第7話 弔い合戦、暁空の下で-後編
最近、PV数がグングン伸びていて嬉しい限りです。読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。
ルディアがトリステスを抱いて向かっているのは、リュウガ……いや、アヴラージュとフィエットが住んでいた洞窟。
(アレが追ってくる様子はない……。何が起こったんだろう? あの人形達は……彼に食われた?)
ルディアは急ぐ。
「アヴラージュ……」
「……心配です。たった一人で……」
「信じるしかないさ。彼自身が大丈夫って言っているんだから……」
ルディアには、そうする事しか出来ないのだ。
◆◆◆
「チッ、早く死んでください!!」
「死んでたまるかよ、そう簡単に!!」
だいぶ……避けるのが難しくなってきた。
あの黒いグチョグチョも本数が増えたし……。
その黒いのは、地面に当たると地面を蝕むように溶解させている。かなりヤバそうだった。
「クソッタレ、どうして当たらない!! ……こうなれば……」
また何かを企んでいる!?
そうはさせないぞ、絶対に!
「させるか──」
「無駄ですよ! 再・恐怖の人形劇!!」
大きく広がった黒いモノから、何人もの人間が解き放たれた。
否、もう人ではない。瞳に生気はなく、多分あの青年のいう事を聞くだけの文字通りの〝人形〟にされているのかもしれない。いや、そうなのだろう。
そうじゃなかったら、もうとっくに悲鳴を上げている。が、人間達は俺に向かってくるだけで、何も言わない。悲鳴も、困惑も、驚愕も。
意思も心も、殺されている。
その時プツンと音を立てて、なぜか、俺の何かが切れた。
「ハハハハハッ──ぐっ!?」
俺の手が、青年の口を掴む。どうしたのだろうか、青年は攻撃をしてこない。
「お前、どこまで……どこまで人間を虚仮にすりゃ気が済むんだ……」
コイツは人間なのか? というか、生物なのだろうか。
正常な心があるとは思えない。
「なっ、何を……っ」
体が熱い。
本当に怒った時って、こんな感じになるのか。
長い後ろ髪がチリチリと音を立てているのが聞こえた。なぜだろうか?
まぁ、今はどうでもいい。
「くっ……離せ! どうして攻撃が届かない!! 私の攻撃が、なぜ!!」
青年が激昂して叫ぶ。
「クソ……戻れ、人形共!!」
液状化した人形達が、青年のところに戻ってくる。同じく液状化した青年の肉体に舞い戻っていく。やはりもう、人ではなかった。
体が灼けるように熱い。というか、草木が燃えている。どうしてだろう……? 魔法……が、使われた気はしない。人形はついさっき戻っていったし、この青年も怪しい動きはしていない。
先程の、俺の長い後ろ髪がチリチリと音を立てていた事と関係あるのか? そう思って触れてみると、後ろ髪がなくなっていた。視界に入ってくる髪の色は、あの美しい純白ではなく、燃えるような紅蓮の色。
「……なんだ、その姿は……? 先程までと……違っ──」
青年がそこまで言った時、ようやっと意識が現実に戻ってきた。特に理由はないが、青年の顔を殴っておく。
「うぐっ……キサマ、覚えていろよ? 私は……」
「早く目的と〝我が主様〟ってのが誰なのか吐けよ」
「言うものですか。なぜ私の攻撃が効かないのかは知りませんが……そちらこそどうして、私の邪魔をするのです?」
「お前が気に入らないからだよ。集落の人達を傀儡に変えただろ? 挙げ句、フィエットも殺しやがって……」
そこまで言ったところで、青年が目を見開く。
「……あなた、どうしてその名前を? どこで知った?」
「覚えてるはずもねーか。随分と姿が変わったもんな。俺ぁあん時の小さな竜だよ!!」
かなりの衝撃を受けたのか、青年が一瞬固まった。
……が、すぐに口角が歪んだ。
「まさか……まさかだ。あの時殺した筈の……アレが、生きているなんて……」
「キッチリ……報いは受けてもらう。娘を失った、トリステスさんの分も……」
燃えるような怒りが湧いてくる。いや、本当に……燃えている。熱くはないが……体も、手も、髪も、体中の何もかもが燃えている。
俺の怒りに呼応して──燃えている。
燃えているその手で、青年の顔を掴む。
「お前が操って、虚仮にした人々の分も……いいやそれ以上に、何より、殺されたフィエットの分だ」
半液状化している青年の顔が熔ける。
「その報いは、命で──」
「むぐっ、んぐゥゥゥゥゥゥッ!!」
青年の、声にならない絶叫が漏れた。
そして瞬く間の時が経ち──
「死ね」
俺の体を起点に、炎が爆ぜる。その炎は、集落一帯を包みこんだ。
◇◇◇
熱い。
幾らなんでも、熱すぎる。
「……アヴラージュ?」
背後から、ルディアの声がした。
「……きちっと殺したぞ。黒焦げだ。もう、息もない」
それだけ言って、俺は青年の亡骸を投げ捨てた。
「……これ、キミがやったのかい?」
どれだ? ──と聞こうとして、急いで周りを見渡した。
一面、火の海。所々に集落の面影を感じるが、もう原型を留めていない。
知らん間に山火事でもあったのか──なんて、冗談を言う隙もない。自分がやった事だった。
「……ああ。どうしてかはわからない。けど、俺の体が、燃えた。燃やした」
ルディアは何も言わない。
ただ、黙っている。
「これで、全部終わりだ。弔いも、戦いも。集団火葬って言い方悪ぃかもだけど……供養も、出来たさ」
「……変わったね、キミ……」
「変わるしかないさ。この世界に生まれたなら」
何かを失う危険が絶えない、そんな世界。
結局、あの青年は何だったんだろうか? 結局は、何もわからないまま。ただ、怒りに任せて殺しただけ。
「……あの洞窟に戻ろう。トリステスさんが待っている」
「わかった」
「翼は出せるかい?」
「翼? あ、竜の? わ、わかんね……」
「背中の……肩甲骨辺りに力を入れてごらん。多分出てくるよ」
け、肩甲骨?
力を入れるって──
疑問に思いつつも言われた通りにすると、ズルンという感じに翼が飛び出した。
「いっ──たくない……?」
「当たり前さ。収納されていた身体器官を出すだけだよ?」
それもそうか──と、謎の納得をしてしまう。
見てみると、翼についた鱗はくすんだ白色。ルディアの髪のような、灰色とは、少し違う。
腕や脚と同じように、しっかりと動かせる。神経もあるようで、動かす感覚もちゃんとあるのだ。身体器官なので、当たり前と言えばそうなのだが。
空はすっかり暁空に変わっていた。
あんなに晴れていたのに、もう夕暮れ。なぜか、時の流れが早い。
「……なぁ、ルディア」
「なんだい?」
空の上で、ルディアに質問する。
「……俺は、何なんだ。人間なのか、竜なのか」
「どちらもだろう。人間の心と、竜の体。両方だ」
「じゃあ、お前は何だ」
「……この翼を見ればわかるだろう? ボクも、竜だ。ボクもキミも、同類なんだよ。概念因子をその身に宿す、特殊な竜……言うなれば〝概念竜〟だ」
衝撃の事実である。
俺が、そんな、大層な存在とは……。
「キミが宿す概念因子は、『自然』だね。火、水、土、風……四つの自然系属性を操れるらしい。能力発動は、念じれば出来ると思うよ」
「……そうか。……ところで、お前は何の概念を?」
「え? つまらない事聞くね……。いいだろう、教えてあげる。ボクが司る概念は『原初』……『創造』とも言える。キミが〝自然を統べる竜〟だとすれば、ボクは〝原初の竜〟かな」
……なんだかヤバそうだ。司る……つまり俺の場合は、自由に炎が出せたり風を吹かせたり出来るわけだが……それに当てはめるとルディアは、自由に万物を『創造』出来る事になってしまう。
本当にヤバそう。しかしどうして、そんな力がありながら、今回は戦わなかったんだ?
「ボクは未だ、回復中なんだ。今も結構、無理をしていてね。まだ、十全に戦えるほどじゃあないんだよ」
──だそうだ。
そういえば、俺の中で回復中なのを忘れていた。出てきていたのでとっくに回復は終わっているとばかり思っていたのだが……。
「悪いけれど、またキミの中で休ませてもらってもいいかな? 現世に顕現するだけでも、結構な力を使ってしまってね……」
「好きにしてくれ」
多分、コイツの力は、俺がこの世界を生き残るのに必要不可欠だ。力を借りなきゃいけないなら、今は休んでもらわないと困る。
「協力して生き残ろう。頼りにしているよ、アヴラージュ。それと……少しは肩の力を抜きなよ。キミはそんな、色々企む性格ではないだろう? 非情に徹しようとしているのかは知らないけれど、そういう事は、キミ自身のためにもするべきじゃない」
……確かに、ちょっと格好つけていた。ちょっと、じゃないな。かなり……。
「……敵わないな。ごめんよ」
「いいっていいって。キミの事は、ボクが守る。そんな無理をしなくたっていいんだよ。巻き込んでしまったのは、ボクだしね。それじゃあ早く、トリステスさんのところに向かおう」
そう言うと、ルディアが消えた。いや、俺の中に戻ったのだろう。
トリステスさんが待っているとの事だし、早く向かうとしようか。
そう思った俺は、竜の翼を羽撃かせた。
◆◆◆
──火の海に包まれた集落より少し離れた、例の祭壇にて。
黒焦げの何かが、地を這っていた。
「……………………クッ、ククッ、爪が甘いんですよ、まったく…………クククッ」
誰あろう、フェルシュである。
「オルール様……今、私が……」
そこまで言った時、フェルシュは何かを感じた。
祭壇の最奥までの距離は、僅か数メートル。
フェルシュが感じたのは、背筋に悪寒が走るような、ゾワッとする感覚。
これは、恐ろしくも懐かしいもので──
「ハハ…………ハハハハ………………そうですか…………そうなのですね……? もう、とっくに………………。ハハハッ、ハハハハハハッ!! 良かった……本当に、良かった。これで貴方様の……いや……私の悲願は──」
それを言い終わる事はなく、フェルシュは息絶えた。
美しい暁空が、深い深い夜の闇に染まっていた。
直後、祭壇から邪悪なオーラが立ち昇る。
──ここから、恐怖の邪神が復活してしまう事になるのは、まだ、先のお話──




