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クリストファー・リー・カイゼルベルグと書庫の秘密  作者: 青山 高峰
第一章

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2 バラの図書室



(ひろ)げた本をそのまま(ほう)()げて、指揮棒(しきぼう)を引っ(つか)む。(つか)む時、手のひらを()ったが、(かま)わずに自室(じしつ)のドアを()び出した。背後(はいご)でドアが大きな音を立てて閉まる(ころ)には、もう廊下(ろうか)半分(はんぶん)ほど(はし)っていた。


この時間(じかん)に、図書室(としょしつ)から異音(いおん)なんて明らかにおかしい。なんだか胸騒(むなさわ)ぎがする。廊下(ろうか)電気(でんき)を入れながら、図書室(としょしつ)のある東棟(ひがしとう)(つづ)(とびら)目指(めざ)して走った。(とびら)近くまでくると、図書室(としょしつ)(おく)にある書庫(しょこ)(とびら)()らす音が()こえ、それが徐々(じょじょ)に大きな音に変わった。大きく(いき)()いこみ、一度(いちど)(みずか)らを()()かせ、(とびら)(ひら)いた。


そこは円形(えんけい)図書室(としょしつ)で、天井(てんじょう)が高く、中央(ちゅうおう)半円形(はんえんけい)書棚(しょだな)が二つ、そして左右(さゆう)(かべ)沿()うように書棚(しょだな)が(ほぼ天井(てんじょう)まで)ある。上から見るとちょうどバラの花が(ひら)きかけた(かたち)に見えることから、バラの図書室(としょしつ)異名(いみょう)()っている。本は全てリー一族(いちぞく)古代(こだい)より(あつ)めてきた魔術(まじゅつ)歴史(れきし)(かん)するもので、膨大(ばくだい)蔵書数(ぞうしょすう)(ほこ)っている。天井(てんじょう)まで()びる書棚(しょだな)には梯子(はしご)がかけられており、うず高く(おさ)められている本にアクセスできるようになっている。


今、小さな人影(ひとかげ)階段(かいだん)一番上(いちばんうえ)、入り口から一番(いちばん)(とお)書棚(しょだな)に手を()ばすのに(いそが)しかった。あの最上段(さいじょうだん)書棚(しょだな)には、50センチはある大型本(おおがたぼん)(とく)大人向(おとなむ)きの(むずか)しい魔術(まじゅつ)の本が(はい)されており、いたずらに子どもたちが手にできないようになっている(大型本(おおがたぼん)配置(はいち)している理由(りゆう)は他にもある)。


ドレス姿(すがた)少女(しょうじょ)強引(ごういん)に本を引き出そうとして(いそが)しかった。両足(りょうあし)梯子(はしご)にふんばり、両手(りょうて)で本の()に手をかけ、細身(ほそみ)自分(じぶん)(からだ)を使って、本を()っこ()こうとしている。長い金色(きんいろ)(かみ)()れ、本が引き出された瞬間(しゅんかん)、バランスを(くず)し、足を()(はず)した。


「きゃあああ」


少女(しょうじょ)悲鳴(ひめい)をあげた。ボリュームのあるスカートが梯子(はしご)にひっかかったのも(つか)()繊細(せんさい)生地(きじ)がビリビリっと音を立て(はじ)めた。


「いっ、いやー」


クリストファーは本棚(ほんだな)の下に()()んだ。生地(きじ)繊細(せんさい)さと地球(ちきゅう)重力(じゅうりょく)(さか)らえず落ちてきた少女(しょうじょ)をガッチリと(うで)の中に()け止め、落下(らっか)してきた大型本(おおがたぼん)(たく)みに()けた。


()()った」

 ほっとして言うと、少女(しょうじょ)恐々(こわごわ)目を開いた。


「ああ、よかった。ありがとうクリス! あの上から落ちた時にはもう……」


 そこまで言って、少女は口ごもった。手を取られて、(ゆか)に立たせてもらった手を見つめている。その手が()(よご)れたからだ。


問題(もんだい)ないさ、マリー」

 疲労(ひろう)(かん)じながら言った。


「こんなのたいした(きず)じゃないから」


 マリーの()(おく)罪悪感(ざいあくかん)の色が見え(かく)れしている。


「だ、代償(だいしょう)魔術(まじゅつ)、まさか瞬間(しゅんかん)移動(いどう)魔術(まじゅつ)を使ったわけじゃないわよね」

 マリーはつっかえながら言った。


代償(だいしょう)魔術(まじゅつ)とは、自分(じぶん)肉体(にくたい)一部(いちぶ)()し出すことで目的(もくてき)(かな)える魔術(まじゅつ)で、とびきりの即効性(そっこうせい)がある。瞬間移動(しゅんかんいどう)魔術(まじゅつ)はこの代償(だいしょう)魔術(まじゅつ)分類(ぶんるい)される。空間(くうかん)(ゆが)めて移動(いどう)する魔術(まじゅつ)で、()し出す代償(だいしょう)移動(いどう)する距離(きょり)によるものの、ほとんどが血液数的(けつえきすうてき)()む。|しかし(ほか)代償(だいしょう)魔術(まじゅつ)の中には、もっと大きな代償(だいしょう)必要(ひつよう)とするものもある。


「マダム・リーに(おこ)られない?」

 マリーの言う(とお)り、マダム・リーはこの“代償(だいしょう)魔術(まじゅつ)”を使うことを(きん)じている。そもそも黒魔術(くろまじゅつ)(ぞく)するからだ。


「まさか」

 おどけて言った。


「そんなの使えるわけないだろ」


「そうかな……わたしにはクリスが突然(とつぜん)(あらわ)れたように(かん)じたわ」


 (むね)の中にどうしようもない(むな)しさが(ひろ)がった。(きん)じられた黒魔術(くろまじゅつ)どころか魔術自体(まじゅつじたい)が使えないっていうのに!


「それより」

 ぴしゃりと言った。


「マリーこそ、お茶の時間にこっそり()け出して、図書室(としょしつ)をあさるなんて、どういうつもりだよ」


(おこ)らないでよ、クリス。わたしはただ復活(ふっかつ)魔術(まじゅつ)(さが)していたの」


復活(ふっかつ)魔術(まじゅつ)! なんだってそんなもの……」


 復活(ふっかつ)魔術(まじゅつ)ってのは病人(びょうにん)元気(げんき)にさせる魔術(まじゅつ)。ってのは建前(たてまえ)実際(じっさい)死者(ししゃ)をも生き(かえ)らせることができるものだ。代償(だいしょう)魔術(まじゅつ)分類(ぶんるい)される上、最大級(さいだいきゅう)禁忌(きんき)。クリストファー自身(じしん)、そういう魔術(まじゅつ)があるというのは本で()んで()ってはいるけど、やり方は()らない。そもそもそんな(だい)それた魔術(まじゅつ)、この図書室(としょしつ)にマダム・リーが()くはずがない。(おく)にある秘密(ひみつ)書庫(しょこ)ならともかく……。


「だってロルの具合(ぐあい)(わる)いから」

 マリーの(こえ)現実(げんじつ)に引き(もど)された。ロルというのは、マリーの愛犬(あいけん)トイプードルのことだ。


「でも復活(ふっかつ)魔術(まじゅつ)なんて、そんなものないよ」


(うそ)

 マリーが即座(そくざ)反論(はんろん)した。

「わたし達一族(いちぞく)には、禁断(きんだん)魔術(まじゅつ)があるって聞いたことあるもの」


「ふーん、ならマダム・リーに直接(ちょくせつ)聞いたら」


「クリスったら、なんでそんな意地悪(いじわる)なこと言うの? わたしには、ううんクリス以外(いがい)(ほか)(だれ)にも、マダム・リーは魔術(まじゅつ)(おし)えないし、魔術(まじゅつ)の話すらしないって知っているじゃない。だから、わたしはこうして図書室(としょしつ)に――」


(ぬす)みに入った?」


(ちが)うわ。ちょっと本を()りようと思っただけよ。ちゃんと(かえ)すつもりだったし。(わる)(こと)なんてし、してないもん」

 マリーが小さな(むね)()った。桃色(ももいろ)(くちびる)も、(いど)むようなアクアマリンみたいな()んだ青い(ひとみ)可愛(かわい)い。ピンク色のワンピースもなかなか似合(にあ)って……。


「そういうのはマリー、スカートを()いてから言えよ。水玉(みずたま)のパンツを見せられながらだと説得力(せっとくりょく)ない」

 マリーはビックリして視線(しせん)を落とした。そこで(はじ)めて自分がパンツ姿(すがた)なことに気づいたらしく、()()になってしゃがみこんだ。


「どうして早く(おし)えてくれないのよ」


「ん? 良い(なが)めだったから」


「バカ!」

 視線(しせん)梯子(はしご)(うつ)すと、スカート部分(ぶぶん)梯子(はしご)にひっかかり、(ふじ)の花のように()れ下がっている。


「あーあ、せっかくスカートをとってきてやろうと思ったのに」


「もうっ、クリスの意地悪(いじわる)!」


 梯子(はしご)に手をかけた時、背後(はいご)魔力(まりょく)の光が(あつ)まるのを(かん)じた。


梯子(はしご)に引っかかっていたスカートが羽根(はね)を広げた(とり)のように()びあがり、いきなり急降下(きゅうこうか)してきた。びっくりして()ける。()(かえ)ると、立ち上がったマリーの上半身(じょうはんしん)前身(まえみ)ごろと(うし)()ごろにスカートがビタッとくっついた。まるで磁石(じしゃく)砂鉄(さてつ)がくっつくように、ぴったりと()い合わさっている。魔術(まじゅつ)としても、縫製(ほうせい)としても完璧(かんぺき)だ。


「すごいな」

 思わず感嘆(かんたん)の声をもらした。


 するとマリーも自分でしたことに自分で(おどろ)いたように目を(まる)くしている。

「どうしてできたのかしら、こんな(むずか)しい魔術(まじゅつ)


 魔術(まじゅつ)感触(かんしょく)(たし)かめるようにマリーが自分のピアスに()れた。マリーの(ひとみ)と同じ色のアクアマリンのピアスは、マリーの魔術(まじゅつ)を引き出すアイテムだが、普段(ふだん)透明(とうめい)水色(みずいろ)(ちが)い、今はまるでサファイアのように(ふか)い青色になっている。マリーの魔術(まじゅつ)最大限(さいだいげん)まで引き出された証拠(あかし)だ。魔力(まりょく)0の俺とは大違(おおちが)い。


「さすがは優等生(ゆうとうせい)のマリーだな」


「そんなことないわ」

 マリーが()ずかしそうに(かた)をすくめる。


「クリスだってこれくらいの魔術(まじゅつ)使えるようになるわよ」


 何の魔術(まじゅつ)も使えない|俺にとって嫌味(いやみ)でしかない言葉(ことば)だけど、マリーのピンクのバラの(つぼみ)みたいな(くちびる)から出てくるとそうは聞こえない。()(とお)るようなアクアマリンの目はまっすぐで、“いつかクリスも魔術(まじゅつ)を使える”と本気(ほんき)で思ってくれている。本当(ほんとう)素直(すなお)屈託(くったく)がない優等生(ゆうとうせい)で……俺のことなんて一生(いっしょう)分からないだろう。(なさ)けなくて(わら)えてきた。


「クリス? 何で(わら)うの?」


「いや。もし俺が魔術(まじゅつ)を使えるようになったら、もっと(たけ)(みじか)くしてやるよ」

 スカートの(すそ)を思いっきりつまみ上げてやった。すると、またマリーのパンツが(あら)わになった。


「何するのよ!」

 マリーが()()になって俺の手を(たた)こうとしたその(とき)図書室(としょしつ)(とびら)(ひら)いた。深紅(しんく)のドレスを()()の高い金髪(きんぱつ)の女性が入ってきた。


マダム・リーだ。


 その()には何の感情(かんじょう)()かんでいないようにも、あらゆる感情(かんじょう)()かんでいるようにも見える。


「おばあさま、ご機嫌麗(きげんうるわ)しく……」

 (ひざ)()って(れい)をしようとすると、手で制止(せいし)された。


挨拶(あいさつ)はいい。それよりクリスとマリーはそこで何をしている?」


 (おだ)やかな声だが、(となり)に立つマリーが(ちぢ)みあがるのを(かん)じた。


禁忌(きんき)である復活(ふっかつ)魔術(まじゅつ)(さが)していた、などと、マリーが言えるはずもない。ため(いき)を一つついてから、口を開いた。


「本を読んでいたんです」


 マダム・リーの視線(しせん)(すで)(ゆか)に落ちている大型本(おおがたぼん)(うつ)っている。

「それで、マリーは?」


「わたしは……えっと……」

 マリーの(ふる)えは(すで)に声にまで(およ)んでいる。その(ふる)えがうつらないよう、ゆっくりと口を開く。


「マリーはお茶の時間だからと()びに()てくれたんです」


「そうか」

 マダム・リーが油断(ゆだん)ならない()でマリーを見つめている。


「マリー、クリスは魔術(まじゅつ)勉強(べんきょう)優先(ゆうせん)させるため、お茶会への参加(さんか)自由(じゆう)になっている。夏をここで()ごすのは(はじ)めてではないだろうに、(わす)れたのか? まさか許可(きょか)もなく、ここの図書室(としょしつ)(あさ)っていたわけではないだろうね」


 マダム・リーはさすがに(するど)い。(そこ)のしれない(みずうみ)のような青い目に見据(みす)えられ、マリーがうつむいた。小刻(こきざ)みに(ふる)えながら口を開く。


「まさか……そんな……はずありません。ただここで……」


「ここで?」


「俺に(せま)っていただけです。マリーは俺とどうしてもお茶会に出たいからって」


 マリーが()()になって顔を上げた。その()が“なんてこと言うの!”と抗議(こうぎ)している。しかし、突然(とつぜん)マダム・リーが声を上げて(わら)った。


「ならばクリス、今日はお茶会に参加(さんか)するしかないな。まだ始まったばかりだ。2人ともおいで」

 マダム・リーが深紅(しんく)のドレスを(ひるがえ)し、図書室(としょしつ)から出て行った。

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