0-1
女性主人公の新連載、と言う名のリハビリ連載、です。
タイトルの、0-、はプロローグ部分に当たります。
基本的に主人公だけのほのぼのとした生活風景を書いてます。
ほのぼの?
私が憧れたのは神秘であり可憐です。
決してピンクでプニプニではありません。
ちゃんと希望は伝えたはずですし、あの人から了承されたはずでした。
なのになのに、なぜ、私は。
「イモムシになってるんですかーーーーーーーーーーーーー!?」
不慮の事故で死亡した私が生まれ変わったのは幼虫でした、しかも神様の計らいで。
私の名前は神藤咲良、つい先ほどまで公立高校に通う女子高生をやっていました。
お父さんは商社務めのサラリーマン、お母さんは小学生の時に離婚して赤の他人です。
お父さんは優しいけれど帰って来ない日があるほど仕事が忙しく、私はさみしい思春期を過ごしました。
家の事をやる人がいないので、小学校高学年から家事は私が担当し、授業が終われば即帰宅。
そんな私に仲の良い友達ができるとでも?
そうです、私はボッチですがなにか?
スマホに登録されたデータなんてお父さんと親戚ぐらいで、ラインもお父さん専用です。
お母さんが家を出てしばらくは寂しさで胸を痛めていましたが、今ではすっかり慣れてしまいましたし、逆に大勢で何かをする方が苦痛だったりします。
そんな私ですから学校でも浮いているのは当たり前で、さらにボッチ度が加速してクィーンオブボッチ街道まっしぐらです。
それを受け入れた私はもう無敵、何も怖いものはありません。
などとフラグを立てたのがいけなかったのでしょうね。
それはもう、唐突に人生の終焉を迎えました。
ごめんなさい、お父さん。
娘の死を目の前で晒してしまって。
せめて花嫁衣裳ぐらい見せてあげたかったのですが、彼氏、いえ、男友達すら出来たことがなかったので諦めてください。
ごめんなさい、お父さん。
私の部屋をアニメやゲームをはじめとしたオタクグッズで溢れさせて。
あ、でも腐海にはのまれてませんからそこだけは安心してください。
などと最後に思いつつ、私、咲良の16年の人生は終わったのでした。
「・・・久しぶりの回るお寿司だったのにな」
「そんな辞世の句を聞いたのは初めてだね」
「一年以上食べてなかったんですよ?」
「確か君のお父さんは日本でもそれなりの会社に勤めてなかったかい?」
「そうですけど、お母さんへの慰謝料を払ってますから毎月赤字覚悟なんです。先月もお父さんのお小遣いを減らしたばかりでしたし」
「その割には趣味がオツだね」
ええ、オタク趣味は色々とお金が掛かるのです。
その費用を捻出する為に毎月赤字覚悟でした。
趣味の所為で家計圧迫ならお父さんの小遣い減らすなよ、と言う声は聞こえません、あーーーー。
「人間って大変だね。僕は神に生まれて良かったよ」
「え?」
今、この人なんと言いました?
アナタハカミヲシンジマスカー?
いやいやいや、私、気が付いたらこの目の前にいるイケメンおにーさんと自然に会話してましたけど、まさかそのおにーさんが自称神の変態さんだったとは。
いえいえ、そもそもなんで私会話なんぞしているんでしょうか?
私、どう考えても即死だったと思うのですけど。
久しぶりに早く仕事が終わるからとお父さんと待ち合わせしてて、やっと来たと思って駆け寄る途中で暴走トラックが目の前に・・・
うん、どう考えても終焉迎えちゃってますよね。
「あ、だから神様と対面しててもおかしくはないのかな?」
「意外と早い復帰だったね」
「切り替えが早い方ですから」
「なるほど、それは素晴らしい能力だね。ところで話をしちゃってもいいかな?」
「あ、はい」
よくわかりませんがイケメンおにーさんは私にご用事があるようで、聞く体制になった私を見つつ頷いてます。
この時初めてじっくりこのおにーさんを見たのですが、高身長でイケメンフェイスとどこのスター様なんでしょう?と言わんばかりのお人です。
あ、神様だから御柱って数えるのかな?
見た目は西洋、フランスあたりの人種ぽいので神道の考えは当てはまらないかもしれませんけど。
「実はね、君、サクラさんは死ぬ予定ではなかったんだよね」
「えっと、どういう事でしょう?それにやっぱり死んでるんですよね、私。あとここはどこなんでしょう?」
予定になかった死亡通知を頂きましてさらに冷静になったのか、周りに目を向ける余裕が出てきました。
死後の世界を表現した話は数あれど、私が現在いる場所は宇宙に居る、といった方が正しいかもしれない空間です。
日本人なんだから河原か雲の上じゃないんですかー?とか、アニメみたいにどっかの神殿だかにいるんじゃー?って気がするんですが真っ暗闇の中に色とりどりの光点が散らばる世界に居るのが私と神様です。
「流石に一トン以上の物体が時速100Km以上のスピードで激突したらこの世界の人間だと即死だよ」
「ですよねー」
「そしてここは死後の世界とかではなく集合的無意識領域、那由他の魂の根源などと言われるところだね。全ての魂ある存在はここで繋がっているんだよ。まあ、地球限定だけど」
「ユングが提唱していたものですよね。あれって正解だったわけですか」
「ちょっと違うけど概ね正解ってやつだね。それで君が死ぬ予定になかったって話だけど」
「あ、ラノベなんかによくあるパターンですか?」
「うん、日本人はそっちに繋げる人多いよね」
ん?今の神様の発言はちょっと気になりますね。
もしかして私だけが特別に神様に会っているんじゃなく、死んだ人全員と会ってるんでしょうか?
もしそうだとしたら神様という職業はとても大変だと思います。
世界中で毎秒何人の人が亡くなっているかは知りませんがかなりの人数亡くなってますよね、一日に。
その方たち全員と会っているならどうやって処理しているんでしょう?
やっぱり複数の神様が居て分担でもしているんでしょうか?
気になりますが、今は関係ないですし続きを話してもらいましょう。
「話の腰を折ってすみません。続きをお願いします」
「いやぁ、君は素直で助かるよ。それでね、君は本来老衰で亡くなる予定だったんだよ。それが不運が重なって交通事故死したんだ」
「不幸だったという事ですか。でも、それごときで神様が登場するのはなぜでしょうか?」
「・・・この話をすると責任取れとか喚く人が出てくるのに君には助かるよ」
苦笑までイケメンとは流石神様です。
そしてそういう展開もラノベぽいですね。
実はラノベってフィクションじゃなくノンフィクションだったというオチですか。
あ、私が実体験してました、現在進行形で。
「神である僕の過失って訳でもないし、他の神の過失でもないから責任は取れないんだけどね、どっちにしろ」
「偶々あの運転手が居眠り運転しちゃってて、偶々お父さんの仕事が早く終わってとかが重なった結果だとか、そういう事ですか」
「似たようなものかな。居眠りじゃなくスマホを弄ってて信号無視ってのが真相だけど」
「うわぁ。あ、もしかして結構死人がでたのでは?あとお父さんは無事なんでしょうか?」
「死亡したのは君だけだね、重軽傷者は多数だけど。あ、君のお父さんは無事だよ。君を目の前で失ったショックで自殺しそうになってるけど」
「ええっ!?」
ちょっとお父さん、何やってるの!
私の慌てぶりに気を利かせたのか神様がかっこよく右手を振るうとどこかのビルの屋上らしき映像が表れ、お父さんが縁に近づこうとしているのが見えました。
「と、飛び降り自殺でもするつもりなの、お父さん!」
「そうみたいだね。君をよっぽど愛していたのか、耐えれなかったんだね」
「ど、どうにか止めれないんですか?」
「現世には介入できないようになってるからね、僕は」
「お願いします、何とかお父さんを!」
「うーん。実は君のお父さんはもうじき死ぬ運命なんだよね。原因が娘の死を悲しんでの自殺ではなかったけど」
「ええっ!?じゃあどうにもできないって事ですか?」
「やれるんだけど、それをすると君が生き返れなくなるんだよね」
「い、生き返れる?」
「うん。実は話の内容ってのが死ぬ予定がなかったから生き返ってね、奇跡的に。というものだったんだよ」
「じゃ、じゃあ私が生き返ったらお父さんは自殺しなくても・・・」
「自殺しなくても数日後には発作を起こして」
「ええっ!?」
な、なんという理不尽展開なのでしょう。
死んじゃったけど生き返れるよ、と聞かされたのにお父さんが死んじゃうのは止められないってどうしたらいいの?
「まあ、その死の予定を覆すには誰かさんの可能性を移し替えるしかないんだけど。誰かさんってのは君の事だけど、やる?」
流石神様!実は何とかできるようです。
でも、それはそれで私への完全死亡告知な訳ですが。
しかし元々死んじゃった私の命なんですから最後の親孝行に使ってもいいですよね?
お父さんが真実を知ったら怒られて悲しませそうだけど。
「解りました、私の命を使ってください」
「うん、君は良い子だね。折角だからお父さんに何か伝えるかい?」
「でしたら・・・」
見慣れたはずの夜景もいつも以上に霞んで見える。
喫煙の序でに立ち寄るこの屋上から眺める夜景は最早娘の顔より見慣れたものになっていた。
「・・・咲良」
俺にはもう咲良しか居なかった。
両親は早くになくなったし、兄も数年前に癌で亡くなったから肉親はすでにいない。
元妻のあの女は金を要求するだけの害虫のような存在だ。
今や俺の生きる意味は咲良だけだった。
それなのに俺の目の前であの男が運転するトラックに・・・
だからもう生きる意味がない、もう苦労する意味もない。
あの女に渡す金を稼ぐだけの人生とか耐えれない。
だから終わらせよう、そう思って歩いている。
目の前には見慣れた、でも色あせた夜景がある。
あと数十歩、数歩歩けば終わらせれる。
そんな俺の視界に何かが横切った。
「アゲハ?・・・こんな季節に珍しい」
アゲハ蝶が飛んでいる。
本当に珍しい。
もうすぐ冬を迎えるこの時期に、地上数十mのこのビルの屋上に蝶が舞っている。
アゲハ蝶は娘の咲良が好きだったもの。
まだまだ小さかった頃に一緒に行った公園で捕まえた時は本当に瞳を輝かせて喜んでいた。
そんなアゲハ蝶が飛んでいたから思わず歩みを止めた。
季節外れの場違いなアゲハ。
その蝶は俺に笑顔の娘の記憶を思い出せて、運んでくれた。
―――――お父さん、今までありがとう。私の分も生きてね。
娘の声と共に。
「さ、咲良ぁあああああああああああ」
俺は咲良が死んでから初めて涙を流した。
お読みくださってありがとうございます。
プロローグは2話までありますので、すぐにもう1話アップします。