第8話 ひと悶着
──明けて、翌朝。
魔物の毛皮で作った寝袋を、魔法で作り出した『格納空間』に収納する。
この『格納空間』、メチャクチャ便利なのだ。格納魔法という、空間系魔法の改良版であるちょっと難儀な魔法を覚える必要はあるが、覚えたが最後、生活が一変する。
流石に容量の限界はあるものの、その範疇内であれば、どんなものでも格納出来る。物質だけではなく、エネルギーの格納も可能なようだった。
「人間の魔法も捨てたもんじゃないよね」
「ホントだよ」
この世界の人類は、本当に優秀なようだ。
そんな事もありながら、今日も今日とて森を進む。方角に関してはルディアが完璧にサポートしてくれているので、何ら問題なかった。
いやはや、ルディア……。とても便利──
「……」
コホン、頼もしいよね。
何も失礼な事など考えていませんよ──という顔を維持しながら、そんな事を考える。
事実、ルディアのサポートには大助かりなのだ。本当に、頭が上がらない。
『そういえば、ルディア』
『うん? なんだい? 魔法について、わからない事でも?』
『いや、違うんだけどさ』
気になる事があるのだ。
あの村での出来事──一瞬、俺の姿が変わった事。
不思議な感覚だった。少し前まで美しい純白の長髪だったのが、燃え滾る炎のような短髪へと変わったのだから。
それについて、聞いておこうと思ったのである。
『難しいね』
『お前でもわかんないか?』
『いいや、そんな事はない。多分、力──要素の集中じゃないかな』
『要素の集中?』
うーん、難しいな。
沢山ある要素の内、一つに絞ってその要素の力を最大限発揮するように作用させる事……って感じか?
『当たらずとも遠からず、だね。キミはさ、自然を統べる竜だろ?』
『らしいな』
『キミが司る〝要素〟は、自然の属性──つまり、〝火・水(氷)・風・土〟の四つ。あの姿はきっと、その中でも〝火〟──〝炎〟に特化した姿なんだろうと思うよ』
フーン、そういうわけか。
つまり、俺のそういった姿違いは属性分あると思って良さそうだな。練習次第では、〝氷〟や〝風〟を司る姿にもなれそうである。
『そうだね。今回選ばれたのが〝炎〟だったのは、キミとの相性が最も良い属性だったんだと思う。ほら、キミって、火属性の精霊ばかり食べていただろう? 味的にも好みだったらしいし』
うっ……まさか、それが起因してきたというわけだったとは……。
つまり、甘く感じたというのも、それに繋がってきそうだ。〝甘く感じた〟というのは結果だけであって、そう感じた理由としては、属性と俺の相互的な相性によるもの……という感じだったというわけだな。
『飲み込みが早いね』
『まあな。それが俺の長所だからな』
今度からは、そういった『属性転換』にも力を入れてみよう。それと、安定して『特化形態』になるコツも掴まなければ。
やるべき事は多いが、幸い時間もある。ゆっくりと身につければいい。
個人的には、〝炎〟の属性が選ばれた理由に〝怒り〟があるような気がしてならない。
ほら、〝怒り〟や〝嫉妬〟って、〝炎〟として表される事があるだろ? 嫉妬の炎とか、燃え盛るような怒りとか。
そういうものもありそうだった。まあ、感情に左右されるならば、使いづらい事この上ない力だが……制御出来れば、一気に主力に化けそうである。
この『属性転換』──言うとすれば『形態変化』だろうか。これの習得が最優先事項になりそうであった。
絶望こそしたこの世界だが、なんだか楽しくやっていけそうである。この『形態変化』も、ヒーローのようでカッコイイしね。
そんな事もありながら、俺達は森をどんどんと北上していく。
◇◇◇
「手荒な真似はさせるなよ? 死にたくなけりゃ、身ぐるみ置いてけェ!!」
目の前には、いかにも粗暴そうな、大柄な男達。
山賊……。確かに居そうなものだが、本当にいるとは。この世界でもこの類に出会うだなんて、俺にはそういうものを引き寄せる体質でもあるのだろうか。
「すまないが、金になりそうなものなんて持っていないぞ? あって、汚い魔物の毛皮くらいだ」
汚くはないけどね。洗浄しているし。
まあ、そのくらい言わなきゃ引き下がってはくれないだろう。
「魔物の毛皮!? おいおい、高級品じゃねーか! 尚の事だ、置いてけ」
あ、そうなんだ。
魔物の毛皮って、高級品だったんだ。割と身近にあるものだったし、調べる暇もなかったので知らなかった。
「…………」
「……」
トリステスさんが、なんで余計な事言うんですか──という、ジトッとした目で俺を見る。
やめてください、故意ではないんです──と、心の中で講義しておいた。
さて、どうしたものか?
あまり、暴力には頼りたくない。あの時こそ怒りで我を忘れていたので何も感じなかったが、俺に人殺しなんて荷が重すぎる。
ただでさえ、今は背負っているものが重いのだ。これから背負うものを考えたら、そんな事するべきではない。
ただ……相手は山賊。法律はもちろん、綺麗事なんて通じるはずもない。彼らはこの行為で生計を立てているので、やめるわけもない。
さもありなんってやつだな、仕方ない。
となると……限界まで言葉でどうにかしようとは思うが、場合によっては暴力による制圧も視野に入れようか。
「ちょっとそれはマズイな。俺達にだって生活があるんだ」
今のところはそんなものないけどね。
「そうだねえ。これが盗られたら、せっかくのボクらの快適な暮らしがなくなっちまうぜ」
あっ、ルディア……なんて余計な事を言いやがるんだ……。
これじゃきっと……。
「あァん? 知ったこっちゃねーよ! それによ、快適な暮らしだと? チビが、生意気なんだよッ!」
あっ、お相手さんも……。
今コイツ、ルディアに〝チビ〟って言わなかったか……?
お、終わったな。多分、俺が出る幕もない。だって──
「……へえ、キミ、その程度の実力の分際でボクに〝チビ〟とか言うの? それとも違う人の事? そうじゃないよねえ? もしかしなくともキミ、殺されたいの?」
ルディアが、実に穏やかな表情で山賊のリーダーと思われる男に詰め寄る。
あーあ、終わったな。
実はルディア、身長について言われるのが大嫌いなのである。
ある時──
………
……
…
「意外に小さくて、フィエットを思い出しますわ」
ある時、トリステスさんが俺を見ながら言った。
ちょっと重い会話だ。そんな事言われると……ねえ? ちょっと居た堪れないというか、なんというか……。
「俺だって、ルディアよりは高いぞ」
つい、そんな事を口走ってしまったのだ。
俺としては、これで少しは空気が和めばいいなと、そう思っての発言である。
しかし──
「うん? 何か言った?」
凄まじい怒気を含んだ声で、ルディアが俺を威圧した。口調としては穏やかなものだが、それに含まれた怒気と苛立ちは、俺からして肝が座っていると評するトリステスさんでも身震いしていたほど。
身長について触れるのはご法度だった。
少し考えればわかる事だ。前世では、俺だって身長イジりに嫌な思い出がある。
どうして思い出せなかったのか──。
………
……
…
それ以来、ルディアの身長について触れるのはご法度になったのだ。
怖いからね、怒った時のルディアは。
それを、この山賊達は……。
事情を知らないとはいえ、地雷を踏んでしまったコイツら。流石に同情してしまうので、御冥福をお祈りしますといった所存である。
ルディアが動く。
リーダーの男に足を引っ掛け、転ばせる。
尻餅をついた男の膝の上に乗るようにして起き上がるのを妨害し、リーダーの男に迫った。
「ねえ?」
「ヒッ、ヒィ!?」
「もうさ、こういう事しちゃダメだよ? 不幸しか生まないんだから」
「しっ、しません! もう二度とこんな事しません!!」
「誓える?」
「はいっ! 誓いますゥ! もう二度としないので、どうか命だけはァーー!」
無様だな……まあ、ルディアの身長について言及したコイツらが悪いんだが。
ルディア、ホントにやるときゃやるって感じで容赦ないよね。
「フフ、わかったよ」
それだけ告げたルディアが、リーダーの男の顎に指で触れる。
すると、男は魂が抜けたように気絶した。
「「「ガイさァーーーんッ!!」」」
山賊の下っ端共が名前を呼んだので、この男の名前がわかったぞ。
ガイ……普通にカッコイイ名前で羨ましい。ま、俺の〝アヴラージュ〟の方が数千倍はカッコイイけどな。
「キミ達も、もうこんな事しちゃダメだよ?」
「「「ウッス! この度は、大変失礼致しましたァーーーッ!!」」」
立ち上がったルディアがそう告げると、山賊達は全員息ピッタリで答え、気絶したガイを抱えて去っていった。
「…………ふぅ。嵐のような男達でしたわね」
「そうだね。ルディアの地雷を踏んじまったのが運の尽きだな」
俺達に出会った時点で尽きているようなものだが……まあ、触れまい。
「それにしても、珍しいな、ルディア?」
「え?」
「殺さなかったじゃないか」
「殺した方が良かったかい?」
いや、別にそんな事はないんだけどね──と、後悔する。迂闊だったな。
すぐに失言してしまうのも、俺の悪い癖だ。気をつけよう。
なんやかんやで……嵐のような山賊達に出会ったが、進行状況はまずまずと言ったところだろう。明日には、目指す先──アグニル王国には到着出来そうであった。
結構、思っていた以上にスムーズに書けます(書く事が思いつきませんでした)。




