ぶつける想い
「限定魔法に、短剣以外の暗器か……使っていれば初めから勝負は着いていたんじゃないのか? それどころかMRSでももっと上を目指せたはず。どうしてこれまで隠してきたんだ」
初めて見るツキヒの様子に、警戒心を高めながらアタルは問いかける。
「君が考えるほど、この世界は優しくないんだよ」
ツキヒはこれまで同じような境遇の人間を見てきて、そのうち悲惨な最期を遂げた者も知っている。仙人の下で行っていた修行は、彼女のとある目的とは別に己自信を守ることに直結していた。
「そうだな。俺は本当に何も知らない子供だった。だがこれからは違う。この力でお前を手にして、その優しくないっていう世界から守ってみせる」
「それも必要ないよ。守ってくれる人は、もういるから」
先ほどのヒノワの言葉が、ツキヒの中に溶けて染み渡っていくのを感じる。彼も一緒に戦ってくれていると思うだけで、力が何倍にも溢れ出るように思えた。
対するアタルは先刻まで自分だけを見つめていた彼女の瞳が、二人きりの戦いの場である今この時でさえも別の人間に向けられていることに怒りを隠せない。
「それを決めるのは……俺だぁ!!」
怒りに身を任せたまま『蛇の蔓』を詠唱する。任せてはいるが、強引な力押しで攻めなければ勝てないと踏んでの攻撃である。
ツキヒは直線的に迫る桃色の樹木に向けて、自身の持つ鎖鎌の分銅を横殴りに叩き付けた。鈍い音を立ててぶつかる分銅は樹木を砕き、魔法は力を失い消え去った。
「な!?」
地面や壁を抉るほどに強力な魔法を、まさか一撃で粉砕されるとは夢にも思わなかった彼は驚愕する。そしてその隙を逃さないよう、ツキヒはアタルに肉薄しつつ分銅を振るった。分銅はアタルに直接ではなく、彼の可動範囲外にまで大振りに振るう。後退しても避けられないと判断したアタルはその場で屈まざるを得なかった。重たい鎖が空気を切る音と共に頭部を掠める。
「くっ!」
アタルの正面まで接近したツキヒは、屈んだままの彼に向かって鎌を振り下ろした。横に避けるところだが、脇腹の痛みに判断を鈍らせ手にしていた杖で応戦した。ツキヒも重傷を負っているはずだが、それでも衰えない力強さに目を見張る。
「ほっ」
ツキヒは折れた骨などまるで気にならないかのように、鍔迫り合いになっている鎌と杖を軸に軽やかな動きで身体を浮かせる。その動きに視線が釣られてしまい、彼は気付くことができなかった。
「ぐあっ!」
屈んで避けた分銅と繋がれている鎖。それが勢いを若干落とし、もう一周していることに。
左腕で防ごうとするが、絡みついていく鎖の動きは止まらない。最後には拳ほどの大きさの分銅が彼の腹部に沈んだ。
「……っ!」
身動きの取れないアタルはその痛みに声も出せずに崩れ落ち、媒体である杖もその手から零れ落ちる。勢いが衰えていたとはいえ見た目以上の重量があるのだろう。骨の軋む音が聴こえた。
鎖鎌を手放し身を翻して華麗に着地したツキヒは、静かに彼を見下ろし問いかけた。
「降参……は、してくれないんだろうね」
「あたり……前だろ……」
呼吸をするのがやっとの彼だが、それでも屈服する気はない。唯一鎖に巻き込まれていなかった右腕を支えに、何とか立ち上がろうとする。身体が縛られている上に襲い掛かる痛みと吐き気に、上手く力が入らない。
「そんなに負けるのが嫌?」
「ああ、嫌だね……お前が決めた対価も気に食わないし。それに……」
覚える不快感を息と共に飲み込み、無理やり立ち上がる。立っているだけでやっとなのは観覧席からも明らかだった。
「俺は、お前しか見えちゃいねぇんだからよ……」
傍らに落ちている杖を拾い上げ、最後の力を振り絞り詠唱する。
「13柱の木の精霊、集いし来たれ風の精! 我が槍となり敵を撃て!」
唱えているのは竹槍を放つ中級攻撃魔法。本来ならば避けることは造作もないが、色付きとなれば話は別だ。『蛇の蔓』のように予想を遥かに超えた変化で襲い掛かってくるだろう。
「見せてあげる。縮地術を、その極致を!」
迎え撃つツキヒは、足に気を込めタイミングを計る。
「『竹林槍』!」
振りあげた杖と共に彼の頭上に現れたのは竹の槍。しかし本来の『竹林槍』と違い、桃色の竹が集い束ねられており、より殺傷力を増している。
その槍の束が十三本、アタルが杖を振り下ろすと同時にツキヒを貫かんと迫る。ツキヒは一つ二つと後退しながら次々と避けていくが、壁際まで追いやられ左右にも槍の束が突き立ち退路を断たれた。
そして十二本目が、逃げ場を失ったツキヒを捉えその身体を射抜いた。




