【72】『魔王』で乾杯!
「かんぱ〜い!!!」
屋台船ではケネスさん、ダイアナさん、シリウス君とレオナさん、そして私達家族がもんじゃ焼きを食べながら乾杯していた。
「風情がありますねー。船から見える景色も素晴らしいです。」
シリウス君が夜景をじっと見つめながら言う。
「いやー。しかし、この『ビル』というのには驚いた。異世界は何度も度肝を抜いてくるな。」
ケネスさんが感動しながらももんじゃをめちゃくちゃ食べている。
この人凄いな…。フードファイターに転職したらいいのに。
「私は電車に驚いたわ。私達の世界にも、鉄道を作りたいわね。」
ダイアナさんがビルの隙間を走る電車を見ながらほぅっとため息を付いた。
「今は電気で走ってますけど昔は石炭で走る蒸気機関車だったんですよ。でも、石炭は採掘も大変ですし、異世界なら違う燃料も見つかりそうですよね。」
私がそう言うと、シリウス君がやる気を出している。
「魔石をうまく動力源に出来ないかなって思うんですよ。この前のスタンピードで沢山モンスターを倒したし、しばらく困らないかなって。」
「農業もやらなきゃいけないしシリウス君やることいっぱいだね。」
私が言うとシリウス君が頷く。
「はい!がんばります。ちなみにレオナ叔母さんと話してたんですけど、ビニールに似たものをスライムの粉末で作れないかなと思っていて。」
「す、スライム??あのぐにゅぐにゅした?」
祥志が目を見開いている。
「はい。そうです。実は表皮に防水機能があるんですよ。だから体内に水分が多いけれど潰れずに形を保っていられるんです。」
レオナさんも後ろで爆食いしながら頷いている。
ほおー、そうなんだ。なんか、モンスターについては未知の世界だから面白いな…。
「今週末、ビニールをスライムで作ってみるので、魔王との話し合い、絶対成功させて下さいね。」
そう言ってシリウス君に笑顔を向けられた。
「…う。そうだね!頑張るわ。いい人だといいなぁ。魔王さん。」
私がタジタジする。いやー、今週結構充実してて楽しんでいるけれど、週末魔王の所に行くんだよな。
お土産に絆されて話し合いに応じてくれるといいけれど。まあでも大丈夫だと思うけどね。
祥志と話し合ってその件については色々考えたし。きっとうまくいく、はず。
皆で屋形船を降りたら19時半になっていた。
「じゃあ皆さん、日本ならではの酒場、『居酒屋』に行きましょう!」
そう言って20時に予約していた居酒屋さんに行く。
ここは焼酎の種類が非常に多い。芋や麦はもちろん、オニウシ(かぼちゃ)やダバダ火振(栗)、など変わり種も揃っている。もちろん3M(魔王、森伊蔵、村尾)も。
そこそこ日本酒も揃っているしね。AIが杜氏をしているという山口の獺祭もケネスさんに是非飲んで頂きたい。
皆さんにお酒の説明をした後好きなものを選んで頂く。
ケネスさんは獺祭、レオナさんとダイアナさんは鈴音を頼み、私はダバダ火振りのお湯割りで、祥志があらごし梅酒を頼んだ。
ちなみに未成年のシリウス君はジンジャエールで、こうちゃんはオレンジジュースだ。
お酒によく合う肴も頼んだ。いぶりがっこやチーズやだし巻き卵、馬刺し、塩辛や焼き鳥などをチョイスした。
塩辛はケネスさんとレオナさんは気に入ったがシリウス君とダイアナさんはダメだったようだ。
馬刺しは意外にも全員大絶賛だった。
「いやー、日本は酒もつまみも美味い!エールも日本酒も最高だ。」
そう言ってバクバクおつまみを食べまくるケネスさん。
そして、話し合いが上手く行くように願いを込めて、『魔王』を皆で飲もうということになった。
「うわー、効くわね。でも、なんとも言えない深みがあるわ。」
そう言ってレオナさんはグイグイ魔王を飲んでいる。
つ、強い。結構強いお酒なのに。ダイアナさんもケネスさんもパカパカ飲んでるし、異世界の人は皆酒豪なのかしら…。
結局午後9時半くらいまで飲んで、宿に戻って解散した。
レオナさんは明日サダオさんと自転車の練習なので家までスキルで送ってあげた。
ニーナちゃんも22時位に一樹君に送られて無事戻って来たようだ。シリウス君によると一樹君はケネスさんに呼ばれて二人で何処かに話しに行ってしまったらしい。
こうちゃんを部屋でお風呂に入れた後、私と祥志は交代で温泉に行った。
温泉の帰りに近くのコンビニでアイスと飲み物を買って部屋で祥志と一緒に食べた。
いやー、いい1日だった!
家族で大満足で宿の布団に川の字で寝たのだった。
◇◇
次の日は皆で水族館に行った。シリウス君は大きな水槽の中を通れるトンネルにいたく感動し、
「僕、死ぬまでに絶対ムーンヴァレー王国にこれを作ります!」
と意気込んでいた。
ダイアナさんも、日本の観光のことをめちゃくちゃ褒めてくれた。中でもトイレのウォシュレットが気に入ったらしい。確かに公爵家、トイレは綺麗だったけどウォシュレットはなかったもんね。
ニーナちゃんはチンアナゴの水槽をジッと見つめて何か考えていた。
うーん、ケネスさんと一樹君、一体昨日何を話したのかな。恐らく真剣な話をしたんだろうけど…。
何はともあれうまく行くといいな。
水族館のあと、皆で予約した評判の鰻屋さんに行った。ここのランチは鰻重に肝吸いがデフォルトで付いてくる。
ケネスさんは鰻をいたく気に入って、白焼や肝串、鰻の茶碗蒸しを追加オーダーした上に最上級のお重を一人で四つも食べた。さすが公爵様である。
食後は皆さん電車に乗ってみたいというので、車をアイテムボックスに入れて景色が綺麗な路線を選んで乗った後、駅で記念撮影した。
その後お土産を買って、うちの玄関まで転移して着替えて頂いたあと、お茶を出して飲んで頂いた。そして、無事公爵家まで皆さんを送り届けた。
こうして公爵一家の日本視察は無事終了した。
皆さん凄く楽しんでくれたみたいで何よりだ。




