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第8話 魔法について

 ルディアに言われた通りにあの洞窟に戻ってきたが……見たところ、トリステスさんの姿はない。洞窟の中だろうか……?


「まぁ」

「わっ!?」


 背後から、トリステスさんの声がした。


「戻ってきたのですね……! えっと……アヴラージュさん……! 私、少し心配で……」

「は、はい……大丈夫ですよ? そちらこそ、何かありましたか?」

「いえ、何も。追手のようなものはありませんでしたわ」


 そっと胸を撫で下ろす俺。

 トリステスさんに被害はないようで良かった。


 とりあえずは、この事件? も一段落、かな。これからこの世界で、どう生きようか……。

 まだまだ、問題は山積みである。


「……あの」

「なんです?」

「もしかして、行く宛がないのでは……?」


 どうして今更……とも思ってしまったが……そうか、そういえばトリステスさんも……。


「集落の家屋は……少し残っているのでしょうけど、生活の土壌があまりにもなさ過ぎます。もはや、あの場所に住まうのは不可能……。私も行く宛がないのですが……そういえば洞窟に住んでいるあなたも同じなのでは?」


 そう聞かれても、どう答えればいいかわからない。

 ぶっちゃけてしまうと、俺は今のままでもいい気がする。十分に生活は出来るし、特段そういうものに困っているわけでもない。

 ただ──この世界を知ろうとするならば、このままの生活を続けるのはマズイかもしれない。情報を制する者が戦いを制するとも言うし……情報というのはやはり重要。 


「……そう、ですけど。とは言っても、具体的にどうするんですか?」

「聞いた事があります。この森を北に真っ直ぐ進めば、一つの大国があるのです。名前は確か──」


 ──アグニル王国。この世界に五つある大国の内、その一つ。トリステスさんによれば、火を使う職業……鍛冶や陶芸、珍しいところでは硝子(ガラス)細工等、大国の中では遅れども順調に発展を続けている国だとか。


「そこに行けば、役職ぐらい見つかります。私は……前から、冒険者、なんていう職業に憧れているのですがね」


 冒険者……! やっぱりそういうのもあるのか、異世界!

 でも、どうしてだろう?


「冒険者というのは、世界に数多ある職業の中でも、より普遍的で誰でもなれるものなのです。特に資格も必要なく、登録さえすれば誰でも。なので、住所や戸籍のない人間が必ず辿り着く職業でもあるのでして……。つまり、戸籍のない私でもなれますから」


 そういう事か。

 ちなみに、そういう冒険者の活動の支援等を司る組織を〝ギルド〟と呼称するそう。

 しかし、やはり問題もあった。


「でも、今から向かうのは無茶ですよね。もうそろそろ、暗くなる。戦えるとはいえ、夜道は危険ですから」

「それもそうですわね。そうなりますと……」

洞窟(ここ)で一晩休みましょう。俺も疲れましたし。出発は明日の朝……ですね」

「いいのですか?」

「はい、洞窟は広いので」


 別に、問題もないだろう。

 そう思って俺は、トリステスさんを洞窟内に招き入れた。


 ──美しい暁空(あけぞら)が、深い深い夜の闇に染まっていた。


「っ」

「うん? どうしたんです?」


 急に洞窟の外を見たトリステスさん。一体、どうしたんだろう?


「い、いえ……何も……」

「そんなわけはないでしょ。何がどうしたんです?」

「本当に大丈夫ですから……」


 何か不安げだったが、そのまま俺は特に触れる事なく夜を迎えたのだった。



   ◇◇◇



 ──明くる日の朝。

 焼いた魔物肉を朝食として済ませ、俺達は洞窟の外に出てきた。魔物肉に関しては……トリステスさんは最初こそ嫌がっていたものの、すぐに「生き残るためには……!」と、魔物肉を食べ始めた。なんというか……意外とガッツのある人なのかも。

 そうこうしている内に、出発である。


「向かう先はアグニル王国でいいんだね?」

「ああ。そこしかないっぽいしな、この近くには」

「この森を進む必要がありますが……北に行けば大丈夫でしょう」


 この人、結構脳筋気質あるな?

 この森って結構入り組んでいるのに、北に行けば大丈夫って……。まあ、間違いはないんだけどね? どうも脳筋の気配を感じるというかさあ……。

 ちょっと力業過ぎないかな? 別にいいんだけどね。


「ですね。それじゃあ、向かいましょうか。ルディア」

「はいはい」


 嫌そうに返事をしたルディアが、光となって俺の内部に入り込む。ルディアは俺よりも遥かに強いと思われるので、切り札にしておきたい。万が一にも、俺じゃ勝てないような相手に遭遇した場合のためだ。


「それって、どうなっているんです……?」

「まあまあ、細かい事は気にしなさんな」


 細かい事じゃないんですけど──というトリステスさんのツッコミが聞こえた気がしたが、今は無視である。ゴメンね。



 そんな会話を繰り広げながらも、俺達は森を進んでいた。基本は歩きなのでかなり移動速度は遅いが、まあ問題はなかろう。

 魔物肉の調理方法も習得(マスター)しているし、量も十分にある。食糧には困らないのだ。

 休息のタイミングで、ルディアに魔法を教えてもらったりしている。

〝魔法〟と言っても、様々な種類があるらしい。基本的には元素・精霊・召喚・神聖の四種類らしいが、この中の〝元素魔法〟が厄介らしい。ここから更に多くの魔法体系に分岐するらしいのだ。

 しかし、一番習得が簡単なのも元素魔法だそうで──


「難易度や属性相性なんかもあるから、ゆっくりやっていこうね。どうせ辿り着くのには数日かかるから、基礎くらいは教えられるだろうし」

「はい」


 ルディアの言葉に頷くトリステスさん。そうして、ルディアによる魔法講義が始まった。


「とりあえずは……基本の〝火〟属性から始めたいんだけれど……アヴ、ちょっといいかな?」


〝アヴ〟というのは、俺の愛称である。アヴ(・・)ラージュのアヴ(・・)

 それはそれとして、一体どうしたのだろうか?


「キミはさ……先に精霊魔法を覚えてほしくって」

「はあ? だってそれ、精霊と契約? しなきゃ使えないんだろ?」


 そうなのだ。精霊魔法とは本来、精霊と契約した人間が、その精霊の力の一部を借り受けて行使するものなのである。

 つまり、簡単に言えば資格のようなものが必要なわけで……。もちろん、俺にそんなものはないので、使えるはずがないのだ。


「そうだね。けど、キミは例外だよ」

「例外?」

「言ったはずだ。キミの種族は自然を統べる竜(エレメンタルドラゴン)、それに進化したのはなぜだと思う?」

「え? うーん……?」

「キミの食生活だよ。キミは、何を食べていたっけ?」


 えっと……精霊だっけ? ──って、あ!


「……精霊を食べていたから」

「そうだね。キミが進化した時、食べていた精霊達も皆、力に変換された。つまりどういう事か、もうわかるよね?」


 多分、今の俺は精霊の力が使えるのだと思う。契約とかではなく、立ち位置としては俺自身が精霊になったような感じ。

 つまるところ……無条件で使えるようだった。


「精霊の炎を扱えるはずだ。念じてご覧」

「はあ? ……むむむ……」


 それっぽく唸りつつ、「燃えろ」と念じてみた。

 すると──


「おわ、燃えた」


 眼前に、火の玉が浮かび上がる。

 これが、精霊の炎……。


「今はまだ威力が弱いね。ただ、すぐに威力は上がっていくハズだ。何度か繰り返せばね。地獄の業火にすらなるはず……。〝魔法〟として名付けるとすれば〝獄炎霊熱覇(インフェルノフレイム)〟かな?」


 それから、水、風、土……特別枠で氷属性も試してみた。

 精霊魔法:獄炎霊熱覇(インフェルノフレイム)大時化(テュームルト)凍結冷気流(フリジッドストリーム)翠風韋駄天(ブレードゲイル)大地震撃(アースクエイク)。最終的に完成したのが、この五つ。

 完全自作の、独自魔法(オリジナル)である。


「……オリジナル、ですか」

「はい。そうらしいです」

「凄まじい……自分だけの魔法を作ってしまうだなんて……」

「俺自身が精霊みたいなもんらしいんで、それぞれの能力に名前がついただけ……かも?」

「そうだとしても凄いですよ。こんな現場を見る事が出来るなんて……」


 何に感激しているんだか……。

 ルディアによると、精霊魔法っていうのは殆どがオリジナルだそうじゃないか。精霊によって出来る事も微妙に違うそうなので、当たり前と言えばそうなのだが。

 感激する要素がどこにあるのやら。


「ま、アヴに関してはそれで終わり……。これからは、元素魔法の講義をしていくよ」

「よ、宜しくお願いします……!」


「まず基礎として、元素魔法とは最も普遍的な魔法体系だ。物理法則の書き換えを主体としていて、効果によって精霊魔法と同じく〝属性〟というものがある。それで──」


 それから、ルディアは魔法の構造から属性に関する事、人間が定めた魔法の種類や、その数含め、様々な事を講義してくれた。


 ──そうして、数日に分けて魔法講義が行われる事となるのだった。

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