藥
「ほら。」
封筒に中身を取り出し見せつける。
朝子が食い入る様に見つめる。
「妹がくれたんだよ、私には必要無いのにね。
だからあげるよ、私の言うことをちゃんと聞いてくれるなら。」
この子を確実な手駒にする。
差し出した注射器を恐る恐る手にする朝子。
「使ってみればいい、本物だから。」
蓋を外し、いつもの位置に構える。
手が震える。
自分で自分に打つのは初めてだし、未だ本物という確証もない。
それでも生きる為に打つ。
醜さを勇気に隠して打ち込む。
来た
いつもの感覚だ
満たされる
凄く、スゴくシアワセなカンカク
このカンカクが味わえるのは生きているからだ
私は死にたくない
生きてまたこのカンカクを
ほしい
「ふふ、どう?
本物でしょ?」
「…ぅん、本物だよ…ホンモノ…
だって…こんなに…」
顔を歪めて笑う。
「あたたかい」
「ふ…そりゃあ、 良かったね…。」
それは
私にはもう味わう事の出来ない感覚だろう。
私には満たせないもの。
「それで、私は何をすればいいんですか?」
「簡単だよ、何もしなくていい。」
「え?」
「私の邪魔をしなければいい。味方しなくていいから、ただそこで起こる事に無関心でいればいい。」
「それでいいんですか?」
「ええ、それがいい。誰にとっても。
私に恩を返すなら何もしなくていい。
私に恩を返すのなら何もしてはいけない。
分かった?」
「はい。」
「それで、夏七子ちゃんもいい?」
「…」
「じゃあ、お願い。
お願いだから邪魔しないで?」
「…」
「ふふ」
返事のない返事。
それでもいい。
もう少しだ。
もう少しで私は、もう一度
あ_
「!?」
身の毛がよだつ。
「嘘だ!なんでこんなに早い!?」
「どうしたんですか?」
残念ながらまだ、時間がかかる様だ。
でも、後少し。
もう一押しあれば、私は私になれる。
「時間切れみたいだ。私の言った事、ちゃんと守ってね。バイバイ。」
そのまま目を閉じバッタリと倒れる。
何が起こったのか分からずに焦っている私に、夏七子ちゃんが言った。
「運ぼう。次目覚めた時は綺音ちゃんだよ。」
「え?」
「二重人格なんかじゃない、この体には二つの魂が宿ってる。」
「え?」
夏七子ちゃんが言ってる事が何一つ理解出来ない。
「そんなにしてまで生きたいなんて思えるのかな。」
「…分からないよ。ただ私は死にたくない。」
「うん、そうだね。」




