八十三話 憑いてくる守護霊
ウルフを三匹倒した私は襲われていた男の悲鳴が聞こえて見てみると、そこには積荷を盗まれ絶叫する男がいた。その後は気絶してしまったけれど、地面に倒れているのも気の毒だと思い荷馬車へ人間の霊体を使って乗せた。
荷馬車を見てみると確かに荒らされたような様子で物が散乱していた。
「……どう致しましょうか?」
「やっぱり助けたんだから、最後まで責任持たないと」
私は男が盗られた荷物を代わりに取り返すことにした。それは黒猫の時のような、自分の都合で助けるだけということにしたくなかったからだった。
しかしそうなると盗んだ犯人は誰かということになるけれど、これはもう既に見当はついていて、いなくなったウルフが盗んだということで概ねあっていると思った。そうしたらどうやってウルフを探すのか。それはもちろん魔力視の魔眼を使う他ない。
魔眼を使って魔力を見られるようになると、私は辺りを見回してウルフを探した。すると少し離れた草むらの中を、その先の森へ向かって移動する二つの魔力が見えた。二つの魔力は近い距離を保ちながらそこそこ速い速度で走っている。
これだと私が追いつく前に二匹は森へ入ってしまうと思い、足の速いウルフのスケルトンを二体召喚して向かわせた。スケルトンは素早く走ってウルフの元へ向かい、二匹同時に襲い掛かろうとした。
けれどスケルトンの動きが単調でよみやすかったのか、はたまた相手の方が強かったのかあっさりと負けてしまった。遠くから魔力を見ていただけだけれど、結構あっけなくやられていた。
「あッ……!」
ウルフはその後何かゴソゴソと不審な動作を行うと、また走り出して森の中に入ってしまった。私は驚いて思わず声を出してしまったけれど、ウルフを捕まえなければと森の方へ飛んでいった。
森の中に入った私は魔眼を発動させたままウルフの魔力を追っていた。しかし二匹の脚は速く、私の移動する速度では追いつけなかった。
なのでまずは思考加速を使い周りの動きを遅くさせると、同時に鈍くなる身体の重みから解放されるために内側の霊体だけで移動した。外側の霊体だけならば水中にいるようなフワフワとした動きしかできないけれど、こんなふうに内側の霊体だけでいると気持ちいい程によく動ける。
そうして二匹のウルフに近づくと、人間のスケルトンを目の前に召喚して思考を元に戻した。走るウルフは止まりきれずに突然前に現れたスケルトンにぶつかり、頭部から鈍い音を出して驚くと、警戒しながら後退りをした。
しかしそのまま逃げられてはいけないと、私はウルフを即座に攻撃するよう命令した。するとスケルトンは力強い一歩を踏み出してウルフに近づくと、それぞれ片方には頭蓋を割る一撃を、もう片方には背中にグシャリとへこませる程の攻撃を与えた。
「よしっと…………って、あ」
二匹のウルフを仕留めることができて安心したのも束の間。足元に転がった積荷を見た私はそれがウルフの血で汚れているのに気づいた。
これは男の物なので汚してしまったのに申し訳なさを感じつつも、とりあえずは持ち帰ろうと人間の霊体を出して落ちている布と、両手を広げた大きさほどの短剣を拾い荷馬車へ戻った。
荷馬車では未だ目を覚ましていない男が目を中途半端に閉じた状態でいる。それを横目に盗まれていた品物をそっと戻しておいた。
「これで一件落着かな……」
「う、うう………」
すると横で気絶していた男がおもむろに起き上がると、盗られたはずの積荷が手元にあるのを見つけて歓喜の雄叫びとともに立ち上がった。急に立ち上がったからかヨロヨロと気の抜けた様子で倒れそうになったけれど、なんとか踏ん張って耐えるとより一層涙を流して喜んだ。
私はそれを良かったと思いながら見ているけれど、流石に喜びすぎなのではとも思っていた。
それから男は簡単に身の周りを整えると、逃げるようにその場から移動した。そしてその方向はどうやら私たちの行く先のようで、これから先はどうしようか悩んだ。
もしかしたらまた襲われる可能性もあるかもしれないので、行く先が同じという偶然もありついて行こうと考えた。アンナにそう提案すると、少し迷った様子だったけれど承諾してくれた。
心地よい風が吹き、小鳥たちとともに浮遊する私はその状況を堪能していた。もうすぐ冬だからなのか少し肌寒くなってきたけれど、そのくらいが丁度良いのかもしれない。
そんなことを考えていた私は、上空から荷馬車を見守り何事もなく順調に進む様子に気を抜いていた。が、気がつくと荷馬車は数十人の山賊に囲まれ男は今にも襲われそうになっていた。見ると何人かの山賊は荷馬車に乗り積荷を漁っている最中だった。
「い、いつの間に!?」
荷馬車を引く音が聞こえないほどの上空にいるためか、男が襲われているのに気が付かなかった私は急いで助けに向かった。
山賊の一人は男が握る馬の手綱あたりで何やら話をしている様子で、そこからすぐ近くには数十人が一塊に、そして積荷を降ろしているのが三人だった。それを見てまずは男を助けようと、塊になっている場所から無力化しようとした。
ミノタウロスのスケルトンを一体召喚して山賊たちの後方へ落下させると、それを見て驚いた山賊たちが騒いだり腰を抜かしたりした。その隙に両手しかない人間の霊体を見える山賊と同じ数だけ出して捕まえさせた。
「「「うわああ!!」」」
「な! なんだこれ!? くそ!」
取り押さえられた山賊は皆同じような悲鳴をあげ、男の近くにいた山賊も騒いで抜け出そうとするけれど、相当な激痛だったのかすぐに諦めて地面に尻をついた。
次に積荷をおろす山賊たちの元へ向かい見てみると、仲間たちの悲鳴を聞いて動揺している様子だった。なのでその間に人間の霊体の両腕だけを先ほどと同じように三人の元へ向かわせた。
三人は突然なにも無い空間から捕まれ驚きとともに激痛を感じ悲鳴をあげた。
「いったい何が………? ハッ! 今のうちに!」
「お、おい待て!」
商人の男はチャンスとばかりに馬の手綱を引き、なりふり構わず全力で走り出した。その先に山賊の一人がいたのにも関わらず。
男が走り去って行った後にはそれに続く赤黒い血の線が出来ていた。それは荷馬車に轢かれた山賊のものであり、血を遡っていくと臓物が散らばった近くに山賊がすでに屍となって転がっていた。
私はそれに目を背け誤って山賊たちの拘束を解いてしまった。別に人殺しがいけないというわけではないけれど、あれほど慌てて行かなければ死ななかったのではと思った。しかしあの商人だって生きるために必死で、これは仕方がない結果なのだと自分を納得させた。
急発進させた荷馬車の勢いに耐えきれず、こぼれ落ちてしまった品々が地面に散乱していた。ふと目に入った布は、ついさっき私がウルフから取り返したもので、今はあの時に少しだけ付いていた血がどこか分からないほど血塗れだった。
山賊たちは死体を見て最初は驚いていたものの、我が身が可愛いのかその場から脱兎の如く霧散していった。
(ユウカ……)
(だ、大丈夫。慣れたのか、あんまり気にしてないから)
この異世界にきて人が死んだり、殺されたりするのは何度か見てきたけれど、私はこの山賊を見ても哀れみはなく、気分も恐らく冷静だった。これが良いのか悪いのかは判断しかねるけれど、この異世界で生きるのならその方がいいのかもしれないと思った。
そして散らばった物を尻目に、逃げていった男の跡を追っていった。
しばらく飛んでいると遠くにうっすらと建物の影が見えた。建物はいくつかあり、ロペルの町と同じくらいの規模だと分かった。
近づいてみると何やら騒がしい様子で、中央の少し開けた場所に数人の村人が集まっていた。よく見てみればその中心にいるのはやたら先ほどのことを誇張して話す商人で、明らかに自分自身を大きく見せようとしていた。
「そこで俺は賊の頭にこう言ってやったわけよ。命が惜しいなら……どきな……! てな!」
「「おお!」」
「それじゃあ、そいつは……」
「ああ、愚かなやつだぜ。無謀にも反抗してきたな………ほら、これがその時の」
「「「おおおお!!」」」
商人の男は誇らしげに山賊を轢き殺した荷馬車についた血を村人たちに見せた。女性らはほとんどが嫌悪の表情で見ていたけれど、子供含め男性らは羨望と憧れの目で商人を見ていた。
私はついさっき怖い目にあったにも関わらずお調子者だなと思いつつも、ふと善悪に付いて考えてしまった。確かに山賊たちは男を襲い、品物を強奪しようとしていたけれど、それが山賊を殺していい理由にはならないと思った。しかし殺しに理由を求めるのも間違っているように思う。あれは生き残るために仕方がなかったことなのだから。
けれど考えてしまう。この場合、どちらが悪なのだろうと。
「ユウカ様。目的地はもうすぐですよ」
「…………そうだね。行こう」
前を向くと遠くの空には赤い夕日が迫ってくるのを見てとれた。この分じゃ人形の館へ着くのは夜中だろうかと思いながら、赤くなる空の方へ飛んでいった。
なんとなく裏話。
ソフィアがネスロ教団に因縁を持っているようなことを言っていましたが、この先書くこともないでしょうしここで……。
ソフィアがまだ子供の頃。
馬車に乗って移動しているところにソレは見えました。
ソレは全裸で謎の歌を歌いながら、奇怪な踊りで焚き火を囲う大勢の男女でした。
それだけならソフィアの興味を引きませんが、近づくにつれ聞こえてくる歌が主、ティアナを罵倒するものだと気づき、当時から信仰心の厚かったソフィアは怒り全員昇天させました。
のちにソレがネスロ教団だと知り、それからは教団撲滅の旅に出たりと、色々やって二つの教団は仲が悪いのです。
これがネスロ教とソフィアの因縁です。




