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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
操り人形編
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八十話 別れの前日

 外からいつも聞こえてくる人の声が無く、少し離れた港からの波の音に耳を澄ませてしまう、今日はそんな静かで心の落ち着く夜だ。空からは以前よりも明るくなったように思うディアが部屋を照らしている。

 ベッドで眠る私はそんなディアを見つめながら溜息を吐いた。でもその溜息は疲れた時にふと出るようなものでなく、気持ちを整えるためのいわば深呼吸だ。


(また、話しをするのですか?)

(うん。ニャン太とはきちんと話さなきゃ)


 昼間ソフィアと話をしてどうすれば良いか聞いたけれど、それを考えるのは私でなければいけないと言われた。

 それで今はまた自分の世界に行こうとしているけれど、助けた黒猫にたいしてどう接すればいいかは未だに分からない。本人が望んでもいないのに助けたのは、決して感謝されたいとか思ったわけではなかった。あの時は寧ろそんなことを考える余裕はなかったし、単純に助けを求めていると思い無我夢中で助けた。


 目を瞑り胸に両手を乗せて思い浮かべるのは私の世界。どこまでも続く暗い宇宙が光る魂をより輝かせる世界だ。

 徐々に暗くなる視界が黒猫と会うカウントダウンのようで、どうにも緊張して仕方がない。しかしそんな中でも考えるのは、黒猫を助けたのは偽善なんかではないということだった。



 目を開けると最初に見えたのは浮遊するエレノアの姿。家のある場所に出てきた私の前でふわふわと浮きながら待っていたようだ。


「ニャン太は?」

「あそこに…………」


 エレノアが指し示すその場所には魂の光を遮るようにうずくまる黒猫の姿があった。それはとても小さく、全くと言っていいほど活力の無い姿で、あの檻の中で話しをしていた時とは大きく変わっている。

 そんな姿に心苦しくなりつつも、また話をするために黒猫の元へ浮遊していった。


 黒猫の近くまでくると、私の存在に気づいたのか身体をビクッと怯えさせると、横目でおもむろにこちらを見た。


「ニャ、ニャン太……」

「…………」


 ゆっくりと近づきつつそう呼びかけるも、黒猫は向けていた顔を背けて更に小さくうずくまってしまった。

 しかし私はソフィアと話し合って黒猫に寄り添うと決めているのだから、ここで折れていてはいけないと再度ニャン太という名前を呼んだ。


「ニャ……」

「いい加減そんニャふざけたニャまえで呼ぶのはやめろ。たく……」

「あ、ごめんなさい………」


 この態度からして、どうやら私が付けたこの名前は気に入っていなさそうだった。

 しかし出だしから罵られてしまい私は黙ってしまったけれど、思っていたよりも元気そうには見えて少しホッとした。

 そして先ずは黒猫に謝ろうと、怯えながらも静かに話し始めた。


「そ、その……話がしたくて。君の意見も聞かずにこの世界へ連れてきたことを先ず……」

「お前は……ユウカはニャにをしたかったんニャ?」

「なに……………私は君を助けたいと思った」

「ニャんでだ?」

「あの時、君が殺された時に生きていて幸せなことが無いのは悲しいと思ったから」


 あの時は純粋にそう思っていたけれど、黒猫の幸せがどんなものなのかを知らなかったのだから、それは勝手なことだったと思いながら黒猫を見ると、私の言葉を聞いて黙ってしまっていた。


「…………ユウカ、俺は」


 すると黒猫は微かな声で私の名前をいうと、


「………俺はつぐニャいとか、そういうのはどうでも良かったんニャ。俺は確かに今まで辛かった。けれどお前と会って、話をしている間はそれニャりに楽しかった………それでもあいつの牢獄に入ったのは、あそこに救いがあるように思えたからニャ」


 何故自分がオルドムの世界にいようとしたのかを教えてくれた。けれど救いというには、あそこはどうにも気に入らない。それはソフィアやオルドムのいう救いが、あの檻の中には無いように思うからだ。


「君は、あそこで救われたの……?」

「…………ふん、さあニャ」


 黒猫は私の言葉で不機嫌になったのか、そこからは何を聞いても答えてくれずに黙り込んだ。私はそれが残念で仕方なかったけれど、少し会話が出来ただけでも良かったと今日は帰ろうとした。

 寄り添うと決めたからにはこの先長い時間をかけて話をしよう。そう思いながらその場を立ち去ろうと黒猫を見ると、ずっと浮遊してこんな寂しい空間にいるのが不憫に思えた。


「………ねえノア。私ってこの世界を好きに出来るんだよね?」

「はい。好きなように建物を造り出せたりできます」

「それなら」


 私はふと思いつき、右手を黒猫の方に向けた。そして黒猫の周りに木でできた家を造り出すと、その下に緑の草原を広げさせた。

 黒猫は一瞬驚きはしたものの、直ぐに近くのベッドで眠ってしまった。外観も内装も前の世界のテレビで見たものをそのまま再現した造りだけれど、正直ここまで正確に出来るとは思っていないかったので驚いた。

 草原は私の家があるところにまで広げた。草原の下はもちろん土だったが、それから下は家と同様に浮いている。


 浮遊して家のところまで戻ってくると、ボロボロに崩れた姿を見てこれもなおした。エレノア自身そこら辺で寝ていたので、家の中で寝てほしいと思い家具も出来るだけ思い出して再現した。


「……凄いですね」

「うん、あいつもこんな感じであそこを造ったんだね」


 私も何か造ろうかと思っていたけれど、今はそんな気分ではないと遠くを眺めた。

 その時にふと考えたのは、黒猫を助けようとした行動がエレノアの時と似ていることだった。あの時は何故かエレノアの感情が手に取るように分かり、抱きしめた途端に気を許してくれた。


「ユウカ? 私のことを考えていますか?」

「うん………ねえノア。あの時、ミノタウロスに襲われた時のこと覚えてる?」

「勿論覚えていますよ。ユウカにこの身体を与えられて、救われた日ですから………」


 しかし今の私にはその救いが何なのかが分からなくっている。あのとき感じたあの感覚。今でも覚えているのは流れ込むエレノアの記憶と感情が私に様々な感情を溢れさせた。

 ただもし、それだけでなくエレノアの方にも影響があったとするのなら、あの出来事で私に気を許したのなら、それは卑怯ではないのだろうか。


「ユウカ、どんな形であれ、私は今ユウカとともにいることが幸せです。だからそんなふうに、悲しいことを………」

「…………ごめん」

「いえ………」


 けれどエレノアがあのとき死にたくないと思っていたのは記憶で見たから間違いない。しかしそれでもそれが救うというものなのか、救いであっても誇っていいのか分からなかった。

 この世界から戻るために目を瞑り意識を外に集中させると、いつも通り視界が暗くなっていって感覚も変わった。



 目を覚ますと既に外はオルティアが出ておりそれを見つめる私を明るく照らしていた。

 神都は今日も綺麗で、魔眼で見ることのできるキラキラしたものが舞っている。ソフィアが言うにはティアナの加護らしいけれど、これは特定の誰かにではなく神都全体を加護しているらしい。


「おはようユウカ」

「………な、何でいるんですか」


 寝起きで呆けていた私を静かに見つめながら声を掛けてきたのは、いつからいるのかベッドの横で起きるのを待っていたソフィアだった。


「ふふん。それで? どうだったのかしら?」

「………話せはしました」

「そう………ふふ、まあ関係性はそんなに早く進展しないわ」


 確かに普通はそんなものかもしれないけれど、黒猫と私はその前から結構話ていたから余計辛い。ふとエレノアの時と同じようなことが起きれば元に戻るかなんて考えたが、そんな卑怯みたいな真似は出来ないし、それを考える自分が嫌だったので頭を振って考えないようにした。


「どうかした?」

「あ、いや……」

「…………まあ気長に構えておいたほうがいいわ。私も最初の頃はユウカのことを信用していなかったし」

「え!?」

「ん? 当たり前でしょ。最初から他人を信じる奴は信じられないわ。それはユウカもでしょ? まああの時のユウカは特にね……」


 ソフィアは微笑んで私にそういうと最後に小声で何か聞こえた気がした。最初の頃というとゴブリンを退治しにいった頃だったから、それならあの破天荒な正確は元々なのかと思ったが、それなりにソフィアと過ごしているからか妙に納得した。


「そうだユウカ。ここ数日聞こうと思っていたことがあるの」

「なんですか?」

「エレノアさんから聞いたわよね? あなたの力のこと」

「ああ、はい。私は神だと言われて…………あはは」


 恥ずかしい気持ちを隠しながら私がそういうと、ソフィアは突然眉をひそめて不機嫌そうにした。


「それだけ? 他には聞いてない?」

「え、はい……」

「はあ全く………エレノアさんが話さないのなら私が話すわね」


 ソフィアは私の肩に手を置くと顔をグッと近づけて「いいわね?」と聞いた。一瞬私が答えるのかと思ったけれど、その時勝手に顔が動いて駄目だと首を振ったのでエレノアに聞いていると分かった。


「はあ………ユウカ、あなたの魂は不滅なの!」

「は、はあ………え?」


 頭にはてなマークが浮かんで止まない私にソフィアは魂の不滅とやらを説明した。なんでもそれは元々女神カーラが持っているもので、文字通り不滅の魂を持っているというものだった。上位者からは加護を得られるが、上位者には誰が加護を与えるのか。それは光と闇の神だという。

 その神々はあらゆる存在の上位にいるので誰にでも加護や祝福を与えられるらしく、カーラはそれぞれ光から不滅の魂を、闇から不滅の肉体の祝福を得ているという。


 しかしここで私は疑問を持った。それなら何故その祝福が私にあるのかと。

 それはソフィアも分からないらしいのだが、ただ一つ言えることはカーラに会えばもしかするとこの世界に召喚された理由が分かるかもしれない、ということだった。


「それじゃあ二人とも今までそれを秘密に?」

「ええ………けどエレノアさんを責めないでね。あの子の気持ちも分かるから………」

「それってどういう………?」

「これを祝福ととるか、呪いととるかはそれぞれなのよ。何せこの不滅は文字通り、滅びることがない、不死なのだから」


 いかにも深刻そうにソフィアはそういうけれど、私にはそれがどれ程のものか分からなかった。しかし不死と聞くと思い出すのはアンナのことだ。


「あんまり驚かないのね」

「何か悪いことでもあるんですか?」

「…………不死とは言ったけれど、実際にはその死という概念すらなくなる。つまりこれから先、ユウカは永遠にも等しい時の中で存在し続けるの。何百年、何億年なんて考えられない程の時を」


 その説明で概ねソフィアとエレノアが考えることが分かった。私は死ねないのではなく、そもそも消えることが出来なくなったのだ。けれどその事実が現実離れし過ぎているのか、意外に冷静に理解が出来た。


「ユウカは耐えられる?」

「分からないです………あまりに現実味がなくて」

「………まあ、じっくり考えて。時間は無限にあるんだから」


 ソフィアはそう言うと悲しそうな表情で部屋を出ていった。私は怒りも悲しみも今はなくて、ただその現実を受け止めていた。


(ユウカ、その………)

(ああ、大丈夫だよノア)


 それから少し時間が経って夕方になった頃。珍しく外に出ていたアンナが窓から入ってきて「ただいま帰りました」と挨拶をした。

 数時間ほど考えごとをしていた私はアンナに助言を求めてみることにした。アンナは話しを聞いた後一瞬考え込んで「私はずっと側にいます」というと頭蓋骨を楽しげに浮遊させた。


「ねえ骸骨さん」

「はい、なんですか?」

「女神カーラに会えないかな?」

「………それは、難しいですね」


 ソフィアの言葉を思い出しての質問だった。私がこの世界に召喚された理由。それにこの力を持っている理由も知りたいと私は思った。


「ですが……………加護を使えば…………………」

「加護?」

「カーラの加護を辿っていけば会えるかもしれません」


 それはオルドムの世界に行ったのと同じ方法で、なるほどその手があったかと思わずうなった。けれど問題は加護を持っている人が近くにいないということ。


「ユウカ様! 私に心当たりがあります!」

「心当たり?」


 アンナは私に人形の館という場所を教えてくれた。聞く前からもしかするとと思っていたけれど、案の定怖い話しだった。しかしアンデッドを見慣れている私にとってはもう慣れたものだ。


 夜中にソフィアの部屋を訪ねた私は寝巻きを纏い眠そうに出迎えるソフィアに謝って部屋に入った。

 そして椅子に座ると私はどう話をきりだそうか悩み、ソフィアがそれを見兼ねて、


「どうかしたのユウカ?」


 と聞いてくれた。


「私、カーラに会いに行こうと思います」

「………それはまた急ね。いつここを立つの?」

「明日には」

「…………本当に急ね」


 私は自分がどうすれば良いか知りたい。その為にカーラの元へ行くことを決めた。まだ実感が湧かない今から過ごす無限の時を生きる為に。


「それじゃあその前に私と神都を歩かない?」

「……ふふ、そうですね。そうしましょう」


 私は旅立つ前に明日ソフィアと遊ぶことにした。これでもうお別れだから。

夜中に訪ねたのだからもう明日では?

なんて考えましたが………まあ、大丈夫です。

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