尽くすべきつとめ
仕方がないなんてことはありませんよ。
医者だって人間なんです。
どうしたってまともな治療もしてやれずに死なせてしまうことだってあるんですよ。
ああ、また重症患者が運ばれてきた。
苦しいのかい? 待ちたまえ。
痛いのかい? 待ちたまえ。
ほんの少し待ってくれたまえ。
消毒液も足りなくなってきたんだ。火で熱して消毒しよう。こっちは煮沸消毒だ。おい、包帯が足りないぞ。とにかく縛るものを持ってきなさい。
ああ、駄目だ。動くんじゃない。手元が狂ってしまうじゃないか。
ああ、駄目だ。また死んでしまった。また死んでしまった。
なんて、なんて辛いのだろう。
医者だからといっても平気ではないのです。
ああ、私は医者なのに、どうして誰も助けられないのだろう。
「あのおっさん、またぶつぶつやってるよ。」
「今声かけないほうがいいよ。錯乱するから。もう少し様子見て『先生、休憩しましょう』って声かけて水なり出したら落ち着くから」
「先生? ああ、確か医者だったか。」
「そ、と言っても、命を助ける医者じゃなくて、実験してたらしいよ。」
「なんのだい?」
「そりゃあ」と、半眼で聞き取れない言葉を吐き続けている捕虜を指さして「ああなっちまうような、実験さ。」
まともな神経残せなかったんだろうさと、肩をすくめて見せる。
「まったく、もう少し役に立つ捕虜はいなんもんかね。」
今日は忙しいな。また怪我人か。
怖がるな安心したまえ。最善を尽くすから。人を治すことが、助けることが、医者の本分なのだから。
そう本分なのだよ、医者のね。
今君たちがどうやって死んでいくのか観察を続けていれば、この後の世代で治療できるきっかけになる。
大丈夫だ。大丈夫だ。
注射をしよう。この薬剤をもう少し足そう。
ああ。ああ。また、死んでしまった。
けれど大丈夫。怪我人はまだいる。
私は医者だ。医者の使命を全うしようじゃないか。
いや、そうじゃない。
ああ、私は医者なのに、どうして人を殺しているのだろう。




