第14話 外れる箍、嵌る運命
少しして落ち着いてきた。
俺、最近泣いてばかりだな……。
「どうだったかな? ボクの……ボクと彼女のサプライズプレゼント」
俺の視線の先には、燦然と光り輝く黒剣。
「……最高だったよ」
「それは良かった。ボクも満足だよ」
「……本当にありがとう、ルディア」
「しかし、暇に戻ってしまったね」
なんて事言いやがる!
俺の感動を返せ! ……ってのは、流石に暴論か。
「ま、そうだな。何か騒ぎでも起きりゃいいけど、そんな都合よく──」
そう言いかけた、その時だった。
「魔獣が出たぞーーーーー!!」
俺達の耳に入る、そんな悲鳴。
──まったく。本当は騒動なんて起きてほしくないのに。
どこのどいつか知らんが──
「「本気にする奴があるか!」」
同時にそう叫ぶ、そんな俺達だった。
俺は立てかけていた黒銀蒼の竜剣を手に取って、ルディアと共に声の方向へ走り出す。
「ソレの試し斬りでもしてみたら?」
「そうだな。機会としても、ちょうどいい!」
そう叫びながら、俺は翼を広げて高く飛翔する。
確認すると、比較的広い街道でドラゴンのような魔獣が暴れていた。
しかし、少し奇妙だ。ドラゴンと断言するのは、少し違う気がする。
何か──様々な生き物が混ざったような、キメラ……?
そんな事を考えていたが、その魔獣の爪が人々に迫っていた。もはや、考える時間もない。
「一刀両断──紅炎」
地に降り立つと同時に、黒銀蒼の竜剣で魔獣の右前脚を斬り落とす。
素晴らしい切れ味だ。この魔獣は全身が龍鱗に覆われていて、一見するとこんな剣じゃ斬れそうもなかったというのに。
少しも力を入れずに、降り立つ時の勢いに任せて振り下ろしただけ。それだけで、いとも容易くスパンと斬れてしまった。
「グガァ──ッ!?」
相手が怯んだ隙に、俺は準備をする。
息をするように自然に、最上級の精霊魔法である〝獄炎霊熱覇〟を発動させ、黒銀に輝く刀身に纏わせる。
「獄炎斬──烈火」
そのまま、魔獣を一刀両断。
文字通り真っ二つに割れた魔獣は、生命活動を停止した。
ちなみに〝獄炎斬:烈火〟というのは、俺が即興で名付けた必殺技である。今度、ちゃんとした必殺技名も考えなければ。
しかし……本当に素晴らしい切れ味だな、これ。素晴らしいというか、凄まじい。
そして──
「黒幕はお前か」
物陰に隠れていた存在を、俺は見逃さない。
「──ッ!?」
「バレてんだよ、馬ァ鹿!」
俺はその者にも、容赦なく黒銀蒼の竜剣を振り下ろす。
──が。
「──ったく。手荒な真似はしたくないんだよ、オレは」
男がそう呟いたかと思うと、男は俺の腹部に平手で触れる。
避けられない。
知覚は出来るが、行動が間に合わない。
「カハッ──っ!?」
何が起こったのかわからない。
気づいたら、俺は謎の力に吹き飛ばされていた。
「気づかれてはいないようだが……気づかれたらどうしやが──」
そこで、その男は何かを感じ取ったように空を見上げた。
そこには──
「……そうなのかい。キミも、何か感じたのか」
ルディアがいた。
てか、キミもって?
「お前か、ルディア」
「久しぶりだね、シュトルツ」
知り合いなのかよ……。
「今は何を?」
「せっかく隠密活動していたというのに、コイツにバレてしまった。人間というのは姑息な輩が多いからな。今から殺──」
シュトルツと呼ばれたその男がそう言いかけ、俺も身構えた。
しかし──
「今、なんて?」
ルディアが、見た事もない怒気と覇気を放ちながら、シュトルツにそう問いかけた。
本当に凄まじい怒気である。それこそ、身長について触れられた時以上である。
「ちょっと気に入らないな。アヴも着いてきてね」
「は──?」
そう問い返して瞬きをした次の瞬間には──
周囲の景色が、一変していた。
先程までアグニル王国の王都にいたハズなのに、今いるのは不毛の荒れ地である。
「……お前、何のつもりだ」
「ボクの大切な親友を殺す、なんて言い出したのはキミじゃないか」
「……そうか」
また、瞬きする間に事が動いた。
黄金に輝く三鈷剣を持ったルディアが、シュトルツに斬りかかっていた。対するシュトルツも、自身の腕を覆う甲殻で黄金の刃を受け止めている。
「クッ……やはり厄介な武器だな」
「母さんの特製だからね」
「チッ」
シュトルツは腕に力を入れ、ルディアを弾き飛ばした。
そして、腕を覆う甲殻が消える。それを見て、ルディアも刃を降ろした。
「お前、変わったな、本当に」
「まあね♪ それだけ、あの子が大切なのさ」
「……そうか。気になったぞ、お前にそこまでさせる存在が、どんな存在なのか」
うん?
何か……イヤな予感が……。
「そこのお前」
「……あ?」
「明日、またこの場所で会おう。それまでには、オレに太刀打ち出来る程度にはなっておけ。……期待しているぞ」
それだけ言い残して、シュトルツはその場から消えてしまった。
何だったんだ……?
「まったく。自由なのは、前から変わっていないね」
「前からって……面識、あったのか?」
「まあね。というか、彼もボクらと同類さ」
「……つまり」
アイツも概念竜って事かよ。
「大正解! 何を司るかは……彼に勝って、彼自身に教えてもらおう」
知りたきゃ勝てって事ね。
さて、どうしたものか。
多分、アイツに勝つには『形態変化』を使いこなしとく必要がありそうだ。
「それもそうだけど、練習方法を間違わないようにね。彼を相手にするなら、〝多様性〟よりも〝一点特化〟だ。炎が得意なら、それだけを極端に伸ばすのをおススメするよ」
ま、そうだな。
しかしまあ、問題もあるわけで……。
それは、アイツが使う摩訶不思議な反発力だ。アレには耐えられない。
吹き飛ばされた隙を狙われたら一巻の終わりなので、それは避けたい。
だが、どうしたらいいか……。
「悩んでたって仕方ない。もうすぐ二時間経っちゃうし、そろそろ戻ろう」
うーん、確かにそうだな。
もしかしたら、早めに終わったとかで、俺達がいなくて焦ってたりするかもな。
◇◇◇
「もーーっ!! 一体、どこで何をしていたんですか!!」
冒険者ギルド・アグニル王国〝アーグ〟支部の前で響き渡るのは、あの快活な声とは打って変わって、心配と焦り、怒りが混ざったような悲鳴にも近しい怒号。
「……ごめんなさい。魔獣が出たと聞きつけて……」
「街中に!? というか、討伐しに向かったんですね!?」
「まあ……はい……」
「あっ、貴方! 貴方、何考えてるんですか!? 王都内に入ってくる魔獣なんてヤバイ奴でしかないんですから、関わらない方がいいですよ!! ただでさえ、仲間を失って傷心中なんですから……」
ああ、そうか。そうだったのか。
この人は、その事を……。
「──ははっ、大丈夫ですよ。見たでしょ? コイツの規格外数値」
そんな事、心配しなくていい。
貴女を、俺は巻き込みたくない。
心配してくれるのは嬉しいけど、そのままだときっと、いつか巻き込んでしまう。
だから、俺は笑うのだ。
「そうですけど……でも……」
「大丈夫ですって。なあ、ルディア?」
「そうだね。ボクがついてるから、これ以上人が死ぬ事はない。……ように、したいね」
ルディアも、流石に断言しなかったか。
人が死ぬのを防ぐっていうのは……コイツを持ってしても、断言出来ない程に難しい事なのか……。
「────わかりましたっ! 今日の事は、一旦は不問とします。本来の目的に戻ります」
ホッ、何とか踏み留まってくれたようだ。
ひとまず、シュトルツの事は隠しておこうか。いらぬ心配をかけてしまいそうだしな。
………
……
…
「だぁかぁらぁ、なんれみんな無茶ばっかりするんれすかぁ! ほーこく義務があるわらひの身にもなってくらさいよ! それに──」
目の前で愚痴を垂れるのは、お酒を飲んで酔っ払ったアデルさん。
常日頃から溜まっていたストレスが、今ここで発散されているようである。なんとも危険な雰囲気しかしないが、まあいいだろう。
「ほらほら、キミも飲みなよ」
「お、お前も酔っ払ってんな……?」
「うん? そんな事ないよ? でも、酔っ払ったキミは見てみたいなぁ」
「俺目当てかよ!?」
まったく、とんでもない奴である。
酔っ払った俺の姿に何の需要があるのか……。
「でもさ、キミ、最近は緊張の糸をずっと張り詰めているだろう? ここいらで緊張の糸を解すのもいいと思うけどね」
……確かに、そうかもしれない。
直近の俺は、何かを失って、泣いてばかり。それからというもの、ずっと糸を張り詰めさせていたのかもしれない。
「肩から力を抜いてさ、たまには羽を伸ばそうよ」
「……そうだな」
そう思ったので、俺は試しに一口飲んでみる。
前世では炭酸の弾けるような感触が嫌いだったが、今になってみるとそこまで苦でもない。
なんというか、心がふわっと軽くなるような……そんな感触を味わった。
「アハハっ、キミって、結構お酒弱かったんだね」
「ふぇ……?」
顔が熱い……顔というか、全身が熱い……。
頭も働かんし……。
このままだとヤバイ気がする……。飲みすぎると二日酔いになるし、留めておかねば。
そうは思いながらも、もう一杯。お酒って意外と美味しかったんだな。あっという間にほろ酔い気分である。
ただ、俺が酔っ払うわけにはいかない。目の前には既に厄介な酔っ払いがいるので、彼女を運ぶ役は自然と俺に押し付けられるだろう。
なので、俺が酔っ払っては本末転倒……そんなわけのわからない思考に頭を支配されながら、俺はまたお酒を一口。
「呑むねえ」
「まあな。意外と美味しいし……」
「酔っ払い過ぎないでよ?」
「誰がそんな事するかよ。〝酒は飲んでも呑まれるな〟って言葉もあるし、用心はするさ」
「しかし、酔っ払った顔もやっぱり綺麗だね」
「そりゃそうだ。この姿は、フィエットから託されたようなもんだし」
そうなのだ。ルディアによる『解析』で、俺にフィエットのユニークスキルが、彼女自身の意思で委託されていた事が判明したのである。
それは、『美貌』というユニークスキル。彼女が生まれながらに持っていたユニークスキルで、彼女が迫害された原因にもなったもの。
美貌とは本来、美しくて好いもののはずなのに、生まれた場所一つで死まで追いやられたというのは……なんとも、皮肉や悲哀を感じるものである。
少ししんみりした気持ちになってしまった。
「無理はいけないよ」
「馬鹿言うなよ。無理なんてしてないさ」
そう言いながら、俺はルディアの手を握る。
「俺にはルディアがいるし、何も心配なんてしていないし、俺でも無理な事はお前に押し付ければいいしな!」
俺は無邪気に、そう笑うのだ。
それを言われたルディアといえば、少し頬を赤く染めるだけだった。
今度は少し長くなってしまいました……。




