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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
小さな人形編
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十話 夢見る人形<中編>

 姿勢の悪いその女は、黒いローブにフードを深々と被っていた。

 私はその女に既視感があった。


「君、聞こえる?」


 そう、その女はあの時お父さんに魔石を渡した魔法使いだった。

 そして私はこの女こそがことの発端だということを思い出した


 普通なら怒るところなのだろうが、今の私にはそんな気力は無かった。


「ねえ……んッ!」


 そして私は気づくと女に抱きついていた。


 きっと人肌が恋しかったのだと思う。

 なにせ長い間誰とも会話が出来ず、自分の体の感覚すら無い状態でもの凄く不安だった。


 しかし体温も、相手の吐く息も、何一つ感覚を感じなかった。


「私は、いったい……」


 女は私にこれまでの経緯を話して聞かせた。


 まず最初に私の家に来た理由。

 次にあの魔石はなんのか。

 そして今の私が置かれている状況を。


 要約すると、私の家に来たのは嵐から逃れるためではなく女神カーラの啓示であること。

 魔石に関してもカーラによって授けられたもので、どんな効果があるかはわからなかったこと。

 そして私の肉体は既になく、今は人形の体に宿っていること。


 私の頭は考えが追いつかなくて苦悩していた。

 しばらくうつむきながら黙っていると、女が話しかけてきた。


「負い目は感じてない。私はやるべきことをやっただけ。恨みたいなら好きにして」

「……そう、ですか」


 私は怒らなかった。

 気が動転していた訳ではない。

 むしろその逆で、もの凄く冷静だった。


「私の事、どうとも思わないの?」

「……はい、不思議と」

「そう……それじゃあ私はやることがあるから。何かあれば呼んで」


 女はそう言って部屋を出て行った。

 私は取り敢えずあたりを見渡し、自分が置かれている状況を確認する事にした。


 自分はベッドの上にいて、周囲にはいろいろな種類の人形と、おそらくその人形を作るための材料が隅にまとめられていた。


 窓の外を眺めてみるとそこには見たこともない人、見たこともない家、見たこともない町が広がっていた。


「知らない場所……」


 私は少し考えて弟達のことを思い出した。

 今どこにいるか、そもそも生きているのか。


 私は今どこにいるのかを含めて弟達のことも聞こうと女の元へ向かった。


 私が部屋の扉を開ると、そこはどこの家にもある居間だった。

 私が今いた部屋の雰囲気とはまるで違うその空間に少し動揺した。


「………あの」

「どうかした?」

「家族のことを聞きたいのですが」

「両親のこと? だったらもう既に死んでるわ」

「……それはわかっています。でも弟達は殺されていなかったはずです」


 私は冷静に淡々と聞いた。

 まるで感情がないかの如く。


「それはわからない。私がきた時にはもう誰もいなくて、あったのはあなたが入った魔石だけだったから」

「そう、ですか」


 しばらくの沈黙の後、私はこの先のこと考えた。

 もう行く宛もなく、帰る場所もない。

 私はどうすればいいのだろうか。


「行く宛はある? ないなら私に着いてこない?」

「え……何故ですか?」

「あなたが必要だから」


 一瞬迷ったが、まだ弟達が生きている可能性もある。

 それに今の私にはその言葉がとても嬉しかった。

 だから私はこの女に着いて行くことにした。


「わかりました、よろしくお願いします」

「よろしく」


 私は軽く頭を下げると、その女も頷いた。


「私の名前はエレノアです……あなたは」

「……私のことは何とでも呼んでいい」

「そうですね……それではお母さんと」


 ふと頭に思い浮かんだことを口にした。

 だけど私はこの呼び方をおかしいと思わず、むしろそれが正しいことだと思えた。


「え……! わかったそれでいい」


----


 お母さんと暮らし始めて数週間が経った。


 その間私はこの家で色々なことを学び、今ではお母さんの身の回りのことや、家事全般を当たり前のようにこなしていた。


「エレノア、そっちの部品取って」

「わかりました」


 お母さんは今、私の新しい体を作っている。

 なんでも今の体は早く作ることを目的としていた為、完成度が低かったらしい。


 ここ数週間暮らしていて、お母さんは死霊術士だという事がわかった。

 魂を専門に扱っていて、人形を作りそこに擬似魂を入れることでその人形を操ることができるらしい。


「………よし、これで出来た」


 小さな声でお母さんはそう言った。

 そして私のほうを向き、座っていた椅子から立ち上がった。


「エレノア、あなたの体が出来た。今からあなたの魂をこの体に入れる」

「わかりました。私は何をすればいいですか?」


 するとお母さんは作ったばかりの人形を床に置き、何かの絵が描かれた紙を一枚手に取った。


「私は今からあなたが入っているその体の封印を解く。そうしたらエレノアは新しいこの体に入って魔力を流して。ただし私が封印をした後にね」

「……わかりました」


 私は今から入る人形の隣に仰向けで横たわった。

 そしてお母さんは私の横に座って何かの道具を手に持った。


「それじゃあ、始める」

「はい」


 私が人形の体になった時には既にあった胸の印を、お母さんは手に持った物で削り始めた。

 すると段々意識が遠くなっていき、気づいた時には下に人形の体が見えていた。


 私は自分の体を見て驚いた。

 それは人形の体になる前、まだ生きていた頃の私の身体にそっくりだった。


「これが霊体……体に入ろう」


 私はお母さんを横目に新しい人形の体に入っていった。

 お母さんは私のことが見えていない様子だった。


 私が人形の体の中心にいくと、お母さんが人形の胸の辺りに紙を置いてブツブツと何かを呟き始めた。

 すると魔石の中にいた時のように、今まで見えていた周りの景色が真っ暗になり何も聞こえなくなった。


 私はお母さんにいわれたとおり魔力を人形の体に流した。

 すると見えなかった景色も、聞こえなかった音も戻ってきた。


「見える?」

「……はい、ちゃんと見えています」

「うん、うまくいったみたい」


 私は立ち上がって自分の体を見渡したが、今までの体とそう変わりは無かった。

 ある一つの部分を除いて。


「ッ! エレノア、その目」


 お母さんは私の目を見てそう言った。

 私は一体どうしたのかと思いながら渡された手鏡で自分の顔を見てみた。


 私が持っている鏡で覗き込んで見た自分の顔にうつっていたのは、左右の目の色が違う人形の顔だった。


「これは……」

「エレノア、ちょっと話がある。その目のことも含めて、これからのことを」

「……はい、わかりました」


 そう言って私とお母さんは椅子に座った。

 するとお母さんは私の目をじっと見て話し始めた。


「その色が違う右の目は魔眼というもので、特殊な力が宿っているの」

「魔眼、力……でも、どうして私に」

「それはわからない。けれどその魔眼がどういったものなのかはわかる。それは魔力を見ることができる魔眼」

「魔力を見ることが……」

「そしてその魔眼があなたに現れたのなら、私は旅立たなければならない。エレノア、あなたにもついて来てほしい」

「……私、にも」


 魔眼を見た時からお母さんの雰囲気が変わった事と、急に旅立つと言われた事に私は少し動揺していた。

 だがまずは状況を理解する為、私はお母さんに質問した。


「何故旅立つのです、そして何処に行くのですか?」

「………私の夢は知っているでしょう……? 私が不老不死を目標に生きてきたことは」


 そう、お母さんには夢がある。

 『不老不死になる』それがお母さんの口癖で、その為だけに研究を重ねて生きている。


「その夢が叶いそうなの、だから旅に出る」

「それは、カーラの……」

「違う、これは私の見た預言、カーラは関係ない。そして行き先は神聖サレウス皇国の隣にある森。そこに行けば女の子の魂が私を迎えにきてくれる」


 嬉々として語るお母さんの目は私のほうではなく、どこか遠くを見ているようだった。

 私はその目があまり好きじゃなかった。

 自分でも何故かはわからない、ただそう思った。


「エレノア、来てくれる?」

「私は……反対です」


 この時初めてお母さんの意見に反対した。

 それが自分の判断だったのかはわからない。


 それでもお母さんは私の説得を続けた。

 私は始めてみるお母さんの熱意と勢いに圧倒され、遂に折れてしまった。


「そこまで言うなら、わかりました」

「ありがとう、エレノア」


 それから私達は旅支度をして、その数日の後に家を出て森へと向かった。

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