第9話 冒険者登録
さて、俺達が〝精霊洞窟〟を出発して約一ヶ月が経った。
森の中を歩いて隣国まで……というのは、かなりの無茶だったようだ。思っていたよりも、時間がかかってしまった。
途中で何度か魔物に遭遇したり、同じように山賊に遭遇したり……。様々なトラブルはあったが、ようやく──
「到着しましたね、アグニル王国」
俺達は、アグニル王国に到着した。
◇◇◇
大門での検問を抜けた俺達は、アグニル王国の首都〝アーグ〟に到着する。
かなり発展した街だが、その具合は中世ヨーロッパぐらいか……? まあ、現代ほどの超発展は遂げていなそうである。
その理由としては、魔法の存在だろうか。
携帯電話等の電子機器を笑い飛ばせるぐらいには、この世界の魔法は便利だ。レンジなんかは火属性の魔法で代用可能、それこそ携帯電話だって、そもそも『思念通話』という魔法があるのでモノすら必要ない。
なので、アチラの世界に科学力では劣っている。
戦闘力、軍事力で言えば別だ。各国に魔法部隊とかもいそうなので、アチラの世界以上だと思われる。
まあ、そんな話はいいとして、だ。
「それで、これからどうするんです?」
これが気になった。
アグニル王国の首都〝アーグ〟に来た俺達だが、先ずここで何をするのか。
「そうですわね……とりあえず、冒険者ギルドに行きませんか? 日銭稼ぎになりますよ」
日銭稼ぎって……。
まあ、確かにな。まずは金か。
「ですね」
「ボクも異論ないよ」
ルディアも異論はないそうなので、決まりだ。
善は急げとも言うし、俺達はこの街の冒険者ギルドに向かうのだった。
結構古い建物だな……いや、古いというか、なんというか……雰囲気がある、って感じかな?
早速扉を開けて、中に入る。
中はかなり広い。ゲームのように、依頼が書き込まれた張り紙が貼ってある掲示板のようなものもある。
ってか、本当にゲームの世界みたいだ。
「いらっしゃいませー!」
快活な声がその場に響き渡った。
このギルドの受付嬢さんだ。
碧眼と金髪が美しい、美少女という感じの女性。受付嬢さんが声を出すと、その場にいた人々の視線がなんとなく向こうに向かったので、なんというかアイドル的立ち位置なのかもしれない。
「どうも。冒険者登録をしたいのですけれど……」
「了解しました! 準備を致しますので、少々お待ちください」
この場はトリステスさんに任せよう。
ルディアはともかく、俺はこの世界の事、まだ何も知らないしな。冒険者の事なんて以ての外だ。
数分して、受付嬢さんが帰ってきた。
「お待たせしましたーっ! 三名様ですね。冒険者登録は、この私、冒険者ギルド〝アーグ〟支部の受付嬢〝アデル〟がお承りしまーす!」
アデルさんが渡してくれたのは、個人情報を書き込む……よくある紙。と──
「水晶球?」
そう、水晶球なのだ。
やはり、何らかの魔法道具だろうか?
「よくある魔法道具ですよ。触れると、その者の解析をしてくれる、冒険者ギルドの必須級設備です」
ほーん、マジでゲームだな。
だとすると……小説なんかでよくあるのは、これに触れて、とんでもない魔力密度でコレがぶっ壊れて、色々と騒動になる……こんな感じの展開だろうか。
いやまあ、憧れるよ? 憧れるけどさ、なんかめんどくさそうじゃん。
確かにチヤホヤされるのはいいかもしれないけど……話題になると面倒だし、何より、強力な力の前には更に強力な力が現れる。なので、ひけらかすべきではないのだ。
競い合うなんて以ての外。それは、血を吐きながら続ける悲しいマラソンにしかならないのだから。
ここは……外に出す魔力を限界まで薄めて……ミジンコレベルに……。
脳の力を抜いてふにゃふにゃになりながら、俺は水晶球に触れた。
結果は──
「おおっ!? すっ、すっごい記録です! ここまで高い記録は前代未聞ですよっ!!」
ゲームのステータス画面のように、五角形状のグラフのようなものが空中に出現する。
膂力:B、敏捷:A、体力:A、巧緻:Dそして──
魔力:S。
なんでだ? ミジンコレベルに魔力を抑えたのに。
ま、それは置いておくとして。色々と分析してみようか。
まず、膂力。これは筋力と同じ意味だろう。B……まずまずってところか。
次に敏捷。これは走力だな。Aか。……反応しづらい。体力もAだった。
巧緻。難しい言い方をしているが、器用さらしいな。Dだってさ。
言い忘れていたが、この分析表の数値には全部で六段階あるそうだ。下から順にE→D→C→B→A→S。この〝S〟より上の場合は全てS+表記である。
これらの数値を元に、同じようなE〜S級の等級が冒険者に割り振られる。
そういえば、ルディアは?
ルディアのグラフは──膂力:S+、敏捷:S+、体力:S+、巧緻:S+、魔力:S+。
馬鹿ぁーーーっ!? 何やってんだお前ぇーーーーーっ!? ──と、俺は叫びそうになった。
いや、だって、そうだろう?
俺は頑張って抑えたというのに、ルディアめ、コイツ……。
「うん? どうしたんだい?」
「い、いや、何も……」
てか何だよコイツ! 俺は魔力は抑えたが、それ以外は厳正な解析の元の結果のはずだ。それで、あの結果である。
なのにコイツ、なんてこったよ!? 全部〝S+〟判定じゃねーか!?
アデルさんもトリステスさんも硬直している。余裕でツッコめそうな俺がオカシイのかもしれない……。
この場にいて、まだ依頼を受諾していない冒険者達もコチラを覗き込んでいたが、みんな目を丸くしていた。当たり前である。
……一旦思考停止を回避するために、遅いかもしれないが〝魔力〟の概念について説明しておこう。
まず、魔力とは〝魔子〟という特殊な粒子物質を操る力を指す。
魔子とは、空気中に存在するエネルギー性の特殊粒子物質。粒子とは言っているが、光や音のような〝波〟の性質も併せ持つ、言うなれば〝量子〟のようなものだ。だからこそ、〝魔法量子〟を縮めて〝魔子〟と読んでいるのである。
既存の物理法則に干渉する効果を持ち、魔法とはこれを操作する事によって発動するもの。
魔力は体力と同じく、〝使う〟要素だ。魔子を操作する事で、体力でいう〝カロリー〟を消費する。その最大量及び絶対値が魔力量になるわけだな。
「………………ハッ。あっ、ああ、測定が終了しましたら、こちらに諸々の個人情報を書き込んでくださいね。使った水晶球は回収致しまーす……」
アデルさんが脳の機能を取り戻したようで、そそくさと去っていった。
ルディアの測定結果に引き気味だったな……。そりゃ、俺だって引くさ。
ホント、底の知れない奴だよ。
というか、この世界の水晶球は便利なんだな。そういう漫画や小説だと、大体は大きすぎる魔力量には耐えきれずに砕け散るものなのに。
ま、いいや。書類作成を進めよう。
名前……は、そのまま〝アヴラージュ〟でいいかな。
あれ、出身地?
「なあ、ルディア」
「うん? まさか、キミも出身地の欄に苦戦しているの?」
「そうなんだよ。どうすりゃいいかな……?」
「だねぇ。洞窟で生まれた、っていうのも、言いづらいよね」
「ああ」
どうしようかと悩みに悩んでいた時、戻ってきていたアデルさんから助け舟が出された。
「住所不定の場合は空欄でいいんですよ。私も空欄にしましたし」
そうなんだ。
聞くと、冒険者には住所不定……つまるところ元犯罪者や諸事情で住所を持たない者もいるのだとか。なので、住所不定なんて溢れるほどいるらしい。
「なので、大した問題にはならないんです」
「へえー」
ちょっとスッキリ。
なので、本当に必要最低限の欄以外は空欄でも構わないのだとか。
では進めよう。
◇◇◇
大方の情報を書き終えて、全員が書類を提出した。
「何度もお待たせしてすみませんね。これから、情報を元に〝冒険免許証〟を発行しますから、また少々お待ちくださーい!」
そう言って、またバックヤードに戻っていった。
「ふぅ、なんとか終わりそうで良かった」
「だね」
「てかルディア、なんなんだよあの数値」
「え? 知らないよ。勝手に出た数値だろう?」
「そうだけどさ……」
そうじゃないんだよね。
なんというかさあ……コイツは自ら〝血を吐きながら続ける悲しいマラソン〟をしようとしているのかな?
まあ俺には知ったこっちゃないんだけどね?
そんな事を言っている内に、アデルさんが帰ってきた。
「はい、アヴラージュさんとトリステスさん、それとルディアさんですね」
そう言って渡された、一枚のカード。
なんだこれ? プラスチック製にも見えるけど……違う……。
そこには、左側にあの五角形状のパラメーターと、その下に冒険者ランク。俺のランクはAだった。
ルディアはS+。トリステスさんはB。超高水準編成になりそう。
右側には、最低限の各種個人情報。名前と住所、あとは依頼の達成数だ。まだ0だが、これから増やしていけばいい。
これが俺の、冒険者としての冒険免許証……。車より先に冒険者の免許証を取ってしまうとはね。人生、何が起こるかわからないものである。
そんな事もあって、俺達三人の冒険者登録が完了したのだった。
結構読みにくくなってしまったかもしれません。すみません。




