2.俺の幼馴染みが騎士団所属になりました②
翌日朝一で町まで歩いて向かい、職業斡旋所に着くと求職者情報を登録をした。更に今募集されている職業が壁に貼り出されているので隅から隅まで見た。
「条件がいいところはどれも要経験者なんだな……」
仕事を選り好みするわけではないが『安い、大変、残業が出ない』というブラックなところでは働きたくない。前世で俺はそれが揃ったブラック企業に就職してしまい、過労で何度も倒れて辞めようとしていた時に家で倒れてそのままこちらの世界に転生したのだ。
「こっちの世界でもそんな所で働くとか絶対嫌だ」
俺がそんなことを考えていると背後から声をかけられた。
振り返るとそこには俺と同じように求職者らしき女性がいた。長い金髪を後ろでまとめていて、エルフの血でも入っているのか目鼻立ちがハッキリしている。スタイルもよくて明るい緑色の瞳が綺麗だ。歳は俺とあまり変わらないように見える。
「あなたも仕事を探しているの?」
彼女は俺のほうを見ながらそう言葉をかけてきた。
「ああ。だけど、なかなか条件に合う仕事が無くて……」
「確かにこの町は失業率が高くて今出ている条件のいい求人は要経験者ばかりで困っちゃうわね」
その女性の言葉が俺の中で引っかかる。
「この町は失業率が高いんですか?」
俺の問いかけに女性はうなずく。
「高いわね。私色んな町へ行って仕事しているんだけど、この町の失業率は断トツで高いわ。なんせ五人に一人が失業してる状態だもの」
「え? そんなに失業している人が多いんですか?」
「ええ、大きな商会が倒産してそこで働いていた人や取引業者まで連鎖反応でみんな仕事を失ってしまったらしいわ」
彼女の言葉に俺はショックを受けた。俺が今までいた村ではそんなことは聞かなかったし、町は村より栄えている場所だから仕事もたくさんあると思っていたのに……。俺は改めてこの町の実情に驚いた。
でも、同時に疑問が浮かんできた。その大きな商会とやらは一体何の仕事をしていたのだろうか? 営業妨害をされたなら、その損害を補填するために銀行からお金を借りたり新たな取引先を開拓して経営を何とかするものではないだろうか? それとも、営業妨害とかは関係なしに商才がなくて経営不振に陥っていたのだろうか? 考えれば考えるほど分からなくなる。
そんなことを考えていると、再び彼女に声を掛けられた。
「そういう訳だからこの町で仕事を探すのはオススメしないわ」
「この町の就職事情に詳しくないので助かりました」
「別に気にしないで。あなたみたいな善良そうな人があくどい企業で奴隷みたいに働かされてしまうのは見過ごせないもの」
「俺って善良そうに見えますか?」
そんなこと誰からも言われたことがないので初対面の人にそう思われたのが不思議で疑問を投げかける。
「善良な人にしか見えないわね。だって私が言ったことを少しも疑っていないじゃない」
「それは貴女が嘘を付いているようには思えないからです」
「そうかしら? もしかしたら私はあなたのことを騙そうとしているかもしれないわよ?」
「そんな風には見えないです」
初対面の俺を騙してこの人にメリットがあるとは思えない。それなら純粋に親切で教えてくれたと考えるのが当然だ。
「……ふふっ。あはははっ」
彼女は俺の返事を聞くと笑い出した。
「ごめんなさい、別にあなたを馬鹿にしたわけじゃないのよ。ただ想像以上に純粋だなと思って」
「それは良かったです」
純粋で笑われる意味がわからないが親切にしてくれた人なので穏便に済ませることにする。
「じゃあ私は次の町に行くわ。時間をとらせてしまってごめんなさいね」
「貴重な情報、ありがとうございました」
もう会うこともないだろうし、相手も名乗らなかったので俺も名乗らず別れた。
「この町で仕事が無いならもっと遠くの町に行かないと。でもそうなると通いで仕事するのは無理だな」
次の町まではこの町から歩いて半日かかる。ということは村から移動するとなると八時間以上が片道の通勤にかかるわけで、そんな距離と時間を毎日歩いて通えるわけがないとため息をつく。
ちなみにこの世界は魔法はあるのに陸路の乗り物は一人で乗る馬か乗り合いの馬車しかない。前世のように自転車やバイクや自動車、電車なんていうものは存在しない。
上級魔法使いになれば転移魔法も使えるようになるらしいが、そんな魔法を使える魔法使いは王都で王家に仕えていたり、金持ち貴族や大手商人に召し抱えられているので村や町で見かけたことは一度もない。
「就職するって難しいんだな……。やっぱりしばらくは村で何でも屋やりながらお金を貯めて一人暮らしできるようにしないとだな」
希望をもって早朝から移動してきた時とは違い、失業率が高くてブラックなところばかりという悪い情報を得た俺の帰りの足取りは重くて鈍い。
「素直に家の手伝いしてればよかった」
村からあまり出ないとはいえ、世の中のことに無知すぎた自分が悪い。
「ルーは今頃騎士団の初出勤なんだろうな。ルーは顔も良くて最年少で騎士団に入っちゃうくらいだから向こうでもめちゃめちゃモテるんだろうな。いいなー。俺もモテたいっ」
俺だって年頃の男なのでモテたい。むしろ不特定多数にモテなくていいから、一途に思ってくれる優しい子と付き合いたい。
「そのためにはまずは就職して定職につかないと」
無職の男に貢ぎたいという人も世の中にはいるだろうけど『ただし貢ぐ相手はイケメンに限る』だしなぁ。
「今度はもう一つ隣の町まで行って、住み込みの仕事探してみようかな」
その分給料は安くなるだろうけど、住むところが確保されているなら採用が決まれば身一つで行けばいいだけだ。
「うん、それがよさそうだ」
そう結論づけるとさっきまで重かった足は早く家に帰ろうと軽くなった気がした。




