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火の花

 ひゅーひゅーと絶え間なく花火が落ちる音が聞こえてきた。

 深夜、寝静まったばかりだというのに、迷惑な話だ。寝呆ける余裕もなく覚醒した。

 服のまま、靴も履いて寝ていたので支度は早い。

 隣で寝ていた、疲れ切った顔をした母を起こし、枕元に用意していた鞄をたすき掛けにした。

 かん。ごん。ごと。ばりばりばり。

 花火が絶え間なく降り注ぐ。

 母の手を引き花火の中を走った。

 花火が当たらない事を祈り、燃えている人から逃げた。

 熱い。息苦しいほどの熱さ。

 防火水槽に入りきれない人が集まり、死体になっていく。

 ひゅーひゅーぅるるるる。

 止むことない花火の音に母が泣き言を言う。


「死ぬなら家でしにたい。」


「馬鹿を言わないで。母さんがいなくなったら、父さんはどこに帰ればよくなるの。」


 走って走って足を止めないで。


「川まで走ってお願いよ。川向こうの高台まで走るのよ。あすこまで行けば火だって追ってはこれないわ。」


 あっちこっちで家が燃えて木が燃えて人が燃えて、あっちこっちが熱くなる。

 熱い熱い熱くて痛い。ひりひりぴりぴり皮膚が痛む。

 足が遅れだした母の手首をつかみ、必死で引いて走り続ける。

 まだ無事なものも、燃えている人も、焼けただれた人も、一様に川へと向かう。

 熱い熱い。水がほしい。

 うめき声も、悲鳴も、酷すぎて、何が何だかわからない。

 焦げた小さな塊を抱いて泣いている女を見ても、憐れむ余裕もない。

 夜なのに、こんなに明るいなんてどうしてかしら? 不思議だわと、麻痺した頭が考える。

 やっと川へと近づく。死体ばかりが目に入った。死体ばかりで走りにくい。

 川へとたどり着く。折り重なった死体のせいで水があるのか分からなくなっていた。

 私だって熱くて熱くて水が欲しいのに。死体でうまった川の水しかないなんて酷い話ねと、凍った思考で考えた。

 死体を越えて、川向こうへと逃げる。

 母は地面に座り込んだ。

 明るくて暗い夜空を見上げる。

 空から絶え間なく降る花火はとても綺麗だった。見惚れていれば死ぬ花火。

 生まれ育った町は、赤や橙色に染まって揺れている。

 水を求めて後から後から川へと人が入って行く。

 

 花火が終わり、夜が明ければ待っているのは、なんにもなくなった町と、煤けた塊と、川にあふれた死体だけ。



 

 

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