八十一話 企み
目を覚ますと私以外のアンナ、エレノアは既に起きていて、アンナは寝ぼけながらあくびをする私に気づくと「おはようございます」と声をかけた。
それに私も「おはよう」といつも通り応えると、ベッドから降りて背伸びをした。
「…………それじゃあ行ってくるね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
そう言いアンナを残して部屋を出た私は、足を地につけてソフィアの部屋まで向かった。
旅立つ私にとって今日はソフィアと過ごす最後の日で、夕方あたりに神都を立つまで一緒にいようと言ってくれた。何も直ぐに立つことはないのではないかとも言われたけれど、それでも私はこの力のこと、女神カーラのことを早く知りたいと思った。
部屋の扉を二回ノックして私が来たことを知らせると、ソフィアが扉を開けて出てきて私に挨拶をした。
それからソフィアは霊体になって私と一緒に神殿を出ると、神都の街中へと向かって飛んでいった。
今日も神都はいつも通りの様子で、オルドムの世界から帰ってきた後ひきこもっていた私は、その変わらない光景に少し安心した。思えばこの異世界に来て、自我が戻った時にあの森やロペルの町にいればどうなっていたのだろう。恐らくエレノアとともにいても正常でいられたかどうか分からない。
上空からソフィアとともに神都を眺める私は、この状況が自分にとって良いものだったと思った。
「ねえユウカ。旅に出るのなら武器は必要よね? 何か欲しいものはない?」
「え? いやでも……」
「あそこの武器屋なんてどう?」
辺りをキョロキョロと見回すソフィアはある建物を見ると、飛んでいって壁に上半身だけを入らせた。
私もそれに続いて武器屋の看板がある建物を覗いてみると、中には剣や斧、戦鎚などの冒険者が持っているような武器が並ぶ場所があった。
「あれは?」
ソフィアが小声で指差す先には、明らかに非力な私が扱っていいものではない大剣があった。大きさは縦横どちらも私以上で、例え持つことができても振り回せないだろうと思った。
ソフィアにこれは流石に無理だと言うと、今度はいくつか並んで飾ってある短剣を指差した。
「いやあの、そうじゃなくて……」
「うん?」
「あの怪物と戦った時に私、自分で攻撃したんです。でも傷を負わせるどころか、私の方が痛いくらいで」
武器屋から離れた私は、ソフィアに触手の怪物と戦った時のことを話た。怪物の霊体はとてもかたく、私以外の他の霊体でなくては壊せなかった。そんな私が武器を持ったとて、戦闘の役には立てない。それなら霊体を操るのに集中した方がいいだろうということを。
「……それは霊体に限った話よ。もし相手の魔力が強大なら………ああ、その時はスケルトンがあったわね」
「魔力……?」
そう疑問を持った私にソフィアは霊体の攻撃がどういったものかを教えてくれた。なんでも霊体での攻撃は霊体に効果的で、肉体を攻撃してもそこいらの人間に殴られた程度の攻撃力しかないとのこと。
そして魔力の強い者は霊体も強くなり、その場合は肉体への攻撃が有効打になるらしい。
しかしあれほど強いミノタウロスが霊体になったからといって、人間と同じくらいの攻撃しかできないというのは信じ難いと、まだ疑問を持つ私はそう言って首を傾げた。
「まあユウカは両方に対抗手段を持っているけど……そうね、知ることは重要だわ。ユウカ、私を殴ってみてくれる?」
「………え!?」
「その方が分かりやすいでしょ? さあミノタウロスを出して。大丈夫だから」
両腕を広げていつでも殴ってどうぞというソフィアを見て、私は困惑し迷いながらもミノタウロスの霊体を出してソフィアに攻撃をした。
「………ちょっとユウカ」
「だ、だって」
私はついミノタウロスの攻撃を弱めてしまい、ソフィアに向かった拳は頬にチョンと触れるだけだった。
「大丈夫だって言ってるでしょ」
「……わ、分かりました! どうなっても知りませんからね!」
私はミノタウロスにソフィアを全力で殴るよう命令すると、頬にくっついていた拳を離して素早く強力な攻撃を叩き込んだ。
それを見れずに思わず目を瞑っていた私は、恐る恐る瞼を開いてソフィアを見た。
「ね、言ったでしょ」
そこには攻撃を真正面から受けてもなお平然としているソフィアがいた。
確かにミノタウロスの攻撃はソフィアに当たっているのを確認した私は、驚きながらもソフィアが傷ついていないか身体を入念に凝視した。しかし霊体のどこも傷ついておらず再度私は驚いた。
「ユウカ、そんなに見られると恥ずかしいわ」
「どうなって……」
「言ったでしょ。強い霊体には効果的でないと」
それなら霊体も肉体も強い相手は私にとって天敵になるのだろうかと考えたが、私には魂の不滅というものがあるから心配の必要はないのかとも思った。
その後はソフィアに魔力の使い方を学んだ方がいいと、しばらくいろんなことを教えてもらった。
魔力は魂からつくられるもので、多く出せば勿論強力な魔術を使えるだろうけど、その扱いが下手であれば十分な威力は出せないらしい。そういうことがない為に先ずは魔力をよく感じることが大事だとソフィアは言った。
試しに魔力を生み出し操ろうとしたが、最初は上手くいかずに悩んだ。しかし一旦コツを掴めばもう後は簡単に操れた。
ソフィアはそれを見ると「ユウカは私よりも魔力の扱い方が上手い」と褒めて私は思わず照れた。
しばらくそうしているとソフィアに時間がなくなるからと言われ私たちはその後、神都一番の服屋へ連れて行かれ様々な服を勧められたり、港で働く人々を見てそこにあった魚に驚いたりととても楽しい時間を過ごした。
しかしそんな時間もすぐに過ぎていき、気がつけば青色の空の半分が赤く染まっていた。
「それじゃあユウカ、気をつけてね」
「はい……ソフィア、今までありがとう」
「ふふ。今まで楽しかったわ」
それほど長く一緒にいたわけではないけれど、ソフィアと一緒にいた時間はとても濃く、彼女から学んだことは多かった。しかし私がここに居る理由を知る為にも女神カーラに会わなければいけないと、私は目的地である人形の館を思い出しながらアンナの元へ向かった。
--アンナ視点--
ユウカ様はきょうあの場所へ向かわれる。あの忌々しくも私の頭から消えないあの場所へ。
最初はそこへ向かわせるつもりはなかったし、近づいて欲しくもなかった。けれどあの光を見てしまえば考えてしまうのも仕方がない。
「これで証明できますねお爺さま。私があなたより優れていることを」
ユウカ様の行き先をこのまま見守っていてもよかったけれど、もう止められない、考えずにはいられない。
私の夢が叶う。アイツを超えるという夢が。死んでいったあの子たちの夢が。
そして殺してやる。踏みつけられた虫のように。人形の館……いいえ、私の生まれた家で。
「ごめんなさいね。エレノア、ユウカ様………」
さ、三時投稿に間に合わなかった……がっくし。




