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短篇集50  作者: SOUYA.(シメジ)
37/37

(37)静かな歩み 1

お久しぶりです。

今回は和風なお話です。

 ボクが先生に何か言えば「当然だ」と嫌な音を立てて肯定された。これだから大人は嫌いなんだ。これだから金持ちは嫌いなんだ。

 耳を塞ぎたくなっても、声を上げたくなっても。

 そんなの意味無いと気付いたのはずっと前で。


 それが助けを乞う手段だと気付かされたのは最近で。


 先生の部屋から出れば赤い絨毯の敷き詰められた目に優しくない眩しい廊下が目に入る。嗚呼、和室が恋しい⋯。


「……、」


 ボクは先生の部屋のドアにお辞儀をして歩き出した。

 靴もスーツも脱ぎ捨てて、裸足に着物でゴロゴロしたい。











   妖怪は高貴なる生物

     其の霊力、正しき事に

       其の存在、貶す事許さん


      第四十三記 『妖』より







 ボクの家はずっと昔に妖怪と人間が愛し合った。

 それからというもの人間の血を多く含む者と妖怪の血を多く含むモノが生まれた。

 人間の血を多く含む者は【人間】として扱われ、陰陽道を歩む。

 妖怪の血を多く含むモノは【妖怪】としては扱われなかった。一族の血を穢したかつての妖怪と重ねられ、まるで八つ当たりの様に道具として家にずっと囚われる事になるのだ。


 この家には権力も金もあった。

 でも逆らってはいけない理由はずっと無かった。



 だからボクは。





「あら、ヨウちゃん?」

「義姉様」


 廊下を進んでいればこれまた派手なドレスを身に着けたボクの義姉が立っていた。コツコツとヒールを鳴らしてこちらに歩いてくるなり、ガバ、とボクに抱き着いた。


「朝から何処へお出掛けしていたのかしら? 随分探したのだけれど部下とすれ違わなかった?」

「あぁ、道理で鬼の形相で追い掛けてきていたのですね。

あの人達、人間ですよね? 妖怪と見間違いましたよ。

一体何を言ってボクを探させていたのですか」


 そう言えば義姉様はにんまりとグロスの塗られた口を上げる。あ、何となく可哀想な予感を察知。


「特に何も言ってないわよっ? ただ『弟さん、最近見ませんね』って言われたから『そろそろ限界。八つ当たりしそう』って言っただけよ」


「そ れ で す ね」


「どうして逢えなかったの、また先生に何か言われちゃった? お父様から言っておいて貰わないとね」


 義姉様はしょんぼりとしながらボクの背中にくっつく。

 ボクは妖怪の血を多く含むモノとして生まれたが随分と恵まれていた。未だに本家じゃあ奇異な目で見られる事も多いけど、分家の方ではモノの見方が少しだけ変わってきているらしい。

 それもこれもボクの母様と再婚した方のお陰。

 義姉様はその方の連れ子で今は陰陽道のトップに居られる。


 勿論分家であるこの家でも人間の血を多く含む、【人間】の皮を被った半妖様はデカい態度でボクを“使う”。

 慣れることは無いけれど母様、義父様、義姉様が居るのは心の支えだった。



 そう、だからボクは。



「義姉様」

「なぁに、私の可愛い弟」


「ボクは」






「ボクはこの家を出ようと思う」



 少しでも未来を変えたくて。

 抗う理由が欲しくて。

 逆らっていい理由が欲しくて。


 未来でボクと同じような子が二度とこんな想いしなくて済むように。過去は変えられないけれど。未来は充分に変えられる。



 【人間】が【妖怪】を道具として扱った過去は。



「そう・・・、じゃあ寂しくなるわね」

「手紙は書きますよ」

「ラブレターかしら?」

「ノーマルレターですよ」


 そんな誰もが苦虫を噛み潰したような顔をする過去は。

 未来には必要無い。

 過去の【妖怪】達が甘んじて受けてきたソレをボクは断ち切る事を決意した。


 まずは家を出てどこへ向かおうか。

 本家から分家へ移る時も仕事をしている時もまともに外の景色なんて見なかったし、此処へ来てからも外へなんて出ていなかったからなぁ。


「ヨウちゃん」

「はい、義姉様」

「最後にお願い、一つだけいい?」

「・・・はい」


 何を言われるのだろう。

 無意識に強ばった身体から義姉様は離れた。



「幸せになりなさい。


この家の最後の【妖怪】として。


そして私の弟として。


充分幸せになる資格はあるわ」




 ああ・・・。


「はい、勿論です義姉様」



 敵対する陰陽道の家の者を傷付けた事もある。

 盗みを働いた事もある。

 大きな怪我をした事もある。

 ご飯が貰えなかった事だってある。


 もうそんな理不尽は未来には要らないのだ。





 さあ、旅に出ようか。

 義姉様の話に聞いた西の街もいいやもしれない。

 妖怪が住む都もいいやもしれない。


 ああ、迷う。

 ボクの幸せはどこにあるのだろうか。



 そうしてボクは先生の部屋の前でしたお辞儀を義姉様にもして家具も装飾も何も無い僕の部屋へ戻った。

 悲しい連鎖はもう終わり。


 耳を塞ぐのも、声を上げるのも疲れた。

 偶には耳を澄ませて、静かになるのもいいやもしれない。


 もう未練はない。


 そう立ち上がったボクを窓から入った風が頑張れ、と言っているように聞こえた





END

何だか応援したくなりますね。


閲覧ありがとうございました

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