん。楽しく過ごすのは妖精たちが自由で何でも楽しむ存在とされているからなの」
「そうなのですね。あ、もしかしてその小さな樹とかは幻惑の森の?」
「ええ、そうよ。クリス様は妖精郷を模してこの日に飾ったそうなの」
私に詳しく解説してくれたのはこの孤児院の院長である老淑女なリザリアさん。
皆からはシスターと呼ばれている女性で、実はこの国の元王族だったりします。
なのでこの孤児院は王族から守られた絶対不可侵の領域で、私が色々無茶をしても干渉されていない場所だったりします。
ファンタジー植物農園だったり、洗濯機などの機械類だったりですね。
さておき、シスターさんの話では、今日は百年前の魔王討伐が成された日であり、世界が救われた奇跡の日でもあるそうです。
その為この国では国民全てが行う行事としてこのような事をしてるのですって。
それこそ王侯貴族平民、奴隷を含めた全ての国民が祝う聖祭です。
この孤児院が立つ敷地こそが嘗て勇者クリスが晩年過ごした屋敷のあった場所だそうで、トウカの樹自体は彼の死と共に枯れてしまったそうです。
シスターさんがこの場所を貰ったのも勇者クリスの偉業と契約を守る存在として、籍を抜けたとはいえ王家の一員としての責務からだとか。
孤児院の敷地が広大だったり、しっかりとしていてちゃんとした造りの建屋だったり、敷地内に井戸がある理由。
私が何気に植えたファンタジー植物がちゃんと育つ理由がこの辺りにあったようですね、謎が解けた瞬間でした。
そして謎と言えば皆が唱和したあの言葉。
メイビーとは妖精女王メイヴが訛ってしまった結果。
クリスはそのまんま。
マースは感謝しますが訛って略された言葉。
なのでメイビー、クリス、マースとは、メイヴとクリスに感謝します、と言っているだけなのです。
妖精女王を一番感謝しているこの国だからこそのこの順番ですが、他国だったらクリスとメイヴに感謝します、だからこうは成らなかったでしょう。
取り敢えず、紛らわし過ぎきゅぃー!
まあ、やっている内容、美味しい料理を食べてみんなで楽しむ、飾り付けはトウカを模した小さなツリーに花や実を模した飾り付けなので、まんまクリスマスですね。
思わずこんな事までテンプレ?と疑ってしまいましたが、どうやら違ったようです。
なので私も一緒にこの日を楽しんで、お風呂に入ってゆっくりしました。
ふぅ、良い日でした。
後日、この日の事をよくよく考えてみました。
今までの傾向から行くと、無理やりこじ付けてはいますが聖夜祭をファンタジー世界でも行うというテンプレなんじゃないかと。
どうあってもテンプレを入れてきたがるファンタジア世界って一体なんなんですきゅぃー!
お読みくださってありがとうございました。
実はこの「Fairy tale」はこのSSを考えていて出来たお話です。
ファンタジークリスマスを考えていたら(私としては)壮大な物語を思いついて書き始めました。
なので、このSSが原点だったりします。




