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最弱の王  作者: ぱるお。
2話 魔法を使わない魔法使い
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悪魔の願い

 

 ヒノワと別れた後、ツキヒは自室でシャワーを浴びていた。そこで先ほど交わした約束を思い出す。


「ささやかな願い、かぁ……」


 彼にとってはささやかな、しかし彼女にとってはとてもささやかとは言えない、そんな願い。


 ただ一言、聞いてほしい言葉がある。


 その言葉をぐっと堪え、ツキヒは自分の小指を見つめた。自分より冷たかったはずの彼の温度は、繋いだ瞬間から燃えるような熱を帯びていた。そんな気がした。耐えきれなくなって離してしまったが、不審がられなかっただろうかと頭を悩ませる。


 思い出し、顔が赤くなるのを感じた。まるで冷ますかのように冷水を頭から浴びる。痛みすら覚える冷たさに心が落ち着いた気がした。


 落ち着きを取り戻した彼女は、一週間前の編入生の挨拶を思い出す。その時、編入生の一人に自分と同じ紅い髪を見つけた。


『黒子ヒノワと言います。これからよろしくお願いします』


 彼を見た瞬間、電撃が走った。運命を感じると共に、己の使命を実感した。


『朧さん……? 初めまして、よろしくね』


 初めて話した時、目の前にいる彼の心は遠く別の所にあることを悟った。


 彼と話せば話すだけ、その瞳には自分が映っていないことを嫌でも思い知らされた。痺れるような電撃すら覚えた出会いも、もはや呪われてるのかと疑いを抱くほど。この想いはやはり封印することに決めた。


 それでも彼とのペアを申し出たのは、とにかく彼の力になりたかった。昨年ペアだった生徒からは今年もと打診があったものの、性格的に合わずに断ろうと思っていた所だった。


 彼が魔法大会に出るなら、共に戦おう。優勝すると言うのなら、それに応えよう。


 改めて決意を固めたツキヒは、自分の頭、そこから(・・・・)生える(・・・)捻れた角(・・・・)に触れる。曇りガラスを手で拭うと、そこには悪魔が映っていた。


 紅い髪を掻き分け生える、真っ黒な捻れた角。白い肌と対照的な、漆黒の翼。小ぶりな臀部を飾り立てる、尖った尻尾。


 ツキヒは正真正銘、悪魔だった。


 正確には悪魔と人間の亜人であるのだが、外見には悪魔の血が色濃く出てしまっている。とても大切な人に拒絶されたあの日から隠して生きてきた為、この姿を知るものは学園内には一人しかいない。


 悪魔、といってもその全てが悪であるわけではない。悪魔とは、かつて人間がその禍々しい外見を見て付けた通称であり、魔界に棲まう者の総称である。


 魔界に生まれ、黒い太陽の光を浴び、紅い月に照らされ、角を翼を尾を持ち、魔力により生きる。それが彼ら悪魔族である。


 だが魔界との門が封鎖されている現在、人間界に悪魔は少ない。人間とのハーフとなれば尚更である。いつの時代も、個体数の少ない希少種は常に追われる立場にある。それはツキヒも例外ではなく、周りには売られた者までいた。


(知られるわけにはいかない。絶対に)


 それは勿論、ヒノワであっても。


 優勝を目指すのであれば出来る限りの情報の共有は必須だろう。だがそれでも、話すつもりは全く無い。幸い悪魔は高い戦闘能力を持ちこそすれ、固有の特殊能力は持ち合わせていない。どれだけ力を振るおうが発覚する心配は少なかった。


 水を止め浴室を出る。時期的にまだ冷える頃だが、水を浴びたお陰か体が火照っていた。頭をタオルで覆い体を拭いていく。こういう時、翼というのはつくづく人には必要の無い物だと感じざるを得ない。


 寝巻きに着替え、髪を乾かしていく。自分の容姿で一番気に入っているのがこの紅い髪だった。幼い頃に褒められた紅い髪を手入れしているのが、特に好きな時間の一つ。この髪を見ると、同じ髪色のヒノワのことも思い出す。


 髪を緩めに編み布団に入る。今日は色々なことが起きて、見ていただけだったが心が忙しかった。すぐに眠りにつけるだろう。目を瞑り、習慣になってしまった誰に捧ぐでもない祈りを捧げる。


 いつか許される日が来ますように。と。


 生まれ落ちた時から持ち合わせ、心と体と共に育まれて来た名も無き罪。世界に憎まれ、愛する者に恨まれたこの罪を、誰かに許して欲しかった。


 彼女のそんな儚い祈りは、しかし誰にも届かない。



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