第12話 慟哭
シャムを灼き殺した事で怒りが鎮まってしまったのか、俺の『変化』も解除されているようだった。紅蓮の色だった髪は、元の美しい純白の長髪に戻っている。
見てみると、戦いの余波だろうか? 地面が熔岩のようにグツグツと煮え滾っていた。我ながら恐ろしい力である。
「凍結裂傷冷流」
そのままはマズイので、マグマの部分は凍結して冷ます事にした。
……のだが。
なんと厄介な事だろうか。凍らせたそばから熔けていくので、中々冷却出来ない。
「困ったな……」
「ホントだよ」
「お?」
いつの間にか、ルディアも冷却に加わっている。単純に効率が二倍化したので、時間はかかれど一人でやるより断然早く冷却が終わった。
◇◇◇
「トリステスさんは?」
「そこだよ」
見てみると、トリステスさんの遺体はルディアが作り出したであろう結界に包まれていた。
「キミが発する熱は大き過ぎるんだよ。ボクが全力の結界で保護してなきゃ、この女性の遺体まで熔けてたよ?」
うう……それはマズイ……。
激情に駆られて行った事とはいえ、反省せねば……これからは暴走しないようにしよう。
俺はトリステスさんの遺体を優しく抱きかかえて、翼を広げて飛翔する。
──ああ、この世界は、なんて。
せっかくだ。彼女と……娘さんと同じ場所に埋葬してあげた方が、彼女も幸せだろうと思って。
──なんて、残酷なんだろう。
母娘揃って……その体が血に染まっていても、その顔は、安らかで……美しいままだった。
「……で、どうだい?『形態変化』の方は」
「切り替えの早い奴だな、血も涙もないのかよ。……うーん、感覚は掴めたけど、喪ったものが大き過ぎる」
本当に、大き過ぎる。
飛翔しながら、俺はそう思ってしまう。
「……アイツは、何だったんだ? お前、何か知ってそうだったよな」
「……ボク達と、同類だ」
ボク……達?
「ボク達って?」
「キミとも、って意味だよ」
「は?」
どういう事だ?
アイツは……俺と、同類? 文脈的に、比喩的な意味じゃなさそうだが……だったら尚更、どういう事だ?
「いい機会だし、教えてあげてもいいか。ボク達はね、その身に概念を宿す生命体──概念竜という存在に部類されるんだ」
概念竜。
一つの概念そのものを司る存在。
俺は自然を統べる竜──つまり、〝自然〟の概念を司る竜らしい。だからこそ、自然の具現化である精霊の力を自由自在に扱えるわけだ。
しかし、シャムが何を司っているのかはわからないらしい。
「でも、思い当たる節がある。あれって、ボクを元に生み出されたんじゃないかな」
ルディアを……元に……?
確かに、シャムの見た目はルディアに似ていた。違う点といえば、言葉遣いと瞳の色くらいだ。ルディアはどこまでも深い青色の瞳だが、シャムは色が抜けたような灰色の瞳だった。
「そういえば、お前が司る概念って?」
「──始まり。ボクは、〝原初〟の概念を宿す──〝原初の竜〟だ」
衝撃だった。
得体の知れない奴。強いとは思っていたが、まさか……始まりという概念そのものを司るような、そんな存在だったなんて。
「でもね、ボクと同じような力は感じなかった。何かが始まる力、始める力……転じて、創造する力はね」
うん?
ルディアを元に作られたが、司っているのは違う概念……って事か? てか、そんな事あり得るのか?
「そんな事あり得るのか、って顔してるね。それが、思い当たる節だよ」
「ふーん。どういうのか早く聞かせろよ」
「破壊だ」
「は?」
「ボクの〝創造〟の概念──それを反転させた〝破壊〟の概念だと、ボクは思う」
意味がわからない。
じゃあ、何だ? シャムは、万物を自由自在に破壊出来る能力を持ってた、とでも言うのか!?
「正解だね。でも、上手く扱えていないようだった。上手く扱えるなら、アヴに触れた時点でアヴが消滅していただろうから」
末恐ろしい奴である……。
シャムが能力を十全に扱えなくて、本当に幸運だった。
終わった事にとやかく言っても無駄だが、本当に良かったと、そう思うのだった。
◇◇◇
フィエットの墓の隣にトリステスさんの墓を作り、手を合わせる。
──すまない、トリステスさん。貴女の事を、守りきれなかった。
心の底から謝辞を述べ、俺は立ち上がる。
──なんて残酷な世界だと、そう思う。どうして、俺から奪うんだ。
俺が何か、世界にとって不利益な事でもしたのか?
そんな憶え、俺にはない。
じゃあ、何なんだ。
どうして、奪われてしまう。
「……キミは、危うい存在だね」
危うい?
そりゃあ、そうなってしまうのも頷ける。
だって──
「俺はこの世界に来て……失ってばかりだ」
俺は何も守れていない。
概念竜なんて凄そうな種族に転生した癖に。
力がある癖に。
何も守れてなどいなかった。
「なあ、ルディア。俺は──」
そこまで言った時──パァンという音を立てて、ルディアが俺の頬を叩いた。
「……え?」
「何、情けない事言ってるの」
「……え、ええ……?」
「失ったものばかり数えてないで、次に守れるものを見なよ」
それは、正論だ。
確かに、失ったものばかり数えていても、幸せになんてなれはしない。
けど、それでも──
「それでも……俺、俺は……俺に、守れるものなんて……もう……」
「ボクだ」
「え……?」
「ないんだったら、作ってあげるよ。キミは、ボクを守るんだ。ボクも、キミを守るから」
最初こそ、何を言っているかわからなかった。
けれど、それが理解っていく内に、俺の心から熱いものが込み上げてきて。
「ボクはキミが必要だ。これからも、ヨロシクね」
「うっ、ううっ……俺、おれ…………」
俺は、目の前の青年──ルディアに縋り付くように、激しく慟哭した。
「うん……よろしく、るでぃあ……」
ちょっと短くなってしまったかも……って、言ってばかりですね。
危うい依存関係を築きそうな二人になってしまいました。




