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31.あなたと一緒に生きる時間。

「本当におんぶしなくて大丈夫か?」

「うん、ありがとね」


 駅までの距離を流石に負ぶわれて帰るのは申し訳ないし、周りの目線も気になった。

 私は足を引きずりながらも、腕を支え歩幅を合わせて歩いてくれる拓人に全てを委ねて前に進む。

 そんな中でも二人の間に思い出話は尽きる事がない。


「ねぇ、拓人。お祭りの日、なんで私があそこにいるって分かったの?」

 拓人がお面の男の子だって分かってからずっと疑問に思っていた。

「………」

「……何?」

 急に顔を赤くして黙り込む。


「俺の事、嫌いにならない?」

「何よ、今更」

 小さな声でモジモジ話す一面が可愛くて笑ってしまう。


「俺さ、ダメなんだよ……。芽衣が他の男とどっか行ったり仲良くしてるの見るの……」

「……え?」

 チラッと視線だけこちらに向けてまた前を見る。


「お祭り、菅原も行くって学校で話してるの聞いて……。芽衣のこと盗られるんじゃないかって………あぁっ! もういいだろっ!! 気になって後をつけたんだよ、芽衣の事!!」

「拓人……」

「気持ち悪いだろ、俺……」

 ギュッと目をつぶっている。

「そんな事あるわけないっ! あの時の拓人ヒーローだったもん!」

 思い出してはまだ拓人のかっこよさに胸がキュンとする。


 そんなに私の事を想っていてくれてたなんて……

 嬉しくて拓人の腕にギュッと抱きつく。


「ごめんな。芽衣の事になるとどうも理性が吹っ飛んじまう」

 私が熱い視線を送っても恥ずかしさを隠しているからか、ちっとも目を合わせてくれない。


「芽衣はスキだらけなんだよ……。今だって胸思いっきり当たってるし……」

「わぁっ! ご、ごめんっ!! イタタ……!」

 慌てて手を離したら足に激痛が走る。


「ほら!」

 心配した顔で、やっと私を見て手を差し伸べてくれる。

「それと、さっき教室で浴衣でいる時も色々見えそうになってたし……。芽衣は自分が可愛いって自覚が無さすぎんだよ」

「何言ってんのよ? そう思ってくれるのは拓人だけだよ」

 あははと照れ隠ししながら笑ってみせる。

「んな事ねぇよっ! とにかく気をつけろよ? これからは堂々と芽衣に張り付けるし、俺がしっかり監視しとくから覚悟するんだな!」

「もう、拓人お父さんみたい」

「芽衣のお父さんに似てるなんて光栄だよ」

 フンとドヤ顔してみせる。


 そんな拓人が可愛くて、愛しくて……

「ずっと、一緒にいてよ……?」

 もう絶対居なくならないで……


「あぁ、芽衣に嫌われたって、俺はずっと傍に居る」

 髪の毛をくしゃっと撫でてくれる。



「おい! そこのバカップル!! いちゃコラしてんじゃねーぞっ!!」

 近くに誰もいないと思って会話をしていた私たちは、太い聞き覚えのある声にびくりと肩を上げる。


「市倉先輩……」

 振り向くと腕を組んで私たちを睨みつけている。


「今日は本当ご迷惑おかけしてすみませんでした!」

 小川くんが深く頭を下げる。

「全く、先生に二人セットで棄権する理由を説明すんの大変だったんだからな? 怪我したの上野だけなら小川だけでも出せないのかって詰め寄られてさ」

「お察しします……」


 そりゃ言い訳する言葉もない。

「ま、でもよかったな! 小川のファン代表としては彼女ができちゃうのはちょっと残念だけどな」

「ファンって何なんですか? 気持ち悪いっすよ」

 そう小川くんが笑った瞬間、30歳位の、これまた大きながたいをした短髪の男性が市倉先輩の肩を叩いた。


「健。どこ行ってたんだよ? 探したんだからな」

「あぁ、ごめん。俺の可愛い後輩と話してて」

「俺の……?」

 その男にギロリと拓人が睨まれたのが分かって咄嗟に私は二人の間に入り込んだ。

 横で市倉先輩が『ふぅ』と息を吐く。


「小川も上野も、人相悪いけどこの人俺の恋人だから」

「………?!」

 私も拓人も固まり、さらにその大男も動きが止まる。


「おい、そんな事言って大丈夫なのか?!」

「あぁ。信用してる、俺の大事な後輩だから、ヒロの事ちゃんと紹介しときたいんだよ」


 幸せそうに笑っている市倉先輩を見ていると、どうやら冗談ではないようだ。

 私たちはなんて言葉を返すのが正解か分からなくて、お互い顔を見合わせるばかり。


「黙っててごめんな。初めて小川に逢った時、なんだか人には言えない事情を抱えてる雰囲気が他人事とは思えなくてさ。俺の付き合ってる人の事はもちろん誰にも話したこともないし、聞かれたこともなかったんだけど、お前ら見てたら自分も誰かに言いたくなってさ。俺もヒロが好きなんだって」

 市倉先輩はヒロさんに優しい眼差しを向ける。


「堂々と『好きだ』って言えることは幸せなことだろ? これからは人になんか気を遣わずに思う存分彼女に気持ちを伝えてやれよ?」

「……はい」

 拓人が穏やかに笑っている。


「上野、お前に一つ言いたい事がある! 小川がお前の友達に暴言吐いたのは上野を僻んで悪口を言うような最低女だったからだ。本当の事なんて上野を想って絶対にコイツは言わないから、最後に俺が伝えておく!」

「ちょっと先輩!!」

 拓人が強い口調で市倉先輩を制止する。


「………そうなの……?」

 私の問いかけに観念したように拓人が静かに頷く。


 どうしよう……

 私拓人になんて酷いこと……


「……ごめんね……ごめんなさい!!」

 知らなかった。

 私の事を想って佳代にそんな言葉を吐いていたなんて。


「なんで謝んだよ? どんなに嫌われたって、俺は友達思いの芽衣が好きだし、今更問題ない!」

 そう言ってポンポンと頭を撫でてくれる。


「じゃあな、小川。上野と仲良くやれよ!」

「……ハイ! 色々ありがとうございました!」


 市倉先輩とヒロさんの仲良しな後ろ姿を見送った後、私たちは暗くなった道をぴったりと肩を寄せ合いゆっくりと歩いて行く。

 拓人の深い愛情に私はどっぷりと浸かり夢見心地だった。


 今までどうして気がつかなかったんだろう?

 こんなに私は拓人に想われていたのに……

 一体私は今まで何してたのよ?


 自己嫌悪に陥いって我に帰ると、すぐ先に私の家が見えていた。


「拓人、ずっと私の事守ってくれてたんだね」

「それが俺の幸せだから」

 どこかの国の王子様が言うような歯の浮くセリフも今はなんの抵抗もなく私の心に馴染んでいく。


 離れたくない。

 今度は私が拓人の心を、たっぷりおもてなしをして幸せでいっぱいにしてあげたい。


「ねぇ、今日うちに泊まって行きなよ……」

 離れていた分、少しでも長く一緒にいたいよ。


「え……?」

 拓人が頬を赤らめる。

「ち、違うよ?! そういう意味じゃないよ?!」

「分かってるよ」

 慌てた私を見てクスクス笑いながらも拓人も頬が赤いのは気のせい?


「もう! ほらっ!」

 私は話題を逸らしつつ拓人の手を引いた。

 いつもと変わらない玄関のドアを開けるとあの時に時間が巻き戻ったような錯覚に陥る。


「………、芽衣どなた??」

 出迎えてくれたお母さんが怪訝な顔で私たちを見た。


「忘れちゃったの?」

 私はお母さんのリアクションが楽しみで勿体ぶってしまう。


「おお!! 拓じゃないか! 上がれ上がれ!!」

 そんな私の楽しみはお父さん勢いに一瞬で奪われた。


「あら! 拓人くんなの?! カッコよくなってー! 別人かとおもったわよー」

 なんでお母さんが顔を赤くしてるのよ?


「お父さん、見て拓人だってすぐ分かったの??」

「当たり前だろ? この前も偶然コンビニであってな……あっ!」

 しまったと慌てて口を塞ぐ。

「ちょっと……! 内緒って約束でしたよね?」

 拓人がびっくりした様にシィっと人差し指を口の前に立てた。


「すまん、拓……。つい興奮してしまったわい」

 寡黙であまり表情を変えないお父さんが本当に嬉しそうな顔をしている。


「ねぇ、どう言う事? 二人でコンビニで何話したのよ? なんでお父さん拓人に会ったこと言ってくれなかったのよ!」

 一気に賑わった玄関で、あまりにも私が拓人の手紙を見つけられないものだから、ヒントの隠し場所を彼がたまたまコンビニで会ったお父さんに伝えた事を聞かされた。

「芽衣のお婿さんは俺の中では『拓』ってずっと決まってるからな。ここは協力しない訳にいかないだろ」

「そんなの初耳だよ!!」

 もしかしたら私以上にお父さんは拓人のことを見てたのかもしれない。

 終始嬉しそうにしている拓人の顔を見ていると私まで幸せな気持ちになってくる。


「あ、これ、借りてた本……」

 拓人が鞄から本を取り出す。

「……拓人の鞄の中に入っていた本、お父さんのだったの?!」

「……? やっぱり、ウサギは芽衣だったんだな!」

 次から次へと見えなかった答えが転がり出てくる。

 結局私たちは初めて逢ったあの日から途切れる事なくちゃんと繋がっていた気がした。


「さぁさぁ、久々にウチに来たんだからゆっくりしていけよ? 読みたい本あったらバンバン持っていけな!」

「ありがとうございます。この借りた本、ラスト最高でした」

「だろう? おすすめの本、この前手に入れたからちょっと仕事場来いよ?」

「ハイ!」

 あんなに嬉しそうにしている拓人、見たことない。

 でも、もしかしたら、中一の頃もこんな顔をして私の家に遊びに来ていたのかもしれない。


「お母さん、お父さんが拓人の事返してくれないよ〜。話したい事いっぱいあったのに」

 リビングで夕飯をみんなで食べた後、また私だけ取り残された。

「いいじゃない。お父さんがあんなに嬉しそうにするの久しぶりに見たわよ。だから、私も嬉しいの」

「……そうだね」

 大好きな人の嬉しそうな顔。

 私はまだまだ拓人の知らない所がたくさんある。


「ほら、芽衣。噂をすれば……」

 お母さんがクイと顎で私の後ろの方を指す。


「お母さん、芽衣と少し二人で話してきてもいいですか?」

「どうぞどうぞ!!」

 お母さんがふふふと私を見る。

 拓人の後ろからお父さんが顔を出した。


「鈍感な娘だが、末長く仲良くしてやってくれな。孫はまだ暫くいらんけどな」

 ニヤッと笑ってボンと拓人の背中を叩く。

「お父さんっ!!」

 間髪入れず突っ込んだ私を見て拓人がクスクスと笑う。



「芽衣。やっと二人になれたな」

 私の部屋で拓人が壁にもたれかかる。

「なんか……不思議だね。またこうして拓人が横にいるの」

「俺は、絶対こんな日が来るって信じてた」


 ほんの少し開いた窓の隙間から雨音が聞こえる。


「来年は紫陽花一緒に見れるかな」

「どうしたの? 急に」

「見たかったんだ、どうしても芽衣と一緒に」


『うちの紫陽花、すっごく綺麗なんだよ? 梅雨の時期が来たら一緒におんなじ傘をさして庭に出ようよ』


「芽衣のその言葉を聞いて、俺は未来を生きる事が楽しみになったんだ」

「拓人……?」

「どんな俺も好きでいてもらえるように頑張るから……」

「俺と一緒に同じ時間を過ごしてください。これからもずっと……」

 私は拓人をしっかりと見つめて頷いた。


 大好きな人が側にいなくて、空っぽのまま過ぎていた時間を埋め合うようにぴったりと寄り添う。

 優しい雨音に包み込まれるように、拓人に手を引かれた私は大きな彼の胸に顔を埋めた。




 完


なんとか完結いたしました!

なかなか作品に没頭する時間が取れず苦しい時もありましたが、やっぱり最終話投稿する前に『この部分で完結します』をポチッとする時は毎回手が震えます(笑)

今回夏休みで日中人が家に沢山いるため深夜投稿が多くなり、タブレット片手に寝落ちなんて事も多々ありましたが、今となってはいい思い出です。

二日に一回の更新でも追ってきて下さった方、自己満作品にお付き合い頂き、読んでくださった全ての方に感謝の気持ちでいっぱいです。

ほんの少しでも楽しんで頂けたなら幸せです。

よかったら一言でも残して行ってくださったら喜びます(*´꒳`*)


今まで本当にありがとうございました(*´∇`*)

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