第68話 よろしく
風は噂を運ぶ。
次の日には、騎士団中がなんとなく、あたしとダールを見守るような空気になっていた。
「……エリサ」
思わず空を見上げる。
風がくすくす笑っているような気がした。
でも、不思議と嫌な気はしなかった。
騎士団での日々は忙しかった。
怪我人が出れば治療をして、怪我人がいなければ厨房を手伝い、洗濯をし、裁縫をする。
時々、水の坊主が張り切りすぎて厨房を水浸しにしたり、風の子たちが洗濯物を全部飛ばしたり。
<銀のちいひめ、ごめんなさい>
精霊たちは、悪びれもせず謝る。
「もう、しょうがないなぁ」
そう言うと、みんな嬉しそうに笑うのだった。
騎士たちも、最初は奇跡の治療士だと遠慮していたけれど、今では普通に話しかけてくれる。
ここは神殿じゃない。
誰かに命令される場所でもない。
誰かに利用される場所でもない。
ここには、一緒に笑ってくれる人たちがいた。
夕暮れ。
訓練を終えたダールが、治療室をのぞいた。
「今日は終わり?」
「うん。もう患者さんもいないわ」
「少し歩こうか」
並んで守護の森を歩く。
沈みゆく夕日が木々の間から差し込んでいた。
「マリベル」
「なあに?」
「騎士になって良かったと思う」
ダールは照れくさそうに笑った。
「お前を守れる場所だから」
胸が少し熱くなる。
エリサの言葉が頭をよぎる。
『告白しちゃいなさいな』
……まだ、早い。
でも。
「ダール」
「うん?」
「これからも、よろしくね」
それだけ言うのが精一杯だった。
ダールは優しく笑う。
「ああ、よろしく」
その笑顔を見て、あたしも笑った。
精霊たちが風に乗って歌い始める。
いつか、この先にどんな未来が待っていても。
泣く日があっても、迷う日があっても。
あたしには帰って来られる場所がある。
そう思えた。




