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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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第65話 The unknown world-記録されていない世界-Ⅰ

 お久しぶりです、暁悠です。

 本当、お久しぶりですね。

 今回から、仮称〝魔界〟編となります。

 …………。

 どうしてこんな事に……。

 今の俺は、シュトルツと共に〝シュッド政府軍輸送車両〟にて、〝中央政府〟へ護送されている。

 ……厳重に拘束されて。

 全く聞いた事もない地名。ルディアから世界地図を譲ってもらってはいるが、確かそこにも書いていない地名だったが……もしかしたら、『過去の世界』という線もあり得る。シルティオスがそうであったように、『時間』に干渉するスキルはある程度存在すると思われる。

 しかし──


「聞かない地名だ」


 シュトルツも知らないようだった。

 つまり、仮に「過去」だと仮定して、シュトルツが知らないという事はここ一万年ではない。ただ……これは、言わば希望的観測。

 真実はたぶん──


《別世界、だろうね。母さんが使った〝異境(いきょう)(ちょう)(えつ)()(かい)〟は、人為的な〝界渡り〟を実現する神業だ。その情報は持ってる。ただ、母さんがそれを本当に行使したというのなら……》


 ……ここは、別世界である、と。


《そうだね》


 マズったなぁ、これは……。



   ◆◆◆



 カピタル中央政府、その中心部に位置する一本の塔。

 全面ガラス張りで、階層数は約八十一階層。今までアヴラージュが生活していた世界からは考えられない技術である。

 名を、〝首都政塔(トゥールカピタル)〟という。中央政府にて、政府そのものと……世界全体の簡易統治を担い、中央政府に住まう王達の根城。

 その最上階にて──


「……どう思う、リリスちゃん?」

「どうって……例の、過密霊子振動反応……の事か?」

「そのとおり♪ かなり大きなエネルギー反応だったもの。技術部の情報を受けたうえで、副知事の意見を聞きたいの。それで、どう?」

「どう、と言われても……。吉と出るか凶と出るかは不明だが……近いうちにある〝あれ〟に深く関わってきそうなのは確かだろう」


 八十一階の大部屋、その中央にある如何にもな椅子に腰かけた、桃色の髪の少女に(たず)ねられた、リリスと呼ばれた群青色の髪の女性が答える。


「そっか、リリスちゃんはそう考えるか」


 桃色の髪の少女が意味深に呟く。


「また意味深な……そんなキャラだったか?」

「それっぽい事を言ってみただ~け♪ でも、そうだね。こんな時に、だもの。そう考えるのも仕方ない……」


 それから、その少女が言葉を紡ごうとしたところで──


「メイズ!」


 バンッ──と大きな音を立て、扉が開かれる。

 入ってきたのは、向日葵(ひまわり)色の美しい髪をボサボサにした、背の高い女性。


「あらアンジちゃん。そんなに急いでどうしたの?」

「惚けている場合じゃない! シュッド政府軍警察が、対象二人を捕らえた。一応は、中央政府に護送するよう言ったが……」

「対話は可能なの?」

「らしい。受け答えも、ちゃんとしている」

「そう……。だったら、ここに連れてくるよう伝えてくれる? 久しぶりの出番が来たジャンヌちゃん達には申し訳ないけど、これは私がやるべきだと思うの。私とアンジちゃん達でね」

「……わかった。一応は警戒態勢を敷いておいてほしい」

「当たり前よ♪」


 会話が終わると同時に、アンジと呼ばれた女性は慌ただしく部屋から去った。


「さて……ここに連れてこさせるとは、踏み切ったなメイズ」

「まぁね♪ 気になるもの、仕方ないわ。そんな事より……」

「ああ、護送されてくる二人だな?」

「そうよ」


 問題はそこであった。

 突如として発生した、強大な霊子振動反応。そしてその中心部に現れた、二つの生命反応。

 護送されてくるというその二人が、この世界にどう影響してくるのか?


「それを見通し、調べるのが私、第一軍団長及び、十二使徒筆頭メイズ・ロワイヨームの責務よ。偉大なる魔皇様の代わりに、責務を全うしなければならないもの」


 それに、リリスは物憂げに頷く。


「……そうだな」



   ◆◆◆



「君、出身は?」


 この空気、プリティヴィエ以来ではないだろうか?

 警察による任意同行……というやつである。

 長い護送を経て、中央政府軍警察に引き渡された俺達である。


「ええと、出身は──」

「プリティヴィエ・ゼルハーク地帝国……なんだが」

「聞いた事のない地名だな。地図にもない……」


 話しながら、警察官の色の違う右目が明滅していた。右耳には耳を覆うようなデバイスが。とても機械的な見た目で……この点でも、前までいた世界とは一線を画す技術力が存在するのだと察せられる。


「まあ……いい。一応は、今は留置という形なのでな」

「留置?」


 留め置き……つまり、ずっとここにいるわけではないのだろう。当たり前だが。

 では、どうするのだろうか?


「カピタル中央政府、〝首都政塔(トゥールカピタル)〟に住まうメイズ・ロワイヨーム殿下より、保護・護送した者達を連れて来いとのご命令があるのでな」


 ほう……?

 メイズ・ロワイヨーム……これまた聞かない名前だな。


《そうだね、ボクも知らない……》


 ルディアが知らないとなると、やはり別世界説が最有力か……。


「もう少ししたら、(しゅ)()政塔(せいとう)本部から近衛騎士団が──」


 その警察官が、そう言いかけた時──


「その必要はない」


 一人の女性の声が聞こえた。

 若い声にも、年老いた声にも聞こえる、そんな声。


「リリス様ッ」


 俺達に質問していた警察官の男が、立ち上がって敬礼した。

 リリス……。


「おう」

「どうしてここへ……? 近衛騎士団が来るのでは……」

「事情が事情だ。危険度から推定して、騎士団より私が直接出向いた方が安全だ」


 何やら色々と話しているが……口ぶりからして、そこそこ偉そうである。そして、本来ならば来るはずだった騎士団の代わりに来たのがこの女性……。


「とりあえず、首都政塔(トゥールカピタル)まで二人を連行する。心配ない、メイズから『(オウ)()鎧装(ガイソウ)』の許可は貰っているさ」


 さて、また別の場所に連行されるらしいが……。

 …………。

 とりあえず、考えるのはやめよう。今のところ、考えたって無駄らしい。



   ◇◇◇



 そうして連れて行かれた先は、一本の高い塔……とは言っても、全面鏡張りで、とても近代的。俺達が元居た世界ではこんな技術力は成長していないので、やはり別世界。

 何度も確認しているけど。

 中に入り、とても厳重そうな昇降機(エレベーター)に乗り込む三人。

 ……。

 無言の一時。

 かなり気まずい。

 てか、何階あるんだ、このタワー?


「……八十一階だ。高いだろう? こういう時、暇だよな。私もだ」


 気を遣ってくれたのか、リリスさんはそんな事を言い始めた。

 見たところ魔族っぽい。俺達がいた世界に存在していた魔族と同じ、山羊(ヤギ)のような角がある。

 しかし……先程の気遣いもそうだが、前の魔族とは精神性からして根本的に違う。前の魔族は、人間を理解(わか)ろうともしていなかった。それでも人間の心理や行動を知っているかの如く話していたのは、人間を欺く為か、それとも単なる、自身とは違う種族への好奇心か。

 まあ、大体はそんな理由だ。しかしリリスさんは……騙している可能性も無きにしも(あら)ずだが、そんな様子は今のところ見られない。信頼するには足らないが、ひと先ずは警戒、という形でいいと思う。

 何より──


「…………」


 リリスさんも気まずそうだ。

 これはもう、俺が知る魔族とは全く別の種族と考えていいだろう。

 シュトルツもひと先ずは俺と同じ結論に至ったようで、特段、何か攻撃を仕掛けようとする様子もない。まあ、俺より冷静で博識なシュトルツだ。ここが別世界であるという確信を持った時点で、違うだろうと思っていたんだろうがね。


 そんな事を長々と思っている内に──


『八十一階です』


 機械音声が鳴った。驚いたのか、シュトルツの目線が機械に固定される。

 俺にとっては聞き慣れた音声だったが、シュトルツからしてみれば魔力反応もないのに『思念』が聴こえる……という、怪奇現象にも近しい感覚だっただろう。びっくりするのも頷ける。


 昇降機(エレベーター)の扉が開く。少し焦らすように、目の前にも一枚の扉があった。

 最上の、八十一階。首都政塔との事だったし、政治の主要施設なのは間違いない。その、最上階。

 一体どんな存在がいるのか……。


「待たせたな」


 その大扉を開けると同時に、リリスさんがそう言った。

 そして、その声に応える者が一人。


「全然。むしろ想定より早いわ♪」


 桃色の長い髪は美しいが、背丈は子供のそれ。椅子に座っているからか誤魔化せているが、どうやら足は着いていないようである。

 髪とは対照的な空色の瞳もまた美麗だ。そんな美少女とも取れる人物が、政治の重鎮のように椅子に座っていた。


「そうか。この二人が、例の──」

「発生した霊子振動の中心地にいた二人、ね。わざわざ言わなくてもわかっているよ♪」

「……そうか」


 それだけ会話を交わして、リリスさんはこちらを向いた。リリスさんと話していたと言うのに、美少女の視線はずっと俺達に固定されていた。


「二人とも、自己紹介を」


 おっと、そういえばリリスさんにも名乗っていなかったな。事前に来る事は知らせていたようだし、俺達の名前を知っていてもおかしくないが……一応ね。


「俺はアヴラージュ。よろしくお願いします」

「シュトルツだ」


 未だ警戒中なのか、シュトルツの自己紹介は淡白なものだ。


「アヴラージュくんにシュトルツくんね。覚えたわ♪」


 桃色髪の少女が、そう言った。

 色々な人と関わってきたが、〝くん〟付けは初めてである。なんだかむず痒い……。


「それじゃあ、今度は私とリリスちゃんの自己紹介ね」

(おおやけ)の場で〝ちゃん〟付けはやめろと何度も言っているだろう。……私は、リリス・ロワイヨーム。魔界軍第三軍団長兼カピタル中央政府副知事だ」


 何とも……何ともな身分である。というか、軍団とかあるのか、この世界……というか、国?

 で、リリスさんが副知事……。つまり、あの桃色髪の少女こそ──


「よしよし♪ それじゃあ次は私。私は魔界軍第一軍団長兼カピタル中央政府州知事……メイズ・ロワイヨームよ♪」


 やはりこの少女──メイズさんこそが、俺が今いる州、〝カピタル中央政府〟の州知事だったようだ。

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