八十五話 館の探索
人形の館へやって来た私は先を行くアンナの後ろから不気味なその場所へと足を踏み入れた。地面に生えた草がそこから先は途切れていて、剥き出しの土が異様な雰囲気を醸し出している。
そこへ近づき、浮遊しながら足を突き出した私はチョンチョンと土を突いた。特に不快感などはないけれど、強いていえば他の土よりも栄養がないというか、なんだかとても気味の悪い感じがした。
周りを見るともう枯れて結構経つであろう木が衰弱した病人のように折れかかっている。これなら私の貧弱な腕でも簡単に折ることが可能だと、浮遊して進みながら通り過ぎる木を眺めた。
館の大きな扉がある入り口前まで来た私は、その大きさからくる迫力と、明かりがないせいで中が見えない不気味さに若干の恐怖を覚えた。外からの明かりしかないことの館で、よく見えないまま進むのは危ないと思った。
そこで私はエレノアの霊体を出すと、両手を胸から少し離して上に向けさせた。そして青い火球を出すとそのままの状態を保ちながら光源にした。
「……ユウカ様、それは少々危険かと………」
「た、確かに………」
攻撃手段である火球は気を抜いて誤射してしまった場合、辺りに相当な被害を与えるどころかアンナの身すら危ないと、火球とエレノアの霊体は引っ込めておいた。しかも光る火球の色が青色で、それがより一層不気味さを増すからどっちにしろ良かった。
明かりはアンナの魔術を使い館の中を進んだ。しかしやはりと言ったところか、光の色が変わったところで恐怖感に違いはそれほどないように思った。けれど窓際を進むときはそこから漏れる日の光で少しだけ心が安らいだ。
館の中は予想通り荒れ果てており、所々抜け落ちた床に全て割れている窓ガラス。かつては綺麗に並べられていたであろう家具などが壊れたり散乱している。
一体どれだけの間放置されていたのかは分からないけれど、数年以上は手付かずだったことが見てとれた。
そんなことを考えながら目に入った一つの扉を開けた私は、そこに並べてあった人形を見つけて「ヒッ」と声を上げてしまった。
「こ、この部屋は何……?」
「作業部屋ですよ。死霊術師の……」
並べてある人形は殆どが朽ちていたけれど、よく見るとそのままの状態を保った物もあった。日本人形もそうだけれど、あれらには得体の知れない恐怖というものがある。服を着て、はっきりと目を見開く様などを見ると動き出すのではと思ったりもする。
しかしここにある人形には顔がなく、服も着ていない。体の作りも雑というか、簡素なものに見える。けれどそれは顔のある人形とは別の怖さがあるのかも知れない。
そうして人形を見つめる私はアンナの説明を聞いてふと疑問に思った。なぜアンナはここが作業部屋だと知っていて、しかも死霊術師のものだとわかったのだろうかと。
「骸骨さんはここに来たことあるの?」
「ああ、いえ。ただ私も死霊術師の端くれですから、この程度の知識は持ち合わせおります」
「なるほど」
そういえばアンナは死霊術師と記憶にあった。確か人形に魂を定着させる術、だったと思う。
と、思い出してアンナを見るとすでに先へ行っていて、私はそれに気づくと慌てて後を追いかけていった。
窓際の通路を少し進んだ先にその階段はあり、まるで口の中のように暗く近寄り難いものがあった。下へと続く階段は当然窓からの光が届かないため、真っ暗で一寸先が見えないでいる。
しかしそれでもアンナは躊躇なく階段を降りて行き、そこにあった木の扉を開けようとした。けれど頭蓋骨だけでは開けないので、私が開けるのを手伝った。
暗い地下の中をアンナの魔術頼りに進む私は、なぜか徐々に感じる妙な不快感に悩んでいた。この館に入る前とは違う感じだけれど、指先に力が入らないような気がした。
そして地下に広がる通路の曲がり角を曲がった私は、見たことのあるそれに小さい悲鳴をあげた。
「こいつら………!」
そいつらはついさっき見つけた顔や服のない人形で、あれは止まっていたけれど今目の間にいる人形は動いてこちらに襲いかかって来ていた。動きはそれほど素早くはないけれど、ゾンビのような動きで迫ってくる様には気を張る。
しかしこれほどノソノソと歩いて来られると、対処も容易いもので私は即座に人間のスケルトンを一体召喚した。
スケルトンはゆっくり動く人形に楽々と強力な一撃を浴びせる。それを喰らった人形の頭は呆気なく崩れてしまい、まるで手ごたえがないようだった。
これでは金槌で豆腐を潰すようだと思いながらも、続けて襲ってきた二体目の人形も破壊した。
「弱い、な………」
今までそれなりの相手と戦ってきたからか、ここまで呆気なく倒せてしまうと逆に心配になってしまう。
しかしその心配は正しかったようで、壊れた人形を見たアンナは突然「まだです………!」と静かで強い声を出してそう言った。
「え! これって!?」
私は驚きながらその意外な光景を目の当たりにした。それは顔の部位が崩れて倒れた人形が、起き上がりつつその部位を修復している様子だった。
殴られて四散した人形の頭の破片が元に戻るわけではなく、無くなった首の辺りから段々と作られていく。しかしそれは時間を巻き戻すというよりも、再生という方が近い表現だった。
それを見た私はすかさずスケルトンに攻撃するよう命令すると、スケルトンは再生途中の人形へ拳を上から振り下ろした。
人形はスケルトンの攻撃で首から胸までをごっそり削られた。
「…………え、なんで」
しかしそれでも人形は体を再生していた。心なしか再生速度も上がっている気がする。しかし今大事なのは人形をどう倒すのかということ。
何も対策が思いつかずにいる私はもう一体人間のスケルトンを召喚して守りを固めた。
「どうしよう……」
「ユウカ様、私に考えが」
「考え?」
「はい。あの人形は死霊術によって動かされていますが、破損した部位が元に戻るのは別の要因が関係しています。それは付術と呼ばれるものです」
私はスケルトンを使い人形の攻撃を防ぎつつ、アンナの考えに耳を傾けた。
「付術は特徴的な紋様を物に刻み、そこに魔力を通すことで効果を発揮します。ですから………」
「その紋様を破壊すれば再生はしなくなる」
「恐らく……」
私はそれを聞いてすぐさま行動に移した。再生し続ける人形に二体のスケルトンを上半身と下半身にそれぞれ攻撃させた。
すると上半身を殴っていたスケルトンが背後の首の付け根辺りを破壊した時、突然人形の動きは止まり再生していた体が逆に崩れ始めた。どうやらアンナの言っていたことは正解のようで、その後は残りの一体を同じ方法で壊した。
「やった……?」
「そのようですね」
私は人形を倒せたと心の中で喜びながら、あんなものがあるなんてと驚いていた。
それからまた進んだ先にはまた人形がいた。今度は一体だけだったけれど、身に纏っているものは防具に、恐らく人間の皮を雑に被せたもの。なぜ見抜けたかというと、顔の部分にある目、鼻、口が通常の位置とは違う所にあったからだった。
そしてその先に見えるのは木の扉には見えない頑丈な鉄の扉だった。
私はその人形を倒すためにスケルトンを一体送り込んだ。走っていくスケルトンは人形に向かって拳をふりかざした。
けれどその人形には硬い防具と、厚い縦があり防がれてしまった。
「か、かたい………」
物陰からその様子を見張っていた私はその人形が明らかに他と違うことに気づいた。見た目などの違いではなく、根本的な強さの部分で。
この館探索をしている現在、エレノアはまだ寝ています。




