蝉時雨
「はやく…はやく…」
もたつく足を引きずる。
痛みなど些細なもの。
早くしなければ。
「私は…違う…ちがう…ちがぅのにぃ…」
私じゃない。
「私じゃない…違、う!…」
私じゃない。
「私は私じゃない!」
「私は私あたし)じゃない!!」
違う
違うのに
どうしてこんなにも記憶が
私と真斗には何もない
でも、
私と真斗は
その手を包んだのは良く知ってる温もり。
「真斗」
「朱音!?」
振り返ると探し回ってた本人が居た。
「久しぶり」
「お前…手は大丈夫なのか?」
俺の質問に朱音は首を傾げた。
「ね、今度の花火一緒に観に行こうよ。」
「そんな事より「ね?」
何か違和感を感じた。
「…ああ。」
「ふふ、約束だよ。」
何気なく指切りを交わす。
「その花火の日っていつ?」
「来週!迎えに行くよ。」
「分かった、待ってる。」
満足そうに笑う朱音。
その屈託のない笑顔が全てを夢だと思わせる。
「またね!」
立ち去る朱音をただ呆然と見ていた。
昔と変わらない朱音。
それなのに、どうして胸が苦しい。
次の日から俺は朱音を探すのをやめた。
朱音と会った事は先輩には言わなかった。
自分の中で矛盾に押し潰されそうだった。
俺に出来るのはただ待つだけ。
あの笑顔をもう一度見れるのなら全てどうでもよくなった。
だから、例え朱音に何かが起こってたとして、それでもまだ笑えるのならそれで十分だ。
そう言い聞かせた。
「まーさとっ!」
後ろから肩を叩かれた。
「お待たせ、ごめんね?」
両手を合わせて上目遣いであざとく謝る朱音。
「気にすんな。」
手を差し出した。
「もー、違うでしょ!」
朱音はその手を勢いよく取ったがふくれっ面をしてた。
「はいはい、似合ってるよ。」
「こっち見て言ってよ。」
「嫌だ、恥ずかしい。」
「私だって勇気出してるんだよ。」
朱音が強く手を握った。
「知ってる。」
握り返す。
「綺麗だよ、朱音。」
朱音の瞳が潤む。
「…うん…ありがと…」
いつもとは逆の立ち位置で花火の見える場所まで行く。
特に話す事もなく、ただ歩いた。
「ここ。」
「こんな所か。」
「うん。」
「そうか。」
森を抜けた先の人が居ない小さな神社。
灯りはなく、ただ月の光だけが注ぐ。
石段に座って花火を待つ。
「なあ」
「何?」
「いつになったら始まるんだ?」
「何が?」
「…いや、何でもない」
「そう?ほら、見てよあそこ」
「?」
「ほら!今のは大きかったね!」
「?」
「もー、じゃああっちのは?」
「…」
「ね?」
「そうだな。」
「私とどっちが綺麗?」
「朱音。」
「やったー!」
「朱音!」
「…」
「…」
「ごめんね。」
「…」
「最後に真斗と花火が見たかったな〜。」
「!?」
「そう思っただけ。
だから、さようなら。」
「待てよ!」
「離して」
「言っただろ!」
「離して!」
「嫌だ!!」
「っ!!」
前とは違う。
腕をちぎる為の腕がない。
「なら!俺の腕も持ってけよ!」
だから朱音を引き寄せ抱きしめた。
耳元で歯がぶつかる音がした。
「うぅ…」
「もう やめろよ!!
俺は何も知らなくていいから!
そばに居たいだけなんだよ…!」
「まさと…」
朱音につられ、2人泣きじゃくった後、
朱音の腕を隠した場所に俺の腕も埋めた。
間が空きましたが、その分SAN値も十分低下してるので更新がんばります
暑い




