2.俺の幼馴染みが騎士団所属になりました①
「じゃあエル、行ってくるね」
あれから数年の月日が流れて、十五歳になったルーカスはその実力を認められて最年少で騎士団所属になった。
騎士団所属になると王都に住んで任務にあたらなくてはいけなくなるらしく、今日は王都に向けて出発する日になった。
「体には気をつけろよ。怪我するなよ」
「うん。エルに心配かけないように怪我しないで頑張るね」
ずっと後ろをくっついてきたり、俺の身長を越して大きくなってからも俺にべったりだったルーカスはあっさりと挨拶を交わして出発した。
「…………寂しいのは俺だけかよ」
思わず誰にも言えない本音が漏れた。
「それにしてもルーが騎士団かぁ~。今度帰ってくる時は恋人とか嫁さん連れて帰ってきたりして」
自分で言った言葉がグサッと刺さったような気がする。
「俺はどうしようかなぁ」
父さんは農家へ働きに行っているし、母さんは家で刺繍の仕事をしている。十八歳が成人とされるこの世界で、俺は父さんと一緒に農家へ手伝いに行ったり、市場で荷下ろしの手伝いをしていたがそろそろ定職に就いて親を安心させたいと思う。
「農家は向いてなかったし、市場の荷下ろしも結局最後までできなかったんだよな。商人に弟子入りして世界各国を回ってみるとか?」
それはそれで面白そうだなと思う。世界は広い。前世とは違って魔物が出るけど魔法も出てくるファンタジーな世界だ。世界を見て回ればいつか俺にも天職が見つかるかもしれない。
(王都の騎士団にいた父さんなら、商人に弟子入りする方法も知っているような気がする)
「まずは父さんに相談してみるか」
ルーカスを村境まで見送った俺はそう決めると、父さんが働いている場所まで移動することにした。
「父さん!」
「おぉ、エルか。こんな所までどうしたんだ?」
「ルーが騎士団に向かったから見送りしてきた帰り」
「今日だったのか」
見送りは俺しかいなかった理由って、もしかしなくても誰にも行く日を言ってなかったとか?
「えっ、もしかしてルーの奴、父さんにいつ行くか言ってなかったの?」
「近々とは聞いていた」
「マジかよ。もしかしてマリーさんも知らないなんてこと……」
「母親が子供のことを知らないわけがないだろう? 未成年が騎士団に入る手続きには親の承諾が必要だからな」
「知ってるのに見送りしなかったってこと?」
「ルーカスも大人ぶりたい年頃なんじゃないか?」
「大人ぶりたい年頃……。確かに俺が見送った時も『隣村に買い物行ってくる』みたいな随分あっさりした挨拶と態度だったな」
「途中で乗り合い馬車に乗ってもこの村から王都までは十日はかかる。すぐに帰って来られる距離ではないな」
(だから父さんは騎士団長を辞めて王都から遠いこの村で母さんと住むことにしたんだろ? 今考えても騎士団長と隣国の姫様の駆け落ちって凄いよなぁ。しかも政略結婚させられそうだったからさらったって行動力も我が親ながら凄い。俺もその行動力を見習って世界中を旅してみたいな)
「ルーが『やっぱり行きたくない』って駄々こねると思ってた」
「ルーカスには目標があるからな。それはないだろ」
「ルーの目標?」
幼馴染みで仲のいい俺ですら聞いたことがないルーカスの目標を父さんは知っているらしい。
「カッコよくて憧れる騎士になりたいんだどさ」
「ルー、めちゃめちゃ頑張ってたもんな」
「誰にも負けたくないんだとさ。成人するまでに絶対俺に勝って願いごと一つ叶えてもらうって張り切ってたぞ」
「ルーが父さんに願い事? 何をお願いされたの?」
「それは俺に勝つまで言わないってさ。無茶は言わないから叶えて欲しいって」
「ルーらしいな」
「ところでエルはルーカスのことを俺に知らせにきたのか?」
いなくなってしまった幼馴染みのことで父さんと盛り上がり、肝心なことを話すのを忘れていた。
「それもあるけど、父さんなら商人になる方法知ってるかと思って」
「エルは商人になりたいのか?」
「なりたいっていうか興味があるって感じかな」
「残念だがエルは商人になれない」
「それはどうしてだか聞いてもいい?」
なれないという理由だけでは納得できず、具体的な理由をたずねる。
「商人になるには商人の息子か、そうでないなら五歳の頃から商人に家で住み込みして働かなくては商人になれないからだ」
「五歳の頃から……」
(まだ親と一緒にいて甘やかしてもらえる年齢から住み込みで働くって、商人になるって大変なんだな)
「商人になるって厳しい世界なんだな」
「なることも大変だがなってからも大変だ。商人になっても雇われだと給料が安いし、自分で商会を作っても商才がなければあっという間に潰れてしまう」
「そっか。思ってた以上に厳しい世界なんだな。俺は雇われでどっかに働きに出られるならそれでいいんだけど……」
「ここで一緒に働くか?」
農家の朝は早い。そして体力勝負なところもあるので俺には難しいと思う。
「父さんが働いているのにこれ以上ここに人手は必要ないだろ? 今まで通り、何でも屋みたいに村の手伝いしながら町に行って仕事探すつもり」
「…………そうか」
父さんが心配そうな顔で俺を見ているが町で働くならこの村からのほうが近いし、実家からも通える距離だ。そこまで悲観することもないと思う。
夕飯を終えて父さんと母さんに挨拶をした後、少し早い時間にベッドに入る。いつもならもう少し遅くまで起きているが、明日は朝早くに家を出て町に行って仕事を探すつもりなので早めの就寝だ。
布団に入るとすぐに睡魔がやってくる。俺の体はよほど疲れていたらしく今までで一番ぐっすり眠れた気がする。