逃げ惑う冒険者/囚われの骸骨
--逃げ惑う冒険者--
うう、頭がボウッとする……………。
ニコラッドはネスロの攻撃の風圧で吹き飛ばされ、その衝撃で頭を打ち朦朧としていた。
何故このような事態に陥ったのか。それは数分前、ニコラッドとダニエルがソフィアをアンデッドの元へ連れてきたところ、そこでネスロと名乗る裸の女に出くわし、急に始まった戦闘に巻き込まれた故であった。
「おい、無事か………?」
まだ視界がグラグラと揺れ動き、身動きも取りずらい状況のなかニコラッドはなんとか立ち上がると、近くで同じように倒れているダニエルにそう問いかけた。
「あ、ああ…………一体何が…………?」
ダニエルはその身体をゆっくりと起こし、ニコラッドにそう尋ねた。彼もニコラッド同様ネスロの攻撃に巻き込まれていたようだ。
ニコラッドは自分の頭を軽くポンポンと二回叩き、段々と戻ってきている視界で周りの状況を確認した。
目の前にいた筈のソフィアとネスロは何処にもいない。
アンデッドは止まったまま動いていない。彼女らは何処へ? そしてあのアンデッドたちは一体? と、疑問は尽きなかったが、それは自分たちの身に迫った危険によって掻き消えた。
「ッ……………!」
何だ……いまの!??
足元がおぼつかないニコラッドの近くに一発の火球が降ってきたのだ。
その火球は着弾と同時に爆発し、地面に直径一メートル程の穴を空けた。
しかもその火球は更にもう一発、更にもう一発と次々に降ってくる。
「う、うお! うわ! うあ!」
思わず逃げ出したニコラッドだが、その行先にも一発の火球が落ち、それを避けた先にもまた落ちてくる。
ダニエルもまた空を見上げながら火球を避けた。
「な、何だこれ!?」
二人は火球をなんとか交わしながら、何故こんなものが落ちてくるのかの原因を探った。
そうして火球が降り注いでくる場所の上空を見上げて、それがソフィアの落としているものだと気付いたと同時に、ネスロが彼女の元へ触手を使って向かっているのが見えた。
一体どうなってるんだ………というか、なんなんだあの女から出ているものは?
その状況を愕然としながら見つめていると、今度はソフィアの手から複数の熱線が放たれた。
それは真っ先にニコラッド目掛けて迫ってくる。
驚いたニコラッドは慌てて地面を蹴ってなんとか避けた。
ニコラッドは尻餅をついたまま熱線が通過した地面を見ると、そこはドロドロと赤い液体が煮えたぎり、高熱を放っていた。
「大丈夫か!」
「お、おう………大丈夫だ」
ダニエルはニコラッドの元へ駆け寄ると、手を取ってニコラッドを立たせた。
「気を抜くな! 早くこの場から離れるぞ!」
「あ………ああ!」
ダニエルの言葉に正気を取り戻したニコラッドは、出来るだけ遠くへ逃げた。
だが二人が走っている途中、後ろで轟音と巨大な爆炎が見え、思わず足を止めた。
すると次に白く輝く綺麗な光が斜め上空へ昇っていき、それは一瞬でネスロに命中した。
その瞬間から戦闘音は消え、辺りは静寂に包まれた。今までの爆発音のせいで余計に静けさが増し、二人は暫くの間黙り込んだ。
「……………どう、なったんだ?」
「………確認しに行くか?」
「危険じゃないか?」
「ウゥン………だがあの子に何かあったかもしれないだろ」
「…………そう、だな。分かった、行こう」
あれ程激しく戦っていた場所に戻るのに不安を抱えながらも、渋々そう返事をしたニコラッドは、ダニエルと共にソフィアの元へと向かった。
白い光が放たれた場所を見た二人は驚愕した。
そこには深傷を負ったソフィアがまるで死んだように横たわっていたのだ。
それを見たニコラッドは咄嗟に彼女の元へ駆け寄り、ダニエルもその後に続いた。
「おい! 大丈夫か!」
ニコラッドはソフィアに大きい声でそう尋ねたが反応は無い。
口元に手を当て生存を確認すると、微かだが呼吸をしているようだった。
生きているのかと少し安心するニコラッドだったが、ソフィアの身体を見てみると、それは酷い有様だった。
「酷い傷じゃないか。ニコラッド、今すぐ馬を」
「いや、さっきの戦いで死んじまった」
馬は戦闘の最中に二匹とも死んでしまい、ソフィアをすぐに神都へ連れて帰るのは難しかった。
けれどニコラッドはソフィアの応急手当てをすると、自分の背に乗せて神都まで走り出した。
「おい、走っていくつもりか…………!」
「このままじゃ死んじまうかもしれないだろ」
「……分かった」
二人はそうして神都まで向かった。その間休むことなく、一人に限界が来ればもう一人が背負って走った。
なんとか神都に着いた二人は、息切れになりながらもその場にいたバーゼルと名乗る男に事情を説明し、ソフィアを託した。
バーゼルはソフィアを抱き抱えると神殿まで全速力で向かい、それを見送ったニコラッドとダニエルは……………。
「ほら、さっさと進め」
数人の兵に連れられ連行されていた。
なんでこんな事に………はあ。
二人は牢屋まで連れてこられると、装備を外されそれぞれ別々の檻に入れられた。
そしてふとニコラッドが隣の檻を見てみると、そこにはなんと人の頭蓋骨があった。
「え、もしかして俺もこうなるのか…………嘘だろ」
--囚われの骸骨--
鳥の囀りが聞こえる早朝。その日アンナは静かな物音が聞こえ目を覚ました。
骨の頭だけしかない体で部屋を見回すと、ソフィアが身支度を整えているのが見えた。
こんなに早くから仕事があるのかと感心するアンナだったが、話すこともないからと寝たふりをしてソフィアが部屋を出ていくのを待った。
ソフィアの自室にいるアンナは、夜の出来事で多少寝不足だった。なにせ次また進入してくるかもしれないと、あれから暫く起きていたのだ。
ソフィアが部屋から出て行った後、アンナはユウカの事について考えていた。エレノアがいなくなった後のユウカは暫く落ち込んでいたが、昨日からエレノアがいると言って独り言を呟いている。アンナは、それはきっと現実逃避だと思っていた。けれど、そうではないかもしれないと今は思っている。
アンナはユウカが寝ている筈の位置を見て考えを巡らせた。
気配を感じることはできるけれど、霊体であるユウカ様を魔眼持ちでない私が見ることはできない。魔術か魔法か………そのいずれかを使えば視認することは可能かもしれないけれど、私はそれができる程魔力が多いわけではない。
アンナは霊体を見ることができない為、もしかするとエレノアは霊体になりユウカの側にいるのではと考えた。だがその気配を捉えられないことに疑問を感じていた。
「ふああ」
そうしているうちにユウカが大きなあくびと共に目を覚ました。
アンナはいつものように挨拶をする。
「夜は大変でしたね。今日は如何されますか? ユウカ様」
「ウゥン……」
そして今日の予定を尋ねると、ユウカは深く悩んだ様子で首を傾げた。
その間誰かと話している風に頷いたりしているのを見たアンナは、不自然なことなのにその動作がとてもしっくりきて、余計にわからなくなった。
「骸骨さん、今日は街を見て回ろう」
「はい、分かりました」
不信感はあるけれど、昨日まで引き篭もっていたユウカが外に出ると言い出したことは嬉しく、その提案を承諾して神殿の外に出た。
神殿の外に出たアンナは、ユウカの気配に着いて行っているものの、たまに何処へ行ったのか見失う時があった。けれどその前に頭蓋骨だけのアンナが外に出れば、注目の的になることは避けられない。そう思いなるべく人目に付かないように高い位置からユウカの跡を追った。
人形が有ればローブの中に隠れられると、少しだけ面倒に思っていると、ユウカの気配が建物の壁の位置で止まった。
どうしたのだろうとアンナは疑問に思いながらその場所に近づくと、突然ユウカが嬉しそうな声で、
「おお、触れられる!」
とよく分からないことを口にした。
アンナはその言葉の意味を考えようとしたが、次にユウカはアンナに向かって、
「骸骨さん、ほら!」
そう言った。
なんだろうと思いながらもアンナはユウカの元へ行った。
すると突然体が思うように動かなくなった。
一瞬何事かとも思ったアンナだったが、もしかするとこれはユウカではないのかと思い、そうするとユウカが自分に触れているのではと考えた。だとすれば「触れられる」の意味も納得だと。
「おお!! 確かにユウカ様を感じます!」
アンナはユウカに触れられて喜んだ。
そして次に考えた。ユウカの霊体のことを。
ユウカ様の霊体はとても魔力が多い。何かに触れるというのは、そこいらの霊体に出来ることではない。確かに触れられる者もいる。けれどそれは神話などで登場するような者たちだけで、他には聞いたことがない。
アンナは考えた。やはりユウカはあの予言のとおり、カーラと同じ力を持っているのだろうかと。それならば自分の願いもいつか叶えることが出来るのではないかと。
「…………ん、あれ? ユウカ様?」
深く考えすぎて周りが見えなくなっていたアンナは、いつの間にかいなくなっているユウカに気が付かなかった。
その状況に焦るアンナだったが、突然飛んできた火球に当たり地面に転がった。
「や、やったか?」
急な攻撃に驚いたアンナだったが、転がったまま状況を確認して納得した。どうやら今魔術を飛ばしてきた男にモンスターと間違われたようだった。
逃げようとも考えたアンナだが、周りの人が多すぎるのと、下手に抵抗して倒されるのも笑えないと、そのまま転がっていることにした。
「どうした?」
すると一人の老人がその男に話しかけてきた。
見るからに上位の神官と思われるその老人は、傍に若い男を従えていた。
「バーゼル様! いえ、モンスターが……」
「ふむ…………」
「どうしましょうか…………」
「エルドレッド、お前は先に行け。わしは念の為このモンスターを牢に入れておく」
「承知致しました」
エルドレッドという男はそういうと、魔術で馬の形をした土を造り出し、それに乗り颯爽と門の方まで向かった。
そしてアンナは……………。
バーゼルという老人に運ばれ牢に入れられてしまった。
「…………嘘でしょ」




