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最弱の王  作者: ぱるお。
3話 恋する?魔法使い
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ツキヒのペア

 

「おい、あんなこと約束して良かったのかよ?」


 休み時間、ヤマトに呼びだされたツキヒは彼に詰め寄られていた。朝の一件で馬場が提示してきた要求は『馬場とペアになる』こと。その要求を呑んでしまっていた。そもそも馬場は、去年までツキヒのペアだった生徒だったのだ。


「……つい、カッとなってさ……」


 対するツキヒは、先ほどの剣幕が嘘のように萎れている。負けるつもりは微塵もないが、現在ペアであるヒノワに断りもなく、しかも本人の前で約束を交わしてしまったのである。自己嫌悪に押し潰されそうになっていた。


 普段と違う弱弱しい様子に、ヤマトも責める気分ではなくなってしまった。飄々とした彼女でなければ変に居心地が悪い。


「なあ、お前ってよ」


「なに……?」


 ここまで様子のおかしいツキヒを見て、ある一つの結論へとたどり着いた。


 彼女はヒノワの無謀な挑戦に付き合い、彼の悪口一つで怒り、そして彼に対する無礼で落ち込んでいる。一つしか思い浮かぶものが無い。


「もしかしてヒノワのことがす--」

「やめて」


 言いかけたその言葉をツキヒに遮られた。


「--なんて顔してるんだよ」


 てっきり顔を真っ赤にして恥ずかしがる様を思い浮かんだが、むしろその逆。哀惜に今すぐにでも泣き出しそうな彼女の表情は、血の気を失い青白くさえ見えた。


「私……」


「深入りはしねぇよ。ただ、負けるんじゃねぇぞ。お前が負けたら雪辱を晴らせねぇんだからよ」


「……うん、わかってる」


 不器用ながらも応援をしてくれるヤマトを見て、僅かながら笑顔が戻る。目下の目標は魔法大会での優勝。その為の闘志を再び燃やした。


「ところで馬場の奴は、どうしてお前に拘るんだ? いや三年間も組んでいたなら分からない話でもないが……」


 馬場とは、ツキヒが中等部に編入してきてからずっと組んできた。だが彼とはほとんどペアらしい行動はしておらず、MRSでも三年間での活動は二桁にすら上らない。ソロでもあまり成績の伸ばさなかったツキヒに執着する理由は無いように思えた。


「馬場君は、私のことが好きなんだって」


「あー……そういうことか。大切なことではあるんだろうが……」


 五年前に終結した魔法大戦、所謂戦争は現在の時点で実際は冷戦状態にある。そんな情勢の中、学生が恋愛に現を抜かすなと叱咤されそうなものだが、魔法使いの卵であるこの学園の生徒に限っては話が別だ。魔法は己が有する魔力と、磨き上げた精神力によって強くも弱くもなる。同じペアでも精神的に強い結びつきがあるペアの方が力も倍増する。それに恋愛という違う個体同士の探り合いは、精神的成長も著しく速い傾向にある。


「だが、どうしてそんなこと知ってるんだ? 告白でもされたのか?」


「うん、された」


 中等部として最後の日、馬場に呼び出されたツキヒはその想いをぶつけられた。彼女はその想いを受け入れずに翌年からのペアも断った。当時の馬場はそのことを納得してくれたはずだったが、今更になって騒ぎ立てる理由はツキヒの新しいペアが『歴代最低の編入生』だったからだろう。


「マジか……っつーことは……」


 ツキヒは対価として、その恋敵に与するような条件を突き出した。馬場にとって最高にえげつない要求を思うと、ヤマトですら同情を禁じ得ない。


「それで、ヒノワには詫びたのかよ」


「う……まだ……」


 自己嫌悪ばかりが先走り、当の本人を蔑ろにしてしまった。再度自己嫌悪に陥る。


「じゃあ戻って詫びるぞ。そろそろ授業も始まるだろうしな」


「うん……」


 ツキヒはパン、と頬を叩く。暗く落ちた顔をヒノワに見せるわけにはいかなかった。


 そのまま教室へと戻る二人だったが、騒がしい室内の様子に顔を見合わせ両者とも苦い顔になる。中を除くと、案の定ヒノワと馬場が――主に馬場から一方的に――言い合っていた。


「お前なんかが朧と釣り合うとでも思っているのか! こっちは三年もペアを組んでるんだぞ! お前とは格が違う!」


 ヒノワの胸倉を掴み、馬場はあることないこと暴言を吐き続けている。周りの生徒も止めるのに二の足を踏んでいるようだった。


「あいつは仲良くなったやつをあだ名で呼ぶんだ。お前は『ヒノワ君』て呼ばれて信頼のかけらもねぇじゃねぇか!」


「……君は『馬場君』って呼ばれてたと思うんだけど?」


「なんだと! この野郎!」


 ヒノワの冷静な指摘に、馬場は寧ろ逆上するばかりである。もう片方の手を振りあげヒノワに殴りかかる。


「ヒノワ君!」


 ツキヒが声を上げるが馬場の動きは止まらない。そのままヒノワの顔めがけて振り下ろした。


 が、


「うっ!」


 ヒノワはその握り拳を受け止め、力を籠める。


(なんだこの馬鹿力は!)


 砕けそうな骨の痛みに耐えかね、ヒノワを掴む手も緩んだ。馬場は拳を掴まれたまま床に膝を付く。


「君じゃあツキヒには勝てないよ。そしてペアにもなれない」


 そう言い捨て、手を放した。そこまで強く掴んだつもりはなかったのだが、痛みを堪える馬場の様子を見て自身の手を見つめた。


「ヒノワ君! 大丈夫?」


 そこへツキヒが駆け寄った。結果だけ見れば馬場の方が無事には見えないが、ツキヒはヒノワの手を握り彼の目を見つめる。


「う、うん、大丈夫」


「ごめんなさい。相談もなく勝手に馬場君の条件を呑んじゃって……」


 彼女の真摯な眼差しに、ヒノワは思わず目を逸らした。


「だ、大丈夫だよ。ツキヒならきっと勝ってくれるし。それより……」


「……?」


「ツキヒの出した条件の方が、恥ずかしいんだけれど」


「え? そ、そうかなぁ……?」


 手を握りながら話すツキヒの表情はいつも以上に明るく見えた。ヤマトはそこに、先ほどの泣きそうな顔を重ねるのだった。


 そしてクラスメイトには、彼らの三角関係が完全に認知された。

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